ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.50 )
- 日時: 2013/09/24 20:07
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: Q4WhnRbg)
Chapter 5.
3
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その女は、俺とシーニーを交互に見て、再び俺を見て、
ちょこん、と首をかしげた。
「えっと、お客さん?かな。たぶん人違いだと思いますケド……」
その仕草とセリフで、俺は自分のほうが早とちりしてしまっただけだと気づいた。
「あ、あ〜……悪ぃ、あんまり似てたもんだから」
「あはは、よくありますよね。気にしないで!私もたまにやっちゃうミスですから」
明るくそう言って、その女は元気に笑った。
俺は確信した。コイツ、別人だな。
と、まぁそれが判明すると、次はまた別の疑問が浮かんでくる。
ルーフスを振り返ると、その本人は俺の反応を楽しむように笑っていた。
「……おい、誰だこの女?お前一人暮らしじゃなかったのかよ?」
「儂の嫁じゃ」
「嘘つけ」
寸秒でバレるジョークにルーフスは豪快に笑った。
「ちぃとは乗ってくれてもよかろうに、アーテルは相変わらず石頭じゃのう」
「あのな……」
女の方も赤面して、「ちょっとルーフスさんったら!」と恥じらうようにルーフスをたしなめる。
……なんだ、割と脈アリなのか?結局。
それまで成り行きを見ながらミルクをゴクゴク飲んでいたシーニーが、プハッとカップから口を離し口の周りに白いひげを付けながら尋ねた。
「それで〜、このお姉さんだぁれ?」
やっと我に返った女は、慌てて自己紹介した。
「あ、初めまして!私はアマレロ、ルーフスさんの居候です!よろしくお願いしますっ」
アマレロは、大きな編み籠を両手に下げたまま丁寧に深いお辞儀をした。金髪のつむじまではっきりと見える。
「そこまでかしこまらなくとも……。まぁいいや、俺はアーテル。ルーフスの旧友だ」
「僕シーニー。アーテルのタッグなんだ〜、よろしくね!アマレロお姉ちゃん」
シーニーの人懐こい笑顔に、顔をあげたアマレロもつられてニッコリ笑った。シーニーが人によく好かれるのは、こういった場面によく現れる。
「居候か。何だ、拾ったのか?山の中で」
俺が尋ねると、ルーフスが答えた。
「まぁ、外れてはおらんな。似たようなモンじゃと思うてくれ」
「私が勝手に押しかけちゃったんです、迷惑ばっかで……」
「それはなかろう」
謙虚にするアマレロに対し、ルーフスは心外だと言わんばかりに俺に彼女を紹介してきた。
「この娘は全く持って気立てもよくてのう。家事は愚か、綺麗な花を摘んできては飾ったりと細かい気配りもできてな、しかも一人の時とは違っていい話し相手にもなる。儂には勿体なさすぎるほどの良い娘じゃ」
アマレロは「ちょっと、そんなことは……」とあくまで謙虚に否定したがるが、顔が真っ赤である。やはり褒められて嬉しい本心は顔に出るようだ。
それにしても、そういうことか。テーブルの上の花籠は、このアマレロが造って飾ったようだった。まぁ、さすがのルーフスでもやはりそこまでの乙女趣味はなかったか。
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アマレロが持っていた編み籠には、たくさんのハーブや食べられる植物、そして大量の美しい花や可愛らしい花が入っていた。今まではこれらを摘むために外出していたらしい。
ハーブ等はともかく、観賞用らしい花のほうはここまで大量に採ってきて何に使うのか、と尋ねたところ、
「もちろん飾りますよ。それとあと、花冠なんかも編もうと思って!今日はルーフスさんによく似合いそうな赤いお花もたくさん咲いていたから、それでレイ(花の首飾り)も作ってあげようと思っているんですっ」
と答えられた。ニコニコ笑いながら元気に言う彼女は、本当にここでの暮らしを楽しんでいるらしかった。
「16年ぶりにいい嫁もらったな、爺さん」
「シシッ、羨ましかろう?悔しければおぬしも早う良き相手を見つけんさい」
「阿呆か」
そんな何気ないやり取りにも、アマレロは耳まで真っ赤にしていた。
なんだかな、コイツ……案外本気なんじゃないのか?
ルーフスは思いっきり笑いながら話しているので、先ほどから冗談で『嫁』だの何だのと言っているようだが。
花冠や花籠造りにシーニーも興味がわいたらしく、アマレロは「一緒に造ろうか?」と誘っていた。もちろんノリノリで賛成するシーニー。
ふと気づいたように、アマレロは俺の方も見た。
「あ、そうだ!アーテルさんも一緒に……」
「いや断る」
思わず即答でそう言ってしまい、アマレロは「そうですか……」とシュンとなってしまった。あー、そういうつもりじゃなかったんだが……。
とりなすようにシーニーが、「アーテルは不器用だから、すぐに茎とかボキィッ!って折っちゃうんだよね〜」と話すとアマレロは可笑しそうに笑った。
……お前な。まぁ今回は別にいいが。