ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.52 )
- 日時: 2013/09/25 20:00
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: UdOJ4j.O)
Chapter 5.
5
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パサッ。
編みかけの花飾りが、床に落ちた。
アマレロは次の瞬間、ものすごいスピードで俺に近づき、胸倉を掴まん勢いで詰問してきた。
「お姉ちゃんを知っているの!?いつ?どれくらい前、どこで!?」
紫の瞳は見開かれ、引きつっているようにも見える。
そのあまりの豹変ぶりに、俺もシーニーもルーフスでさえあっけにとられたが、アマレロが再度「答えて!!」と俺を揺さぶって我に返った。
「数日前、貴族の屋敷でだが……ちょっと待て、話すからお前いったん落ち着け!何があったかは知らねぇが」
俺が言うと、アマレロはハッ、となって慌てて手を離した。
そのままへたり込むようにその場に座り、力のない声で「あ、……すいません」とポツリと謝った。
ルーフスに勧められて椅子に座ったアマレロに、俺は一昨日のことを話した。
クエストで貴族の暗殺に向かった際出会った魔導師、そして彼に付き従っていたその使え魔。
その使え魔がアマレロに瓜二つな容姿をしていたこと。
そして何より、俺がグラウから聞いた情報……ヴァイスが、元は奴隷商人で、唯一連れ出した奴隷がヴィオーラである、ということ。
そこまで聞いて、アマレロは自我を取り戻しつつもやはりかなりの衝撃を受けたようで、しばらく茫然としていた。
が、その後、ふと俺に尋ねた。
「あの……お姉ちゃんは、元気そうでしたか?」
「ん?……元気、つうかまぁ……元気なのか?アレは」
表情が欠片も存在せず、抑揚に欠けながらもかなり上から目線なその口調。
身体的には、過度にやせ細っているわけでも肌の色が悪いわけでもないのでその面では『健康』なのかもしれないが。
とりあえずそう答えておくと、
突然、アマレロは大粒の涙をボロボロこぼした。
「え、ちょ……おい?」
焦って俺は思わず椅子から立ち上がったが、アマレロは「あ、すいませんそういう意味じゃないんです……!」と慌てて言いつくろい、涙を拭いた。
が、その両手がいくら拭っても結局涙はこぼれ続け、とうとうアマレロはしゃくりあげながら泣き出してしまった。
その時、アマレロは泣きながらも心底安堵したように呟いていた。
「よかった……無事だったんだ、また会えるかもしれないんだ……!」
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事情がよくわからないまま、それでもアマレロが泣き止むのを待って数分が過ぎた。
シーニーが甲斐甲斐しく、背中をポフポフと叩いたり撫でたりした効果もあるのか、アマレロは泣き止んでシーニーにお礼を言っていた。
「本当にすいません、いきなり泣き出しちゃって」
落ち着いた彼女は、訳を話してくれた。
「ルーフスさんからたぶん聞いたかなとは思いますけど……私、お姉ちゃんと揃って奴隷商人に捕まっちゃったんです。お姉ちゃんはすごく強いから、2人で出かけていても大丈夫だと思っていたんですけど……」
アマレロが話した内容は、こうだ。
もともとノーマル人間の、どこにでもある中流家庭に生まれたヴィオーラとアマレロ。
そのうち、ヴィオーラのみディヴィアントであったが両親はそんなことは関係なく姉妹のどちらも平等に育てていた。
むしろ、強靭な脚力のおかげで元からとんでもなく強かったヴィオーラは、妹のアマレロをボディガードのようにいつも守っていて、姉妹仲もとても良好だったらしい。
だが、それ故に油断したある日、ちょっとした好奇心で彼女たちは夜に家を抜け出し、2人だけで遊びに行ってしまった。
遊びといっても、ちょっと近くの辺りを散歩する程度らしかったが……暗闇ということもあり、ヴィオーラが気づく前に2人とも捕まってしまったのだ。——奴隷商人の手下たちに。
その後はルーフスから聞いた通り。
ヴィオーラは必死の思いで妹を逃がし、自分はその代わりにそこに留まったのだ。
アマレロはヴィオーラも共に逃げるよう説得しようとしたが、当の本人がそれを受け入れず残ったらしい。
「お姉ちゃん言ってたんです。『自分がお前の代わりに残らなければ、あ奴らは赤字になる。それを回避するために、あ奴らは追ってくるだろう』って。お姉ちゃん、小さいころから私なんかよりずっと頭よかったから、すぐにそんなことまで気が付いて……」
懺悔のように話し終えたアマレロは、また泣きそうになったが唇を噛んでなんとか耐えようとしていた。
俺は「そうか……」とだけ言って、それきり黙ってしまった。
何か気の利いたセリフでも言えればいいのだろうが、残念ながら俺にそこまでの話術はない。
ルーフスは無言でお茶を注いで、アマレロに差し出した。
そして、
「おぬしの人生も波瀾万丈、壮絶なものじゃったのう。よう頑張った」
それだけ言って、一回だけ頭を軽くポンとした。
アマレロは、「ありがとうございます」と茶を受け取って、また深くお辞儀をした。
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「すいません、結局アーテルさんの分の花冠作れなくって……って、なんか謝ってばかりですね」
苦笑しながらアマレロが言った。
すっかり時間も過ぎ、そろそろ返らなくては山の中で夜を迎えてしまう時間帯になったので、アマレロとルーフスは俺たちを玄関先まで見送りに来てくれた。
俺は若干笑いながらも、アマレロに言った。
「いや、気にするなって。そこまで落ち込むほどの出来事でもねぇし」
そんなことより、アマレロにとっては生き別れになった姉のことを少しでも知ることができたのだから、そちらを喜ぶべきではないのかと思ったくらいだった。
シーニーは腕をブンブン振りながら何回も振り返っていた。
「ルーフスお爺ちゃんアマレロお姉ちゃん、また来るからー!絶対アーテル引きずってまた来るから待っててねー!」
「俺もかよ!?」
思わず突っ込むと、ちょっと離れたところでも笑い声が聞こえてきた。
ルーフスもそれに乗って、言ってきた。
「おう、また来んさい!待っとるからのぅ、友人よ!」
にっこーり、笑ったシーニーは俺を見上げてきた。
「ほら、ルーフスお爺ちゃんもああ言っているんだからまた来ないと!友達なんだし♪」
お前なぁ……。
ま、いいか。たまにはまた来てやるのも。
「さっさと降りるか。夜には町に着いてねぇと」
「そだね〜、クマさんとか出ないかな?」
サラリと不吉なことを言ったシーニーを一回だけ軽く殴り、俺たちはルーフスの住む山を下りて行った。