ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.55 )
- 日時: 2013/09/26 20:44
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: UdOJ4j.O)
Extra edition1.
1 side shiny -シーニー-
- - - - -
——よく聞け。
いいかシーニー、「痛み」っていうのはどんな人間でも必ず持つ感覚だ。これが無い奴は、もはや人間じゃない。
だから、お前は人間だ。——
- - - - -
「ねぇ、遊んでよ!ねぇってば!」
必死に声をかけるけど、誰も返事をしない。
気味悪がったように怯えて後ずさる子、嫌悪を浮かべた表情で睨み付ける子、目すら合わそうとしない子。
先生は言ってたのに。
「ここにはお友達がたくさんいるから、ここで遊んでもらいなさい」って。
なのに誰も遊んでくれない。
……あーあ。つまらないなぁ、ホント。
大人たちが誰も相手にしてくれないから、先生に言われた通り僕と同い年くらいの子たちの方へ来たのに。
ベシャ。
何かが頭にぶつかった。
ドロリとした赤いものが目に垂れてくる。なにこれ?
拭ったそれを舐めてみた。すっぱい。
……トマトぶつけられた。
「こっち来るな!化け物、怪物!」
「気持ち悪いんだよ、お前なんか人間の皮かぶった『異常者』のくせに!!」
ものすごく怖い形相でそう叫ぶ男の子たち。
その陰で震える女の子たち。
ねえ、なんで?
僕、普通の人間だよ?
なんで誰も聞いてくれないのかな……おかしいよね。
ちゃんと正直に話せば怒らない、ってママも言ってたのに。
あれ、そういえばママってどこに行っちゃったんだっけ。
そういえば、どうしたんだっけ。
————。
- - - - -
気が付くといつも一人。
この施設に預けられて、もう……何年たったんだっけ。
ずっと待っているけど、ママは迎えにこない。
でもそれも慣れた。
もともとママと遊んだ記憶ってあんまりないから、もういいやって思っちゃって。
それより今は、一人で遊んでいるほうが楽しい。最近は虫を捕るのが楽しいんだ!
施設に入ったばかりの頃は、まだ僕は『一人で遊ぶ』っていうことを知らなかった。だから片っ端からいろんな子に話しかけて、仲間を作ろうとした。
でも、みんなはあんまりそういうのが好きじゃないみたい。
まぁ、好きじゃないことだったらしょうがないよねぇ。僕も嫌いなピーマンを無理やり食べさせられたら嫌な気分になるもの。
だから一人で遊ぶことを僕は考えた。
砂遊びや人形遊び、虫捕りもそうだし、一人でも遊べるものはたくさんあって、毎日が本当に楽しい。
……でも、やっぱり大勢でやる遊びもいつかはやってみたいな。
他の施設の子たちは、みんな毎日鬼ごっこやかくれんぼで遊んでいる。
その中でも一番おもしろそうだと思ったのは、『戦争ごっこ』。
丸めた新聞紙や木の枝を使って『兵士』の役をやったり、高い台の上に立って『司令官』になったり、すごく楽しそうな遊び。
何より、この遊びは1人じゃ絶対にできない遊びだ。
あ、今日もみんなが集まって戦争ごっこ始めてる。
「楽しそうだな〜」
ポツリと呟いて、僕は意識したわけでもなくフラフラと近づいて行ってしまった。
最初に僕に気づいた、背の低い子が「あっ」と声をあげる。こっちを見た瞬間、まるで大きな怖い犬に遭遇したような、怯えた顔をした。
だから、何にもしないのに〜。なんでそんな怖がるかなー?
その子を皮切りに、他の子たちも次々と気づいて僕を振り返る。
みんな、遊ぶのを止めて僕から距離をとるように後ろに下がり始めた。
僕は慌てて言い訳した。
「あー、なんでやめちゃうの、僕何もしないって。そのまま続けてよ、見てるだけで面白いのに」
でも、誰もその場を動かない。明らかに僕のことを信じていなさそうだ。酷いなー、もう。僕はオオカミ少年じゃないんだぞ。
んー、とりあえず、ここにいるみんなはもう、遊ぶ気をなくしちゃったみたいだ。つまんないの、遊ばない人たちなんか眺めていたって何も楽しくないや。
僕はちょっと困って頭をポリポリ掻いたりしたけど、状況は何もかわらなかったので「じゃあね、また気が向いたら遊んでね〜」とだけ言って帰ることにした。
施設に戻っていくまで、何回か振り向いたけど、結局僕が視界にいる間は誰も遊びを再開しなかった。
じーっ、とこっちを睨むように、見張るように見ていた。