ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.56 )
- 日時: 2013/09/26 21:26
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: UdOJ4j.O)
Extra edition1.
2 side shiny -シーニー-
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歳も何歳になったかはわからないけど、僕がこの施設に来てから2回目の冬を迎えたころ。
この地方では、冬に雪が降る。
だから、毎年施設の庭や周りの町なんかは真っ白になって、すごくきれいなんだ。
子供たちも、雪合戦をしたりかまくらを作ったりして楽しそうに過ごしていた。
僕も今日は、雪だるまや雪うさぎを作っているところ。去年より大きなヤツを作ろうと思ってるんだ!
冬の間は虫がいなくなっちゃうから、代わりにこの遊びでしのいでいる。虫と会えなくなっちゃうのは寂しいけど、これもこれですっごく楽しい。
それで、朝から張り切って雪玉をコロコロしていた僕なんだけど……。
さく、さくっ
急に雪を踏みしめて近づいてくる、何人もの子たちの足音が聞こえた。
何だろうと思って顔をあげると、5人くらいの男の子たちがこっちに向かってくる。
ボウリングのピンみたいに、一番背が高い子を先頭に並んだようにして歩いてきた。
僕が雪玉を転がす手を止めて見つめていると、やがて先頭の子は僕の目の前で立ち止まった。
見下ろしてくる。
僕は首をちょっとかしげて尋ねた。
「どうかしたの?雪玉ならあっちにもたくさん転がってるよ〜」
一緒に雪だるま作りたいのかな、と思ってそう聞いたんだけど、男の子はそれをスルー。
代わりに、こう言ってきた。
「お前さ、俺らと一緒に戦争ごっこしたいと思ってるか?」
その質問に、僕は一瞬反応が遅れた。
だって、いつも僕が遊びに誘っても、誰も相手にしてくれなかったんだよ?
それが、いきなりこんなこと尋ねてくるんだもの。
嬉しいに決まってるじゃないか!
僕は一も二もなく「うん!遊びたい!」と返事した。
すると、周りの男の子たちの表情がかすかに揺らいだ……ような気がした。
でも気のせいか。先頭の男の子だけは、僕の返事を聞くと心底楽しそうにニコッ、と笑ったから。
「よっし、じゃぁ今日は雪国の戦争だ!行こうぜ、……えっと」
男の子は、僕のことを呼ぼうとしてちょっと困った顔になった。
あはは、忘れちゃってるなんてうっかりしてるな〜。
「シーニーだよ。ほら、僕の目の色、青色でしょ。ママが付けてくれたんだ、『青色』って意味で」
そう言うと、男の子は「そうか」と言って改めて呼んでくれた。
「じゃ、行くかシーニー!」
- - - - -
雪玉はいったん放り出して、僕は男の子たちに施設の広いところまで連れていかれた。
大人たちはもちろんいない。それも当然で、戦争ごっこは危ない遊びで怪我をしちゃう子もいるから、大人たちはこぞってやめさせようとするからだ。
だから、すぐに大人に告げ口しちゃうような女の子たちは参加できない。それ以前に、女の子はちょっと傷をつけるとそれだけでギャーギャー騒いで遊びどころじゃなくなっちゃうし。
「ここがいいな」
背の高い子はそう言って、木の棒で地面に線を引き始めた。これが『領土』。ドッジボールのコートみたいなヤツだと思ってくれればいいと思う。
ちなみに、先ほどから僕に話しかけているのは背の高い、リーダーらしいその男の子だけで、他の子は何も話さない。不思議に思って見回してみても、なんだか僕の視線を避けるようにみんな目をそらす。
……うーん、やっぱりあの子以外はあんまり僕が混じることに賛成じゃないみたい、かな?
ま、いっか。そのうち慣れてくれるかな、たぶん。
「よし、じゃあ始めるか。シーニー、お前はあっちの領土だ」
「うん、わかったー♪」
言う通り、僕は線が引かれた陣地に移動した。
「…………」
「…………」
「…………あれ、他のみんなは?」
背の高い子は、何かニヤニヤしている。
他の子たちは、みんな一様に暗い顔。
何やってるんだろ?みんなこれから遊ぶのに、なんでそんなにつまらなさそうな顔してるの?
やっぱり僕がいるから?
と、僕がちょっと考え込んでいたその時だった。
「いくぞ、開戦!」
背の高い仔がそう叫んだ。
瞬間。
何かに突き動かされたように、男の子たちは一斉に僕に向かって、
何か投げてきた。
ゴン、ぐしゃっ、べしゃっ。
「……あれ」
頭が酷く痛い。
目に、赤いモノが垂れてきた。またトマトかな?
でもそれを拭ってなめてみると、鉄の味がした。
僕にそれを投げつけた瞬間、不思議なことに投げた本人たちは本当に恐怖に染まった表情で「う、うわぁ!」と叫んだ。
「な、なぁやっぱり石を投げるのはやばかったって!血出てるよ、アイツ!」
「あ、頭……アイツ、脳みそが……!」
なんか、クラクラする。頭も痛いし。風邪でもひいたときと似ているけど、なんか違う。
慌てふためく男の子たちを、背の高い子は一括した。
「おい、投げた張本人のお前らがパニックになってどうすンだよバァカ。どうせ死にはしねぇ、よく見ろ」
その子が喋っている間に、頭の痛みはだんだん薄れていき、急速になくなっていった。
ただ、髪の毛や顔に血がベッタリ付いたままでちょっと気持ち悪い。
「うー、痛いなぁもう」
さすがにちょっと文句を言いながら、僕は血をぬぐった。
男の子たちはポカンとした顔をして、口々に何か言っていた。
「え、……本当に戻った」
「は、早!マジかよ!?」
「死んでない……おれたち、殺人犯じゃない!」
わーわー、となぜか嬉しそうにする男の子たち。
それを、背の高い子がまた大声でどなって静かにさせた。
「だから言っただろうが、コイツは『蘇生』の能力を持ったディヴィアントだ。いくらおれたちが傷つけようが、絶対死なねぇ」
いったんそこで言葉を切った彼は、心底楽しそうに笑って続けた。
「なぁ、お前らもバカな大人どものせいでイライラしてるんだろ?どうせいくら殴っても蹴っても石投げても首絞めても、全部蘇生で治るんだ。証拠も残らない」
なあ、お前もおれたちと遊んでもらうのが本望なんだろ?
その子は僕に向き直って、そう続けた。
その日から僕には、『友達』ができた。