ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.57 )
日時: 2013/09/27 19:18
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)

Extra edition1.

3 side shiny -シーニー-

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それから、また何日かがたった。
そろそろ冬も明けるころ、僕がみんなと『遊ぶ』ことはすっかり定着していた。
男の子たちの中でも、やっぱりリーダーらしいあの背の高い子が率先して僕を遊びの輪に入れてくれたので、みんなも慣れたらしい。

僕もすっごく楽しかった。
毎日遊んでくれる『友達』たちは、いろいろな遊び方で遊んでくれる。
今日は誰が僕の右目に多く針を刺せるかで競ったんだ!
目玉が何回も潰れてすっごく痛かったけど、すっごく楽しかった。

でも、ちょっと不思議に思う。
こんなに楽しいことなのに、どうして『みんなも同じことをやらない』んだろ?
今日、他の子に「楽しいからやってみようよ〜」ってその子の目に針を刺そうとしたんだけど、怒られて殴られちゃった。
んー、その子にとってはあんまり楽しいことじゃなかったみたい。
みんな笑ってるから僕も嬉しいし楽しいけど、どうせだったらみんなで一緒のことをやってみたいなぁ。

夜になって、眠れなくて暇なとき僕は、みんなが『教えてくれた遊び』でいつも遊ぶようになった。
施設の調理室に、見つからないように忍び込んで包丁を取ってきて、それを使って遊ぶんだ。
その包丁で自分の指を1本ずつ切り取って、順番に床に並べてツミキみたいにして遊ぶ。丸いツミキが無い時は目を『使って』代わりにしたりする。
指を切ったり目をくりぬくときは、すっごーく痛いんだけど、それが楽しくって自然と笑えてきちゃうんだよねぇ。
でも、僕はいくらそうやっていてもすぐに治っちゃって、痛みもなくなるから、それがちょっとつまらなかったりする。
ずーっとこの『痛み』が続けば、ずーっと楽しい気分でいられそうなのに。

- - - - -

でも、そんなある日。
『友達』と別れてまた暇になっちゃった夕方、ちょっと早い時間だけど調理室に忍び込んでいた時、同じ施設の女の子に見つかっちゃったんだ。

女の子は僕が腕を切り刻んでいるところを見て、大声で叫んだ。
そのままそこでパッタリ倒れて気絶。

「わ、どうしたのー?大丈夫?」

声をかけたけど、やっぱり無反応。
そのうち、悲鳴を聞きつけた一人の先生が大慌てで駆けつけてきた。

「いったい何事ですか!?今は大事なお客様がいるから静かにしていなさいとあれほど……」

そこで先生の言葉は切れた。
だってそこには、気絶した女の子と、腕が血まみれで包丁を持った僕がいたんだもの。まぁ、驚くかなー?

先生は怒って真っ赤にしていた顔を、サァっ、と真っ青に染めた。
ものすごい速さで駆けつけてその女の子を抱き上げ、僕から逃げるように離れた。
そして、怒鳴りつけてきた。

「何をやった、お前!やっぱりお前は『化け物』だったんだな、そうだな!?」
「えー、僕は別に何もやってないんだけど?」
「黙れ『異常者』!くそ、だからおれはあれほどディヴィアントの子供なんて施設に入れるべきじゃないって言ったのに……!」

先生はものすごい剣幕で悪態をついて、僕を怯えたような、でも怒ったような変な顔で睨んできた。
そして、次に決心したように言い放った。

「やっぱり、お前なんかを他の子供たちと同様に育てる義務なんてない。今ここで殺すべきだ!」

僕はよく意味がわからなくて、ちょこんと首をかしげた。
しかし、そうするとなぜか先生はますます怒りだした。

「お前……!『蘇生』ができるからって余裕ぶってるんだろうが、馬鹿にするな!お前の『殺し方』だって知ってるんだぞ、おれは!」

そう言って、先生は僕から力ずくで包丁を奪った。
そして、その包丁を僕に振り上げ……




パシッ。





「何やってんだ、センセ」

先生の後ろに、いつの間にか男の人が立っていた。
誰だろ、この人?全然知らない人。

でも、なんか……初めて会った感じがあんまりしない。

夜みたいに真っ黒の髪をした、その男の人は、先生の包丁を持った手を片手で掴んで捻っていた。
先生はものすごく痛そうにしていて、どうにかその手を離そうとするんだけど、男の人はものすごい握力で先生の手首をポッキリ折りそうなくらい強く掴んでいる。すごい細い身体つきなのに強そうだな〜、この人。

「は、離しなさいアーテルさん!今この異常者を、子供たちのために処分しようとしているんです!あなたはこの施設に勤める者じゃないから無関係のはずだ!」

先生は必至でそう言ったけど、アーテルさんと呼ばれたその人は全く意に介さなかった。

「じゃあますます見過ごせねぇな。お前は俺の目の前で『俺の同族』をブッ殺す、ってワケだろ?」
「!!い、いえそういうわけでは……」

先生は今度は、怯え以外に何もないくらい怖がった様子で大人しくなった。
アーテルさんは冷静に先生の手から包丁を叩き落とし、落ちたそれを取られないように足で踏んで固定した。
次に後ろで気絶したままの女の子を振り返った。

「センセ。あんたさぁ、『子供のため』とかって豪語するんだったらまずソイツ助けろよ。阿呆か、お前は」
「え……あ、ハイそうですよねぇ……」

作り笑いを浮かべた先生は、そそくさとその女の子を抱えてその場を逃げるように去って行った。



調理室前の廊下には、腕が血まみれの僕と包丁を踏んづけたアーテルさんだけが残された。