ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.58 )
- 日時: 2013/09/27 20:07
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)
Extra edition1.
4 side shiny -シーニー-
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アーテルさんは先生より若そうだけど大人みたいで、子供の僕は立っていても自然と見上げる形になった。
同じく僕を見下ろしながら、アーテルさんは口を開いた。
「お前、何のディヴィアントだ?」
開口一番にそんな質問をぶつけられたことはなかったので、僕はちょっと驚いた。
でも、すぐに言い返した。
「人に質問するなら最初に自己紹介しないの?初めて会ったのに」
怒るかなー?とも思ったけど、意外とアーテルさんは素直に「む、そういえばそうか」と納得して、自己紹介してくれた。
「俺はアーテル、まぁいろいろあって今日はお前の施設に客人として来た。ちなみに俺も『ディヴィアント』な」
いったん包丁を足元から拾い上げ、しゃがんで目線を合わせてくれた。
片手に包丁を軽くぶら下げるように持った格好でしゃがむ、というどこかのヤクザみたいな感じだけど、なんとなく面白いので注意はしないでおいた。
僕はこの人が、先ほどからものすごく気に入ったので素直にこっちからも挨拶した。
「僕はシーニー!ディヴィアントなんだけど、『蘇生』って言われるヤツを持ってるんだ〜」
アーテルさんはそれを聞いて、意外そうな顔をした。
「『蘇生』か?……またシンザとは別の意味でレアな奴を見つけたな」
「しんざ?って何?ヒト?」
「あぁ気にすンな、独り言だ」
?
よくわからないけど、まぁいいか。
それより僕はアーテルさんに、言いたかったことを尋ねた。
「あのさ、アーテルさん!僕、アーテルさんのこと『お兄ちゃん』って呼んでいい?」
「え、やだ」
「え、なんで即答」
ガーン、と僕はちょっとショックを受けて傷ついたような表情をした。
するとアーテルさんは「あーそうじゃなくて……」と、そんなつもりじゃなかった、と言いたげにめんどくさそうな様子で続けた。
「そういう呼ばれ方気に入らないんだよ、俺にとっては。普通に呼び捨てでいい」
「な〜んだそっか、じゃあよろしくねアーテル!」
「躊躇も何もねぇな、お前……」
家族がいない僕にとって、もしかしたら『お兄ちゃん』って呼べる存在になってくれるかなー、って期待していた分だけちょっと残念だったけど。
でも、呼び捨てで結果的によかったかもしれない。
なんだか、本当の『友達』って感じがする。
アーテルは立ち上がって、とりあえずその包丁を元の場所に戻そうとした。そして気が付く。
「そういやお前、血だらけじゃん」
……え、今さらなのソレ。
しかしアーテルは、普通の大人たちと違って全然動じないで、調理室に入って何か探し始めた。
そして持ってきたのは、タオル。水道でいったん濡らして絞ったらしく、湿っている。
それを使って、僕の血まみれの両腕を拭き始めた。
「チッ、服にもベッタリだな……。何やったんだかは知らんが、せめて服は汚さないように袖をまくるとかしなかったのかよ?」
もうそれで僕はこらえきれなくなって、プッ、と吹きだして笑ってしまった。
「なんだよ?なんかおかしいかコラ」
「え、だって〜。アーテルって面白い人だよね!普通の大人だったらもっと全然違う反応してつまらないのに」
つまらない、という表現のところでアーテルは少しだけ眉をひそめたけど、何事もなかったようにやっぱり血を拭き取っていた。綺麗好きなのかな、この人。
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それからまたしばらくそうしていた僕らなんだけど、やがて先生が戻ってきた。
といっても、さっきの先生とは別の人。あの人は、この施設で『一番偉い人』って言われてた人だ。施設長、だったっけ?
とりあえずその先生は、僕とアーテルに気づいて小走りで駆けてきた。
「アーテルさん、すみません!シーニーが何か迷惑をかけたようで……」
「いや、別にコイツは何もしてきてないんだが」
アーテルは律儀にそう言ったけど、先生はとくに聞く耳を持たずに僕の腕を乱暴に掴んで、アーテルから引き離した。
次に、僕に顔を近づけてものすごく怖い顔で怒った。
「全くお前は問題ばかり……!だから『化け物』と呼ばれるんですよ、反省しなさい!」
そして僕のほっぺを思いっきり叩いた。僕はそのまま後ろにしりもちをつく。
叩かれたほっぺがジンジンとした。
「痛いなー、だから僕何もやってないってば〜」
「言い訳は結構。シーニー、お前には後で罰を与えます」
先生は心底不愉快そうに睨んで見下ろしてきた。
……なんで誰も僕の言い分は聞いてくれないんだろう?
僕が化け物だから?
『人間』って、化け物の言うことをそんなに信じたくないの?
僕だって、同じ『人間』になりたかったのに。
ボーっと、そんなことを考えていると、アーテルが急に先生に話しかけた。
「センセ、ちょっといいか」
「……?なんでしょう、アーテルさん」
先生がいぶかしげに尋ねると、アーテルは僕でさえ予想もしなかった事を行った。
ガシュッ、
「げほぁっ!?」
アーテルの握りしめた拳が、先生のおなかにめり込むようにしてぶつかっていた。
先生の口から変なうめき声と、ちょっとだけ血が飛び出る。
倒れこむ先生を避けたアーテルは、僕の服の襟を掴んで叫んだ。
「走れ!!」
……なんかワケがわからないけど、僕は言われる通りにした。
アーテルは僕より歩幅が大きい分かなり速く走れるので、僕はそれにほとんど引きずられるようにして走らされる。
「ちょっと、どうしたのアーテルっ!?」
「馬鹿、察しろ!逃げるんだよ、ここから!!」
後ろを見ると、這いつくばった先生が呪いそうな目つきで睨んできたけど、それもどんどん遠ざかって行った。
ワケもわからないし、もしかしてこれは『誘拐』って奴なのかもしれない。
でも、僕はアーテルと一緒に施設から逃げた。
だって……、
なんだかすっごい楽しそうだったから!
きっと、この人について行けばもっと面白い世界が見れる。
直感でそう思った。