ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.59 )
日時: 2013/09/27 21:32
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)

Extra edition1.

5 side shiny -シーニー-

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それからは本当に大変だった。
アーテルに必死で走ってついて行くんだけど、それを止めるために先生が何人も襲ってくる。
アーテルはそんな先生たちを殴って気絶させたり、攻撃すると見せかけてフェイクをかけて避けたり、倒れて邪魔になった人を蹴っ飛ばしたり、

……要するにものすごい強い。
と、いうより先生たちが弱い。

「無駄に数が多いな……まぁ戦い慣れしていない雑魚ばっかなのが救いか」

ボソッ、とアーテルは呟いた。
……いいなぁ、羨ましい。

「僕も戦いたーい」
「お前は大人しく走ってろ」

いいから足動かせ、と自分も走りながらアーテルはそう言ってきた。
それからちょっと考えて、アーテルはこう尋ねてきた。

「なぁ、お前さ。『蘇生』の能力は持っているようだが……やっぱり傷つけられると『痛い』とは思うのか?」

僕は走りながらだったからちょっと喋りにくかったけど、答えた。

「うん、痛いよ。すぐ治っちゃうけど」

そうか、と呟いて、アーテルは急に止まった。

「わ、どうしたのアーテル?追い付かれちゃうよ?」
「——よく聞け」

遠くてもまだ追いかけてくる先生たちを意にも介さず、アーテルは真剣な表情で話した。




「いいかシーニー、「痛み」っていうのはどんな人間でも必ず持つ感覚だ。これが無い奴は、もはや人間じゃない。……だから、お前は人間だ」




その瞬間、僕は頭の中で考えることが止まったような気がした。

「お前、自分のこと『化け物』だって自分でも思うようになっていただろ?周りにそう言われ続けて」

アーテルは続ける。

「いいか、それはゼッテェ違う。ディヴィアントだろうがノーマルだろうが、俺たちはどっちにしろ人間だ。ちょっと自分が他と違う能力を持ってるからって己惚れるな。いいな?」

僕は無言でコクッ、とうなずいた。
アーテルは「よし」と言って、またすぐに走り始めた。



——今の今まで、誰が僕を人間として扱ってくれたのだろう。
ずっと『化け物』と言われ続けてきた。
『友達』でさえ、「お前はおれたちと違うんだから」と言っていた。


でも、この人は違う。


僕はこの瞬間、アーテルにこんな声をかけてもらった事が、指を切ったり目をくりぬいたり腕を切り刻んだりしたときより、何百倍も嬉しく思った。

- - - - -

やがて、施設の敷地内も飛び出して、外に出た。

考えてみれば僕、覚えている限りで施設の外の世界に出たのはこれが初めてかもしれない。

施設は、切り立った崖の縁に立っていて、ここはどうやら森で覆われた山の中みたいだった。
入口から出ると、向こうの森まで一本道で、施設の後ろは本当に崖っぷちで何もない。

(僕、今までこんなとこにいたんだ〜)

もし知っていたら、あの崖から飛び降りてみたんだけどなぁ。地面に着いたとき、どうなるのか想像しただけで楽しくてワクワクしてくる。
でもアーテルは、有無を言わさず崖とは反対方向——森の方へズンズン歩いて行く。むぅ、つまんないのー。
でもアーテルは気に入った人なので、僕も一応それについて行った。

アーテルは森に入る前に、大きな岩の陰に入った。
そこには、施設側からはちょうど見えないように馬車が置いてあった。
そしてその馬車の荷台には、施設にいた子供たちがギュウギュウ詰めで乗せられていた。

「あれ、みんなもここにいたの?」

僕が話しかけると、狭そうにしながらもわいわい騒いでいたみんながピタリと静かになった。
僕がアーテルを見上げると、アーテルは肩をすくめただけだった。
そのままアーテルは馬車の御者台に向かう。

御者台には、銀髪をした叔父さんが座っていた。なぜか隣にお酒が足るごと置いてある。
アーテルはその人に話しかけた。

「もう準備はできてるのか?」
「おう、いつでも行けるぜ。さっきの気絶した女の子も回収した」
「上出来」

僕が不思議そうに見ていると、叔父さんは僕に気づいた。

「お、ソイツが例の『ディヴィアントのガキ』か」
「そ。……荷台はもう無理そうだな。おいシーニー、お前は御者台に乗れ」

アーテルに支持され、僕は言われた通り御者台に乗った。叔父さんと酒樽で狭い御者台はほとんどスペースがなかったので、窮屈だったけどなんとか座った。
アーテルはどうするのかなと思ったら、馬車とは別に繋がれていた一頭の馬に一人でまたがった。

「よっし、とっととズラかるか」

叔父さんのその合図で、馬車と馬一頭は一気に森に入って、山を下り始めた。


今まで僕やみんなが過ごしていた施設が、どんどん遠くなる。
みんな少し寂しそうにしていたけど、それでもなんとなく楽しそうにおしゃべりなんかをしていた。

- - - - -

その日の夜中になった。

アーテルと、グラウという叔父さんが住んでいる町に着くまで、もうそんな時間になった。
馬車に乗っている間、グラウ叔父さんは事情を僕に話してくれた。

あの施設が、養護施設を経営する裏で大量の『誘拐』を行っていたこと。
アーテルとグラウ叔父さんは、その誘拐された子供たちを取り返してほしい、という『依頼(クエスト)』を受けて潜入していたこと。
後に、あの施設で働いていた先生たち——もとい誘拐犯は、国で罰せられること。

ちょっと信じがたかったけど、実際に馬車が依頼をした人の『拠点』にたどり着くとそれは紛れもない事実だと僕にもわかった。



そこで待っていたたくさんのお父さん、お母さんが、泣きながら帰ってきた子供たちを迎えていたから。



もともと孤児だった何人かの子供たちも、今度はちゃんとした本物の『養護施設』の人や教会の人が引き取っていくみたいだった。
アーテルはそんなたくさんの大人たちの中で、一際裕福そうな人と何か話して、そしてその人が差し出した物を受け取った。
あれが、報酬なんだとグラウ叔父さんが教えてくれた。
本当はアーテルや僕のような『ディヴィアント』は、こうやって仕事をしてお金を稼ぐんだ、と。

僕はグラウ叔父さんに尋ねた。

「グラウ叔父さんは、アーテルの仕事仲間なの?」
「んー、まぁそんな感じかもなぁ。本当はディヴィアントが仕事をするときは『タッグ』っていう、2人組を組むものなんだが。オレも女房とタッグ組んでいるんだが……アーテルは未だに独り身だな」

アイツはタッグの相手を探すような『やる気』もないしなぁ、ガハハ!とグラウ叔父さんは付け足すようにそう言って笑い飛ばした。


この時点で、僕はもう心に決めていた。
ま、言わずもがなだね。


報酬をもらってきたアーテルに、僕は駆け寄って開口一番に宣言した。



「僕、アーテルとタッグ組む!」


「……は?」

ポカンとした顔のアーテル。
とりあえずその片腕に「えいっ」とぶら下がると、後ろでグラウ叔父さんがまた豪快に笑い声をあげた。

——その後、アーテルが「ふざけンなガキの面倒なんか見きれるか!」とグラウ叔父さんに猛反発したり、グラウ叔父さんがそれを笑いながら説得したりしたんだけど、それはまた別のお話。