ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.6 )
日時: 2013/09/17 03:35
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)

Chapter 1.

5

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幸い、全員そんなに遠くへは逃げていなかったので、俺はさっさと逃亡者と追放者を回収してグラウの家に向かった。
一応、すれ違いにはならないよう先ほどの戦闘跡も通ってみたが、死体や血の跡はきれいさっぱり掃除されていた。

というわけで、現在はグラウの家で再び先ほどのメンバーと集合している状態である。

まず、帰ってきた俺を見てまっさきに反応したのはルージュだった。

「あーお帰りアーテ……ぶはっ!!ちょ、なんだそれめっちゃ笑えるんだけど!?」
「笑うなアホが」

俺は米俵のように肩に担いでいた傭兵2人を、ぺいっと捨てるように地面に降ろした。
続いて、気絶した貴族を背負ってひたすらシーニーへの恐怖に耐えて付いてきた従者に「もう着いたっての、いい加減落ち着け」と言っておいた。……肉体的にも精神的にも瀕死の重傷である。全くこれだからどこもかしこも『もやし』な貴族のボンボンは……。

地面に捨てられて、寝たままの傭兵をルージュはツンツンつついて遊び始めた。それを呆れたようにロッソがたしなめる。

「ルージュ……君、もうちょっと品に欠けない遊びを思いつかないの?」
「なんでー?ロッソこそしょっちゅう死体積み上げてオブジェ作ったり悪趣味じゃんかよ」
「アレは立派な芸術(アート)だからね」

どこがだよ。

と、そんな俺たちにシンザが「ハイハイ、そこまでにしなさい」と注目を自分へ向けさせた。
シーニーがシンザに尋ねる。

「そういえば、どうしてシンザおばさんは」
「『シンザさん』とお呼び」
「んー、えっとシンザさんは、どうしてこのオジサンたちを連れてくるように言ったのー?」

こんなガキ相手にまで『おばさん呼び禁止令』を出さなくとも……。
まぁそれは無視して、俺は同じことを疑問に思っていたので無言でいた。
シンザが答える。

「そいつらはねぇ、クエストを持ってきた依頼人なんだよ……」

やれやれ、といった風にシンザは言った。補足するようにグラウが、

「いやー、お前たちにちょうどいい案件だから、お前たちに任せようと思ったんだがなぁ。『今は出かけている』っつった途端、探して勝手に飛び出しちまった、ガハハ!」
「だ・か・ら、笑いごとじゃないっつってんだろうがバカ夫!」

シンザは遠慮容赦なくフライパンでグラウの頭をフルスイング。ごふっ、とグラウは再び痛みに悶えて頭を押さえた。……全く、このアホおやじもディヴィアントでなければ即死だぞ(死因:フライパンとかシャレにもならん)。

だがまぁ、これでやっとこの貴族が何をしに俺たちを訪ねてきたのかがわかった。

と、そこにロッソが興味津々に会話に割り込んできた。

「ねぇ、ちなみにそのクエストの受諾者にはボクたちも含まれているのかな?」
「うぇ、おいロッソ〜、こんなバカの最弱版みたいなヤツのクエスト受けるのかよー?」

ルージュは若干めんどくさそうにそう言ったが、ロッソも反論した。

「考えてみなよルージュ。あえてアーテルたちに依頼されるクエストだよ?いい暇つぶしになると思わない?」

歳の近い女子からは割と人気があるらしい、甘いマスクをニヤリと笑って歪める。思いっきり悪人面だぞ、オイ。
しかし、それにルージュもようやく思い至って「なーるほど……♪」と鏡のようにニヤリと笑った。……お前らな。

とりあえず、この中で最も頼りになるシンザが、唯一意識のある依頼者……の、従者にテキパキと話しかけていた。

「んで、アンタはこいつらに何を依頼したいわけ?従者なら知ってるでしょ?」
「は、はい……えっと、そのぉ」
「シャキっとしなさい!男でしょうが!!」
「はいぃっ!スイマセン!!!」

従者が話し出すまで、双子は漫才のような雑談を続け、シーニーは適当な椅子に座って足をブラブラさせ、俺はとりあえずぼーっとつっ立っていた。

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従者のおどおどした話し方で、無駄に時間を喰ってしまった。
要約すると、こうだ。



『殺してほしい人——正確には団体がいる』



……もう慣れたが、やはり疑問に思う。
なぜ俺とシーニーへの依頼は、こういう『始末』系統のクエストばかり届けられるのだろう?いや、まぁ俺たちの能力の内容を思えば、これ以上向いているクエストもないとわかるが。
そう、ロッソとルージュが期待していたのはこういうことだ。全く暇人というか、悪趣味な双子である。

貴族……レドリーア?とか言ったか。そいつの家には、祖父の代から因縁のある、いわゆるライバル貴族がいるのだそうな。
それで、今その貴族のせがれ同志で、王家の女をどちらが嫁にとるのか争っているらしい。
一見色恋沙汰に見えるが、そんな要素はかけらもない。要するに、玉の輿である。王女はすでに許嫁が決まってしまっているので、まだ相手の決まっていない王家の娘たちがこぞって狙われているのだ。
で、そのライバル貴族のほうが現在有利な立場らしく、このままではこの依頼者貴族は負けてしまう、という。

そこで、そのライバル貴族を消してほしいという結論だ。
幸い(?)、ターゲットとなるそいつらは少人数家族で、せがれを含めて両親しかいない。兄弟はゼロ。つまり重点的に消すのは3人ということだ。
それに、さらに側近や有能で危険と思われる執事などもろもろをプラスして……最低人数でも、ざっと7人と言ったところか。

「お、お願いできますでしょうか……?」

すっかり縮こまった従者は、おずおずといった風体で俺に尋ねた。

「報酬は?」
「は、はいっ、こちらになりますっ」

馬車から慌てて運んできたのは、手のひらに乗るサイズの小さな麻袋。
渡されたそれの中身を確認する。10枚ほど入った金貨がジャラリ、と音をたてた。
ちなみに、この世界でいう金貨とは、3枚ほどで4人家族を半年あまり余裕で養える金の単位だ。

「そちらは前金となります……。依頼を達成なさったら、さらに20枚ほどを差し上げようかとおも、思っていまして」

どもりながら、なぜか必死に従者は説明した。
俺はシーニーをチラ、と見る。
相変わらず暇そうに足をブラブラさせていた。とくに反論はない。
俺は従者に向き直り、言った。




「引き受けた」




——さて、暇つぶしが来たか。