ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.61 )
日時: 2013/09/28 13:40
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)

Chapter 6.

1

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「朗報だぞアーテル!」

ルーフスの家に行ってから数日がたったある日、散歩から帰ってくるとグラウにいきなりそう言われた。
グラウは説明するよりこっちの方が速いとでも言わんばかりに、一枚の紙を突き出してきた。
とりあえず俺はそれを読む。

「これ……新しいクエストか」
「おう、しかも結構大規模だぞ。シーニーも存分に遊べるだろうな、ガハハ!」
「え、ホントー!?わーいやったやった♪」

シーニーがピョンピョン飛ぶ中、俺は紙を読みながら手探りで椅子を探し、座った。

クエストの内容はこうだ。

ここから馬車で数時間ほどの離れた場所に、谷があるんだが、そこにちょっとした町があるらしい。その町はほとんど外部と接触していなくて、孤立した集落のようになっている。
自給自足で自立した町だったのでそのこと自体に問題はなかったのだが、近ごろその町をモンスターが襲うようになったらしい。
これはそのモンスターの駆除依頼、というわけだ。

「モンスター?このご時世に珍しいな」

俺が尋ねると、グラウはじゃれているシーニーで遊びながら答えた。

「なんでも、原因はわからんが急速に繁殖しちまったんだと。モンスターの方も、同族が一気に増えすぎて食糧やらがいろいろ足りなくなっちまったんだろう。そこで人間サマの町の出番ってわけだ」
「……妙な場所に町なんか構えるからこうなるんじゃないのかよ」
「ガハハ、まぁ今はそう言ってやるな。『安定の暇人』にはちょうどいいだろ」

ちなみに報酬は現地到着で交渉するそうだ。
それと、かなり大規模な駆除作戦になりそうなので他のディヴィアントにも依頼して、何人かのディヴィアント同士で協力して討伐してほしい、とのことだ。

……なんとなく嫌な予感がするな。

「アーテル、どしたの?」

心中を察したのか、シーニーがそう言って俺の顔を覗き込んできた。

「いや、他のディヴィアントも呼ぶらしいから嫌な予感がしてな……」
「なんでー?人数は多いほうが楽しいじゃん!」

そういう問題じゃねぇよ……。

ディヴィアントっていうのは、それが発覚したときからとにかく周りから差別される。酷い奴は生まれたときから、赤ん坊のころから迫害を受ける奴もいるのだ。
よって、ディヴィアントはたいていの場合根性がねじ曲がって育つ奴が多い。
俺みたいに、かなり運がよければ『平和主義』だなんだとのうのうと言えるような奴になるが、そうじゃない奴は『誰だろうが関係なくブッ殺す』と言うようなかなり危ない奴に育つ。
……そう、要するにディヴィアントっていうのは普通、ほとんどの奴が『協調性』というのを知らない。タッグがいる奴は、その相手のみが例外になるかもしれないが、それ以外は全員敵だと認識してしまう阿呆もいる。

(本当に大丈夫か、コレ)

そう思っていたが、直後グラウがいきなり俺の背中をバシッ!と叩いてきた。

「げほっ、何すンだよ!?」
「あのなーアーテル、お前久々の仕事なのに素直に喜ばないんかい!ぐちゃぐちゃ余計なこと考えるなってぇの!シーニーだって喜んでるんだぞ」

あー……それもそうか。
とりあえず俺は曖昧に「あぁ、そうかもな」と納得しておいた。

と、そこでシーニーがふと気づいたように言い出した。

「ねぇ、またこのクエストも、ロッソお兄ちゃんとルージュお姉ちゃん誘うんだよね?」
「またか?まぁ俺は別にいいが」

双子によく懐いているシーニーなら考えそうなことだったので予めわかってはいたが……なんだか最近、あいつらには手伝ってもらってばかりだな。
まぁいいか。どうせあの双子もこういった『虐殺系』のクエストには誘う以前に飛びつくだろうし。

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——という俺の予想は、なんと外れた。

グラウの家から歩いて10分くらいのところにある、赤い屋根に白い壁という、むき出しの木造建築が多いこの町では少々目立つ双子の家に、俺とシーニーは居た。
玄関先で双子を呼び出して、事の顛末を教えたんだが……。
双子の返事はというと。

「あーゴメン、ボクたちその日は予定あるんだよねぇ」
「まじかぁ!アタシもブッ殺したかった〜〜〜うう、サイアクだ……」

相変わらずロッソは軽い雰囲気で、ルージュは心底残念そうに断った。

「なんだ、予定なんかあったのか」

拍子抜けして俺はそう言った。シーニーもかなり残念そうに「えー、2人にも来てほしかった〜」と言っていた。
苦笑しながらロッソは答える。

「いや〜ゴメンねホント。どうしても外せないんだよね、こればっかりは。年に一度のボクたちのイベントだから」

ルージュもそれに何か言いたそうだったが、やはり『予定』というのは彼女にとっても外せないものらしく、結局何も言わなかった。

俺はとりあえず、

「んじゃ、それだけ大切な用事ならしょうがねぇか。また今度な」

とだけ言って帰ることにした。





……それにしても、双子の言う『予定』とはいったい何なんだ?
最後まで双子はその内容を言わなかった。たぶん、知られたくないのだろう。

まぁ、俺には関係ないか。他人の家の事情に、必要以上に首つっこむこともない。場合にもよるがな。