ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.66 )
日時: 2013/09/28 20:02
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)

Chapter 6.

2

- - - - -

グラウが用意してくれた馬車で、とりあえずその日の夜に俺とシーニーはもう町を発った。

どうせ荷台に乗せる荷物は少ないので、馬車は軽めにしておいて馬を飛ばした。
どちらかというと夜の移動は、賊なんかに狙われやすいからできるだけやめた方がいいのだ。
だが、この日の夜にはもう出なければクエスト条件の時刻に間に合わない。

(ホント、割と急だよな)

御者台でそう思いながら馬を走らせる。
シーニーは隣に座って、風に当たりながら何が楽しいのかとにかくはしゃいでいた。



そんなこんなで着いたのが、谷の町なわけだが。

「……随分さびれてるな?」
「だね〜、誰もいないや」

町の入口に馬車を繋ぎ、俺とシーニー はそこに入って行った。
よくある町のように、入口から大きな道ができていて、その両隣に店や家が並んでいるんだが……。
そのありとあらゆる建物、すべてがドアも窓も締め切っているのだ。
ほとんど売り物にならないくらいカサカサになった林檎が一つだけ転がっている果物屋、ヒトが管理していないおかげですっかり埃をかぶった鍛冶屋、とにかくどれもが例外なくさびれている。

「どうするー?アーテル」
「どうする、って……人を探すしかねぇだろ」

町を適当に歩きながら、俺たちはとにかく人間を探すことにした。

- - - - -

しばらく歩いたころ。
突然、目の前を黒い影が横ぎった。

「!」

俺は咄嗟にシーニーを掴んで横に飛ぶ。
瞬間、

ドゴッ!!

凄まじい音がして、俺とシーニーが寸秒前までいた地面がえぐれていた。

地面をえぐったのは……巨大な棍棒を持った、オーク。
二足歩行の無駄にでかい豚みたいなモンスターだ。

「こいつか」

びっくりした〜、とのんびり言っているシーニーは置いておき、俺はそう確信した。
今回は単体のようで、他に辺りを見回しても仲間のようなモンスターはいない。

「グオオオオオオぉぉぉ!!」

オークは雄叫びをあげて棍棒を滅茶苦茶に振り回した。
知能は低そうだが、あの棍棒は厄介そうだ。

「よし、シーニー。餌になって来い」
「最近何かと僕の扱い酷くなーい?楽しいからいいけど♪」

楽しけりゃ何も問題ないだろう(真顔)。

シーニーはトテトテとオークの方へ駆けていき、

「やっほー豚さん♪遊ぼうよ!」

と声をかけた。
その言葉が通じたのか否かは知らんが、オークは早速シーニーに気づいて、唸り声をあげた。
どう見ても『一緒に遊ぶ』雰囲気じゃないな、これは。
だがそれは俺にとっては問題ない。俺は遊ばないし。

オークは緩慢な動作で棍棒を振り上げ、シーニーに向かって振り下ろした。



べちゃぁっ。



当然、一瞬でシーニーは文字通りミンチである。
記述を忘れていたが、こういうときのシーニーの服は当然ながら血まみれなので、とにかく替えの服は大量に必要になる。今回も、馬車で持ってきた少ない荷物のうちほとんどはシーニーの予備服だったりする。
まぁ、気合で洗えばなんとか落せたりするんだけどな(もともと血の色が目立たないような色の服を選んでいるので)。

閑話休題。

オークはシーニーを潰したことに満足し、棍棒をポイッ、と放り投げた。
そして、ただの血まみれの肉塊と化したシーニーに向かって手を伸ばそうとした。

俺はそのかがんだ隙を狙ってラクラクと背後を取り、

「よっと」

掛け声と共にオークの背骨に踵落としを喰らわせた。
ボコッ、と骨が折れるにしては若干鈍い音が鳴る。
さすがに無駄にでかいだけあって、骨も人間より太い。
ただ、ダメージは結構与えることができた。

「ゲェェェェっ」

見るからに汚らしい悲鳴をあげてぶっ倒れるオーク。
そのオークを避けるように、次々と身体を蘇生させている『途中』のシーニーが、這いつくばって場所を移動した。

「ちょっとー、倒れる場所とか考えてよ、踏みつぶされるとこだったじゃん」

唇を尖らせて抗議するシーニー。そう言っている間に、潰された脳の一部や骨がむき出しになっていた腕の部分もどんどん蘇生されていき、やはり数秒にも満たずシーニーは完全体に戻った。

「ああ、悪ぃ。そういや体重も重そうだしな、コイツ……」

まだ地面でジタバタもがくオークを見下ろしながら俺は謝った。
背骨にヒビは入ったので致命傷にはなったようだが、まだ死ぬまでには至らない。
俺はオークの頭部のほうにまわって、その豚頭を踏みつけた。

ぐしゃ。

一回きりではなかなか潰れないので、もう何回か踏む。

ぐしゃ。ぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃ。

「僕も手伝うー」

シーニーも手伝って、しばらくオークの頭の上でピョンピョン跳ねたりしていたが、そろそろオークは動かなくなった。

「これくらいか」

程よく踏み終えたところで俺は足をどかした。あー、やばいな。靴が血と脂まみれで、どす黒いのやら白濁した色でかなりサイケデリックになっている。洗うのが大変そうだ。

まぁこれもこれで帰った時、シンザに洗ってもらえばかなりきれいに戻るんだが、その帰るまでがちょっと気分悪い。

(って、なんかアホらしいな俺。今はそんな潔癖症ぶっている場合でもねぇのに)

内心苦笑しながら、俺はまだオークの上でジャンプして遊んでいるシーニーに「ほらもう行くぞ」と声をかけた。

と、その時。



「あ、あの……クエスト受諾者ですか」



背後から、俺たちに声をかける人物が出てきた。