ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.72 )
- 日時: 2013/09/29 11:34
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)
Chapter 6.
5
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決行は日没後、というわけで俺とシーニーはまた町をブラブラすることになった。
馬車で仮眠でもとっていようかと思ったが、それを提案するとシーニーは即答で「やだつまんない」と答えた。
……じゃあ他に何をしていろと?
「遊んでよー、アーテルが」
「やだめんどくさい」
真似をして即答してやったが、「似てなーい♪」と笑ってきやがった。このガキ。
まぁ、そんな風に町を出歩いていたら、そんなにこの町も大きくはないので一応、何かは見つけるわけで。
正確にいうと人が見つかったわけで。
「あ」
シーニーが短く言って前方を指さした。
そこには、つい先ほど別れたばかりの魔導師と使え魔がいた。
ヴァイスはちょうど酒場のような店に入ろうとしていて、その後ろに控えていたヴィオーラのみがこちらに気づいて振り返った。
そして心底不愉快そうな顔をされた。だからなんでそんなに毛嫌いされなきゃならねぇんだ。
シーニーはタッタッタ、と駆けて行って「また会ったね〜」と愛想よく話しかけた。
ヴィオーラは無視してヴァイスについて行こうとした。
が、俺は少し思いついたことがあったので声をかけた。
「なぁ、待てって。ちょっと話したいことがある」
「……なんだ?自分は貴様らとなれ合うつもりは毛ほども無い」
睨むようにしてそう言い返すヴィオーラ。
しかし、次に俺が言った言葉にその表情は一変した。
「俺、ついこの間お前の妹に会ったんだけど」
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酒場はやはり例外にもれずさびれていて、店主も商売あがったりといった風に眠りこけていた。ただ、建物の中ではあるので営業はしているらしい。
俺たちとヴィオーラのやりとりについて、ヴァイスは一切の反応を示さず適当な席に座って勝手に飲み物をとっていた。どうやらカウンターに店主が適当に作った物が置いてあるらしい。
ヴィオーラはそのヴァイスの隣に座り、近くの丁度よさそうなもう一つのテーブルを俺たちに目で示した。
「座れ。そして話せ、速やかに」
「ヘイヘイ、わかりましたよっと」
少しふざけたように言ってみたが、ヴィオーラは目を眇めただけで特に何も言ってこなかった。無言で足を組む。
俺は、先日アマレロに会った時のことをとくに偽らずにヴィオーラに話した。
ヴィオーラは、表情も態勢も一切変えなかった。
ただ、アマレロのことを聞いている時のみ、その瞳が少し穏やかになっているような気がした。
常に殺気のようなものが宿っていてピリピリしているからか、余計にその変化がわかりやすかった。
(やっぱ姉妹仲は良好、それも今でも互いを心配してすらいる……ってとこか)
俺が話し終わると、ヴィオーラは少しの間を置いた。
目を閉じて何か懐かしむようにした後、「そうか」と小さく呟いた。
ちなみにここまでの間、やはりヴァイスは興味を欠片も持たずに静かに飲み物(酒なのかはわからない)を飲んでいて、シーニーは俺の向かいの席で頬杖をついて座っていた。
話しているのは、俺とヴィオーラのみである。
俺は、やはり気になっていたことを尋ねた。
「お前、もしかしてヴァイスの奴隷のままなのか?」
——次の瞬間。
カシャンっ。
ヴァイスが持っていたグラスが、床に落ちて壊れた。
ヴァイスはいつの間にか立ち上がり、ヴィオーラの肩を掴んでいた。
そしてヴィオーラは、思いっきり片足をあげていて、
……明らかに、今目の前にいる俺を蹴り上げる態勢をとっていた。
俺はとりあえず両手をあげて敵意がないことを示し、ヴァイスの方をみた。すると彼は、無機質な目で初めてこちらを見た。
「その類の質問は地雷だ。次は私も止めない」
——使え魔が暴走しようが次は放っておく、だからせいぜい気を付けろ。
と、いう意味か。おそらく。
足を下ろしたヴィオーラは、先ほどの穏やかな表情はどこへやら、やはり殺気の宿った眼で睨んできた。
そして、言った。
「自分は、己の意志によって主の傍に使えている。妹のことは懐かしい。しかし、会いにいかないのは奴隷として束縛されているからではない。……二度と間違えるな、ゴミが」
付け足すように、彼女は「自分は奴隷ではなく『使え魔』だ」と言った。
……俺からすれば、そんなに違うようには思えないのだが、まぁ本人にとっては大きく意味が異なってくるのだろう。
まぁ、とにもかくにも。
妹のことは、姉に伝えた。生き別れの姉妹の片割れにそれぞれ会ったのなら、現状報告の伝達くらいはしてやるのが礼儀だろう。
それにしても、本当にこの姉妹は……容姿は双子のようにソックリなのに、中身が限りなく真逆だ。よくここまで正反対なのに仲良くできるものだな。
「行くか、シーニー」
「えー、もう?」
不満そうなシーニーに声をかけて、俺は店を出ることにした。他に話すこともないしな。
しかし、その去り際。意外なことに、ヴァイスの方から声をかけてきた。
「アーテル、だったか」
「ん?」
首だけちょっと振り返ると、ヴァイスはこちらを見ずに話した。
「その少年をよく見張っておけ」
「……シーニーを?」
「そうだ」
シーニー本人は、「ほぇ?」とキョトンとした顔で小首を傾げる。
ヴァイスはそんなシーニーを、やはり全く変化のない無表情で見下ろして言った。
「『贋者』が、後に狙ってくる」
それは、まさしく『魔導師の予言』だった。