ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.76 )
- 日時: 2013/09/30 20:07
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)
Chapter 7.
1
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そして、西日も差してそろそろ約束の時間になった。
俺はあらかじめ、昼間に行った役所へ向かった。
ちなみにヴァイスたちと別れた後は結局馬車で適当に過ごした(シーニーがものすごく暇そうにしていた)。
そして役所に向かう最中である。
「アーテル、あそこに居るのってブルーノさんじゃない?」
シーニーが指さしたのは、町の民家の角だった。
確かにそこには、何やら隠れるようにブルーノがしゃがみこんでいる。
……何やってるんだ、アイツ?
とりあえず俺は近寄って声をかけた。
「おい、お前何やっt」
「うあああああっ!!??」
いやこっちが叫びたくなったんだが。びっくりしただろうが。
尻餅をついたブルーノは、尚も逃げようとその態勢のままズザザザザザッ、と後ろに下がって、下がりすぎて民家の壁に頭をぶつけた。
「〜〜〜っ、!!」
無言で頭を押さえ悶えるブルーノ。
「……何やってるんだ、お前」
呆れてそう呟いた俺だったが、次の瞬間俺は、ブルーノが何をしていたのかを嫌でも理解した。
ずり、ずり、と音をたてながら棍棒を引きずり、民家の角から現れたのは……モンスターである。
そう、彼は偶然このモンスターを遠くから見つけて、自分が発見される前に隠れていたのだろう。
ブルーノは出てきたそのモンスターを見た途端、痛みも忘れて再び叫びそうになった。
「っ、待て!」
俺は極力声を押し殺してそう言い、とりあえずブルーノの口を手でふさいだ。
モンスターは、先ほどのブルーノの悲鳴を聞きつけてここまで来たのだろう。しかし、幸いなことにまだ俺たちに気づいたわけではなさそうだった。キョロキョロと辺りを見回している。
俺たちは3人で、とにかく建物の狭い影に隠れた。かなりメンタルが弱そうなブルーノがもし騒いだら、これもまた無駄な努力になりかねなかったが、一応そのあたりの分別くらいはあったようで比較的おとなしくしていた。
しばらくすると、モンスターは真逆の方向へ、のしのしと足音をたてて去って行った。
数秒ほど沈黙。
もう姿が見えなくなったところで俺が手を離すと、ブルーノは思いっきり脱力した。
「し、……死ぬかと……ッ」
心臓の辺りを鷲掴みにして、酸素を必死で肺に取り込むブルーノ。
……その様子のほうがよっぽど瀕死に見えるぞ。
シーニーが「大丈夫〜?」とかがんでブルーノの顔を覗き込んで尋ねたが、彼はそれに対してもまた「ひぃっ!?」とのけ反った。
本気で大丈夫か、コイツ……。
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「ご、ご迷惑をっ……本当に申し訳ないでs……」
緊張しているのか、それともまだ恐怖が拭えていないのか、ブルーノはかなり聞き取りにくくモゴモゴした声で謝った。
「あーだから気にするな。俺がうっかりして脅かしちまったみたいだし」
「そんなわけでは!助けてくれましたし、もともとぼく一人だったら見つかっていたかも……」
言いながら、そうなった時のことを想像してしまったのかブルーノはますます顔を青くした。
なんというか、いろいろとか弱い奴だなぁ。本当に男か、この少年は。
「なぁ、一応確認しておくけど。お前って女じゃないよな?」
「へ?……あ、いえ男です、戸籍上にも載ってます」
「だよな」
俺の質問に一瞬キョトンとしたブルーノだったが、それがきっかけでいったん恐怖を忘れたのか、急に正気に戻った。……まぁ、なんにせよいい方向に作用したようでよかったところか。
役所に着くと、役所前にはすでに4人全員集まっていた。
真っ先にヴィオーラに睨まれるが、すでに慣れたものだ(少年時代からのディヴィアントの迫害経験値をなめるな)。
少し違和感に思ったのは、もう一組のディヴィアントだ。
あの気障ったらしい男の方が、なぜかシーニーをじぃっ、と見ていた。
シーニーは気づいていないようだったが……。ガキだからと、やはり戦力として疑わしく思われているのだろう、おそらく。
……実際、シーニーは戦うというよりもっと別の役割だしな。
閑話休題。
そういえば、これでディヴィアント6人が集合したが……町長が見当たらない。
ブルーノを見ると、彼は全員そろったことを確認して前に進み出た。
そして言った。
「えっと……皆さんお集まりいただけましたか。町長は、作戦の決行時には避難させてもらうことになっています。なので、今からぼくが案内を開始します」
若干震えた、人前での演説に慣れていない声で精いっぱいそう話す。
やはり彼のような気弱な人間にとって、この状況は緊張どころではないのだろう。半端ではない冷や汗も大量で、話す時もところどころ声がひっくり返っている。
そして、やはりそんなところを無視すればいいものを執拗に絡む奴がいた。山賊だ。
「オイオイ、こんな何の役にも立たねぇ坊主一匹置いて、町長サンは安全なお家に避難かよ?いいご身分だな、えぇ?」
ブルーノはすでに目にうっすら涙すらためている。……なんというか。
だんだん不憫に思えてきた。
俺は無言で山賊を睨みつけてやった。
「……あ?なんだテメェその目は?」
話をすることさえ汚らわしいな。
鼻を鳴らして目線を外すと、山賊は舌打ちしながらもとりあえず大人しくなった。そうだそのまま何も喋るな。お前が話すといろいろ進まない。
なぜかホッとしたようにブルーノが、ぎこちなくも話を再開した。
「こ、今回は……北地区からモンスターの群れが奇襲をかけてくる……はずです。もうすぐ来ると予測できました。……えっと、お願いします」
そう言って、ブルーノはその『北地区』への案内を開始した。
その後を、俺たち6人がぞろぞろと付いて行く。
いよいよ、討伐作戦の始まりか。
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.77 )
- 日時: 2013/10/01 19:06
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)
Chapter 7.
1 side bruno -ブルーノ-
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本気で死ぬと思った。もうあの時点でぼくの寿命は尽きたと思った。
まさかあの黒髪の人……アーテルって人が助けてくれたからよかったけど。まぁ、驚いて悲鳴をあげてしまったのはあの人がいきなり話しかけてきたから、というのも原因なんだけど……。
どうしてこう、ぼくはいつも怖がってすぐに悲鳴をあげてしまうんだろう。もう少しくらい胆の座った精神を持ちたかった……。
ぼくは昔からいつもそうだ。
虫一匹でさえ、殺すのが怖い。だって、殺した後で怨念が憑いたらと思うと蚊ですら潰せなくなってしまう。
こんな性格だから、おかげで子供の頃から周りにはからかわれてばかりだった。
もちろん、人前で話すなんてとんでもない。こうして一人で何かを考えたりするときは普通なんだけど……人と話すと、どうしても自分が何かミスをしていそうで不安になって、結局声が小さくなって何も喋れなくなる。
……だというのに、そんなぼくがどうして今、ここにいるんだろうか。
ぼくは今、ディヴィアントさんたち6人を連れて町の北地区へ案内していた。
すぐ後ろにいる6人は、本気を出せばいつでもぼくを殺せる能力者だ。
普段のぼくだったら、それだけですでに気絶できただろう。
でも、今はそんなことも言っていられない。
これは、絶対に失敗は許されない。町の運命がかかっているのだ。
ぼくはぼくの役目を果たさなければならない。
——ぼく自身もまた、『ディヴィアント』なのだから。
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この町で、ぼくがノーマル人間だということを疑っている人は誰一人としていないだろう。
今までの18年間、ぼくは自分が能力を持っていることをひた隠しにしてきた。
……いや、隠していたわけじゃない。運よくバレなかっただけだ。
もともと暗い性格のため、友人も少ないし、そもそも人と話すこと自体滅多にしないぼくだったので、自然とノーマルであると周りが認識していたのだ。
ぼくが自分の能力に気づいたのは、6歳の誕生日を迎えたとき。
あまり裕福ではない家で、ぼくの父さんが少ないお金で買ってくれた誕生日プレゼントがあった。一羽の小さな赤い鳥だ。
とても小さく、片手でも手のひらにすっぽり収まるくらいの鳥。
ぼくはその誕生日プレゼントが嬉しくて、鳥に何回も話しかけた。
すると、その鳥が急に、人間の言葉で返事をしたのだ。
——ぼくは、動物と会話ができる能力を持っていた。
当時、両親に『鳥の言葉がわかる』と必死で訴えたけれど、笑ってとりあってくれなかった。そのうち、あまりにぼくが必死なのを見かねた父さんは、
「冗談でもいい加減にしろ。間違えてディヴィアントだとでも周りに疑われたら、お前の人生はそこで終わるぞ!」
とぼくを叱った。
……そのまさかで、ぼくがディヴィアントだったとは夢にも思わなかっただろう。
でも、差別は怖かったし、何より『迫害』はぼくの中で一番の恐怖だった。
だから、それ以降は両親にさえその話をしなくなった。今頃は、ぼくが幼心に抱いた妄想とでも思って忘れているだろう。
余談だが、その時の赤い鳥は当時ぼくをいじめていた近所の子に殺されてしまった。今は庭で眠っている。良い仔だったのになぁ、あの赤い鳥……。
そうじゃなかった。
今は、ぼくはこの能力でモンスターの襲撃の場所を当てているのだ。
動物の話す事がわかる……無論、これはモンスターにも通用する。
何より、モンスターがこの町を襲うようになってから、なぜかぼくには『声』が聞こえるのだ。
歳はそう変わらない、女の子らしい『声』。
その声が、突発的に、幻聴のように聞こえてくる。
そして、モンスターの群れが何時どれくらいに、町のどの場所から奇襲をかけてくるのか、それらを教えてくれるのだ。
そう、町長に話していた、『生態調査と計算で割り出している』というのは全くの嘘。ぼくはそこまで頭はよくない、断じて。
この声の主が誰なのかはわからない。何が目的なのかも、さっぱりだ。
ただ、これだけは一つ。
——声の主は、何かに囚われている。
しかも、通信ができるのはぼくだけしかいないらしい。
あまり長い間の会話はできないし、ぼくがその声の主にいくつか質問をしてみても、そのヒトが答える前にお互い、声が聞こえなくなってしまうこともある。
……つまり、ぼくとその声の子が話せるのは短時間だけ。
いったい、ぼくには何が宿っているというんだろう。
そして、声の子はいったい誰なんだろう。
そう考えながら歩いていた時。
フツっ、ザァァ———。
頭に、小さな『ノイズ』が響いた。
(!もしかして……)
これは、あの声の子が話しかけてくる前兆だ。
ほどなくして、頭に直接語り掛けるように、あの『声』が聞こえた。
≪……聞こえる?少年≫
(聞こえる。どうしたの?今、クエストを受けたディヴィアントさんたちを案内しているところ)
すると、声の子は少し焦ったように話した。
≪急いで進路を変えて。北地区じゃない、もう少し東のほう。モンスターたちが、あなたたちの動きを悟ったみたい≫
(え……!?……うん、わかった。ありがとう、いつも教えてくれて)
しかし、ぼくがそう言い終わる頃には、ノイズは途切れていた。
本当に、これくらいの会話しかできない。
だからこそ、ぼくとこの子は未だに互いの名前すら教えていない。
でも、それでもぼくは構わない。
ぼくにとって、この声の子は町を助けてくれる救世主であり……
——初めて、ぼくがまともに話せるようになった友達だから。
(……相手も『友達』だと思ってくれればいいんだけど)
やはりそう後ろ向きなことを思わず考えながらも、ぼくはすぐに言われた通りに進路を変えた。北地区ではなく、北東だ。