ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.78 )
日時: 2013/10/01 20:13
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)

Chapter 7.

2

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急に、前を歩いていたブルーノが、何かに反応するようにピクッ、となった。
その数秒後、彼は突然歩く方向を東に向けた。

「……?おい、どうしたんだ」

俺が尋ねると、ブルーノは事もなげに言った。

「モンスターの動きが変わったんです。もう少し東のほうだと思いましたので……」

すると、またあの山賊が「本当かよ?つうか、なんで今そんなことがわかるんだ?」と聞いてきた。
ブルーノは山賊に対してだけ、いきなりものすごく怯えたようになって

「あ、えっとそれはえっとええと計算……が……」

と、早口で言い訳っぽくモゴモゴと言った。
結局説明になっていないが、そもそもこの山賊男が相手では恐怖でまともに話ができなそうだ。
山賊もそれを察したのか、「ケっ」と道端に唾を吐いて黙った。

なんだかなぁ……。
ふと、少し後ろを振り返るとちょうど後ろを歩いていたヴァイスが視界に入った。
ヴァイスはただひたすら無表情に、しかしどことなく何か思う節でもあるように、ブルーノの後ろ姿を眺めていた。

それにしても、歩き続けるたびにどこか不気味に感じる町だ。
先ほどから、建物の内側——窓やドアの隙間から、コソコソとこちらをうかがっている人影が何人か見える。
言わずもがな、この町の住人たちだろう。モンスターを討伐しに来たディヴィアントを、物珍しげに高見の見物といったところか。
自分たちは実際戦わないので、多少の恐怖はあれど好奇心のほうが勝るのだろう。

普段は違うのかもしれないが……そんな住人達の様子が、どことなくこの町を不気味にさせていた。

- - - - -

やがて、歩くうちに日はとっくに沈み、月明かりと自分の視力だけが頼りになる闇の中。

「ここです、着きました」

ブルーノが立ち止まった。

そこは、申し訳程度に造られた針金の柵が境界線となっている、町と谷の狭間だった。
柵と言っても、ほとんど俺の腰くらいまでしかない。下手をすればシーニーの身長のほうが高いくらいだ。

そんな柵の内側に、ブルーノを含む俺たち7人が集まった。
ちなみに町のはずれではあるので、民家は結構遠い。
一番近い建物でも、それなりの距離がある。
つまり今回、俺を含むディヴィアント6人は、あの一番近い建物のところまでモンスターを進ませないように討伐していくのだ。

ちなみに、その討伐の最中ブルーノはその建物の陰に避難してもらう。
で、俺たちが担当する位置は……西側。
ヴァイスとヴィオーラが東側で、あの胡散臭い2人組が正面だ。

ブルーノがそそくさと避難したのを見届けて、俺はしばらくその場でじっとしていた。隣でもシーニーがしゃがみこんで、木の枝で地面に絵を描いて暇を潰している。

——そうしてしばらくの時間がすぎた。




「来たか」




俺が呟くと、それを聞きつけたシーニーが「あ、来た〜?」とのんびり言って立ち上がる。

谷になっている……つまり、俺が今いる地点からすれば山の頂上になるあたりから、黒い群れがもぞもぞと蠢いていた。

それらは、徐々にこちらへ近づいてくる。

一見ゆっくり動いているように見えて——それらは、近づいてくるにつれて段々とその速度を現し始めた。

——猛スピードで、山を駆け下りてくるその大群。

(ほとんどがオークかゴブリンといったところか?)

両目を少し細めてよく見た結果、そう判断した。
やがて、一番前線を走るモンスター……木や石などで作った、原始的な武器を携えたオークが、ついに町まで降りてきた。




「ウオオオオオオォォォォァァァァァァァァァ!!!!!」




雄叫びをあげるソイツ。

しかし、針金の柵をソイツが跨ごうとした瞬間であった。


バンッ!!!


破裂音。

少々舞った土ぼこりが晴れると、そこには首をちぎられたようなオークがぶっ倒れるところだった。

やや驚きつつ、俺からして向かいにいる魔導師を見やる。

ヴァイスは、無表情で片腕を、今しがたぶっ倒れたオークにまっすぐ向けていた。
そして、それを静かに降ろす。

今ので、オークの後ろに続いていた群れは少しばかりペースを落とした。

(……やるな、魔術も)

横ではシーニーが、

「すごーい、マジックみたい!」

と、パチパチ手を叩いている。
俺はそんなシーニーの襟の辺りを掴んで、「楽しんでいる場合か、俺たちも動くぞ!」と言いながら持ち上げた。

若干乱暴ながらも、これが『俺がシーニーを持ち歩くときのスタイル』だ。

俺はシーニーを、ちょうど防具の盾のようにぶら下げながらモンスターの群れに向かって走って行った。
視界の隅では、同時にヴィオーラが動くのも見えた。

——さて、開幕か。