ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.8 )
日時: 2013/09/17 03:36
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: 9ofUG3IM)

Chapter 2.

1

- - - - -

と、いうわけで。
今回の依頼はいわゆる『暗殺』の類に属する。
なので、行動は夜になった。

効率的には暗殺より虐殺のほうが楽なのだが(人目を気にしてコソコソする必要がないので)、まぁ依頼人の事情が事情なので仕方ないか。

「あー早く夜にならないかなー♪」

まだ沈んでいない太陽を見上げながらシーニーが言った。
依頼を受けてからずっとこの調子だ。まるで夕飯のメニューがカレーライスに決まった時の子供のように無邪気だ。
と、そこでシーニーは俺を振り返った。

「ね、そういえば今回はロッソお兄ちゃんとルージュお姉ちゃんも一緒なの?」
「ん?ああ、そういえば成り行き上そうなってたな」
「そっか〜♪人数は多いほうが楽しいもんね!」

街中を歩きながらのこの会話。
道行く人々は、俺とシーニーを親子だか歳の離れた兄弟だかと思っているのか、微笑ましげに眺めて通り過ぎていく。
ふと、こういうときに思う。もしシーニーの考えている内容をこの人々が知ったら、どのような反応をするのだろう?
ひたすらに人間と『虐殺のやり合い』という『遊び』を楽しむ少年。
普通のヒトなら、口をそろえてこういうだろう。



——「狂っている」と。



だが、俺はそうは思えない。
シーニーは至って正気だし、別に普通の少年が……例えば読書を楽しむのと同じように、シーニーも趣味としてそれを楽しんでいるだけなのだ。俺だって趣味の一つくらいはある。今は言わないが。
とにかく、だからこそシーニーは狂っているとは思えない。
どこぞの変態のように『背徳感にゾクゾクする』だの『殺すたびに快感を感じる』だの、そんな気色悪いことはいっさい思わず、ただ『楽しい』だけ。だから俺はそう思うわけだが——


そう言った場合、大体の奴は『お前も狂っている』と言う。
ま、当たり前か。

結局は、俺も周りとはズレているのかもしれない。いろいろと。

「おーい、シーニー!」
「あ、ルージュお姉ちゃんっ」

遠くから呼びかけたルージュは、いきなりシーニーに、ロッソからもらった小型銃の銃口を向けた。

パンッ、パンパンパン!!

「あ。」
「!?っおい、」

ベシャァッ。

4、5発ほど命中した銃弾はシーニーの片腕をもいだ。脇腹からは血が吹き出し、内臓が見え隠れする。
しかし、そんな負傷は次の瞬間には、まるで逆再生したように蘇生を始めた。
もがれた腕の付け根からニュルニュルと新たな腕が生え、寸秒で元の腕が構成される。指先まで正確に。
内臓が見え隠れした脇腹は、ザァァッ、と皮膚が一斉に蘇生してはみ出した内臓を包み込み、後も残らない。外からでは見えないが、およそ体内の負傷した内臓も同時進行で蘇生しているのだろう。

そして、わずか1、2秒にも満たずシーニーは完全体に戻った。

「はっや!やっぱスゲェなー、シーニーは!」

感心したようにルージュが駆けつけてきた。走りながら横にポイッ、とゴミのように放った小型銃は、砕け散って霧散した。
ロッソも同じく後ろから付いてくる。
そんな双子にシーニーは、

「もお、びっくりしたよ〜。痛かったんだけどっ」

ぷくっ、と頬を膨らませて怒るジェスチャーをした。もちろんコイツのことだから、本気で怒っているわけがない。

「悪ぃ悪ぃ、ちょっと試してみたくてさ〜」

ヘラヘラ笑いながら謝るルージュ。



先ほどの俺の語りをちょっと訂正しよう。
俺は確かに世間からすればちょっとズレているかもしれない。
が、こいつらと比べればぜんっぜん常識人である。本当に。まだまともなほうである。本当に(大事なことなので2回言った)。



俺は一応、双子に注意しておいた。

「お前らなぁ、いくらシーニーの能力が『蘇生』だからって調子乗りすぎるといい加減殴るぞ」
「こっわー、アーテルが怒った!ぎゃはは」

ルージュは全く反省しない笑い声で笑った。……ったくこいつは。

「いや〜ゴメンね、アーテル。ボクも面白そうだからのってみたんだよね」
「のるな阿呆が」

ロッソは両手の熱を冷ますように、服に触れないよう空中でプラプラさせていた。

そうだ、いい機会だからこの2人の能力についてちょっと解説。

まず、ロッソは『製造』という能力を持っている。
名前の通り、あらゆる『物』を製造できる能力だ。何もない空間から、ただ両手のみを使って物を創造することができる。ただし生き物は作れない。
コイツはこれを使って、ありとあらゆる『武器』を作り出す。
マシンガンでも小型銃でも、時には剣やらメイスやら。
ちなみに、作り終わった後ロッソが再び念じると、作った物は消えてなくなる。
一見かなり戦闘に有利そうだが、欠点はある。
それは、作る物は一度に1つまでしか作り出せない。2つ目を作り出すと、1つ目は即座に消失してしまうのだそうだ。
そして、物を作った直後は両手が焼けた鉄のようにものすごい高温になる。急いで冷水などで冷やさないと、手以外の箇所——手首や腕などに、火傷が付きかねない。
そして、最大の欠点が……

ロッソは非力である。

いくら巨大なバズーカやマシンガンを作っても、それを操れないのだ。腕力が皆無だから(優男の容姿は裏切らない)。

しかしそれを補うのが、ルージュである。

ルージュの能力は『怪力』。こちらも名前の通り、明らかに人間業ではない怪力を発揮する能力である。
ルージュはロッソの作り出した武器を『振り回す』役なのだ。

要するに、ロッソが武器の提供者(あるいは囮)で、ルージュが戦闘員(あるいは盾)というわけだ。

ちなみにルージュの怪力の限界は、いまだ俺たちにもわからない。
ただ、大の大人の男6人が必死で運んでいた中型船を、たった1人で持ち上げて沖まで軽く運んだ経験がある。
一応少女であるし、結構細身な体つきをしているにも関わらず、その腕力はすさまじい。
力だけの対決なら俺でも負けるだろう。だが頭が悪いので、一応俺はコイツと勝負して負けたことはない(ちょっとした優越感を感じる俺も結局はガキなのか……?)。

閑話休題。