ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.81 )
- 日時: 2013/10/02 19:17
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)
Chapter 7.
3
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まず、俺は一番近くに寄ってきたゴブリンを2,3匹同時に蹴散らした。オークと違って、ゴブリンは体躯も小さく雑魚敵なのでまとめて始末しやすい。
蹴散らしたところで、まだ意識のあるゴブリンに向かってシーニーを放り、後始末を任せた。
「ほら、好きに刻むなりなんなりしろ」
「わーい、久しぶりだなぁ、この遊び!」
ポーチからサッ、と台所にありそうな包丁を取り出して、シーニーは嬉々として駆けて行った。まるで、公園で遊び相手になりそうな歳の近い子供を見つけたような無邪気さだ。
と、そんなことを思っていると俺の背後で気配がした。
振り向かずとも、横に移動し攻撃をよける。すぐ後に、俺が先ほどまでいた場所にはオークが振り下ろした棍棒が突き刺さった。
(町でも同族を見かけたな……こいつとゴブリンが一番多く生息してるってことか)
もちろん、他の種類のモンスターも何匹か見かけるが見かける頻度が高いのはオークかゴブリンである。
考えながら、俺はクルッと回るようにしてオークの背後を取り、遠心力を使って回し蹴りを腹に喰らわした。
倒れたところで頭を蹴って気絶させ、またシーニーの方へ転がす。
そう、ここでの役割分担では、俺が気絶なりして動けなくさせ、シーニーがとどめを刺すといった風だ。
あるいは、場合によってシーニーを俺の盾にする(これをやると、よく俺が悪者っぽく扱われるのであまりやりたくはないんだが)。
また数匹のゴブリンが同時に飛びついて来たので、ソイツらをまとめて始末。
と、そのうちの1匹にかなり強く俺の攻撃が当たり、即死してしまった。
「ちょうどいいか」
呟いて、俺はそのゴブリンの死体を持ち上げ、
丁度またこちらに向かってきたオークに、別の手で触れた。
瞬間、オークとゴブリンの双方で同時に奇妙な音が鳴った。
パキ。
バキボキバキっ。
どうやらゴブリンは骨が粉砕されて死んだようで、オークの体内からバキボキと丸太が折れるような音が聞こえた。
「グオオオオオアァアァァァァァァ!!??」
オークが驚きか痛みか、とにかく苦しそうに悲鳴をあげた。
うむ、なかなかよさそうだなこの方法は。
さすがの俺でも、オークの骨は頑丈過ぎて一発では折れない。
それに比べ、ゴブリンは基本的に何もかもが弱いので骨どころか内臓だろうが何だろうが損傷できる。
オークと状態が交換されて復活したゴブリンを再び殴り、俺はそのまま別の敵へ向かって行った。
- - - - -
「えげつない方法を使うな、貴様は」
引き続きオーク2匹を相手にしていると、どこからともなくヴィオーラの声がした。
かと思うと、上空から俺の背後にスタッ、と着地し、俺が相手にしていたオークの1体を凄まじい速さの連蹴りで亡き者にした。
俺も同時にもう一匹のオークを倒し、初めてそちらを振り返って答えた。
「これが俺の能力だもんで。お前もそれが一番能力を有効活用できるからそうやってるんだろ?」
ヴィオーラは不機嫌そうにフン、と鼻を鳴らした。
話題を変えるように彼女は短く言ってきた。
「もうすぐ主が『術式構築』を終える。合図で身を伏せろ」
返事も待たずに、ヴィオーラはまたどこかへ飛んでしまった。
(……術式構築?呪文の詠唱かなんかなのか?)
俺が疑問に思っていると。
カッ!!
地面が光り、そこら中一帯が真っ白い幾何学模様で埋め尽くされた。
いや、巨大な魔法陣が瞬間的に地面に広がったのだ。
「うわ、なんだこれ」
「伏せろ!」
上空からヴィオーラの声。
言われるまでもなく、俺は直感で嫌な予感がしたので身を伏せた。
それとほぼ同時か。
ヴァイスが、聞き取れない『何か』を唱える声がした。
「『——————』。」
次の瞬間である。
魔法陣の内側に立っていたモンスターが、全員まったく同時に首を切り落とされた。
ボト、ボトボトっゴトン……
モンスターの切り離された頭が、鈍い音をたてて次々とその首から地面へ落下する。
その斬られた切り口は、まるで人口的に作られたように滑らかで、あらゆる刃物を使ったとしてもあり得ないほどきれいな切り口だった。
「なんつう魔法だよ……」
呟きながら俺は立ち上がった。
どうやら地面に伏せていれば今の魔法にはかからないらしく、俺と他に運よく地面で寝ていたモンスターは無事だった。
また、魔法陣の外には効果がないらしく、外にいたモンスターは悠然と生きていた。
「……いっそのことこの魔法を使いまくれば、あの魔導師一人で十分なんじゃ?」
思わずそう独り言ちると、「それはない」と声をかけられた。
見ると、ヴァイスが片腕をもう片方の手で抑えながらなぜか座って休憩していた。
「この魔術は一回だけでも私の体力を大幅に消費する。連続では使えない。あと術式の構築にも時間がかかる」
気のせいか、まるで自分のその身体が少し気に入らないような、不満げな様子で彼は話した。まぁ、表情はやはり変わらないが。
「つまり私が戦えない間は、ヴィオーラにも君にも戦ってもらう。がんばれ」
とってつけたように、思い切り棒読みで応援された。
「ンな無表情で気持ちも込めずに『がんばれ』とか言っても応援にすらならねぇよ」
思わず苦笑しながらそう言ってやり、俺は再びモンスターの群れに戦いを挑みに戻った。
去り際、なぜかヴァイスは俺がそう言ったことを心底不思議に思うように小首を傾げていた。
……案外、コイツも表情がなさすぎるだけで本来はただのマイペース屋なのかもしれんな。