ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.82 )
- 日時: 2013/10/02 20:01
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)
Chapter 7.
4
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そうしてしばらく戦い、モンスターも半数が減ってきたころ。
俺は、ふと先ほどから見かけているのがヴィオーラとヴァイスくらいしかいないことに気づいた。
何回か跳躍して空中で戦っているらしいヴィオーラが、またスタッ、と地面に着地したタイミングを見計らって話しかける。
「なぁ、アイツらは?あの感じ悪い2人組」
「自分にとっては貴様も十分感じが悪いが。……そういえば見かけないな」
憎まれ口を叩きつつも、ヴィオーラは思案するようにそう答えた。
上空で戦っているから、そこから見下ろせば地上で戦っている人間はすぐに見つけられるはずだが……。
念のため、俺は辺りを見回した。が、やはりあの2人組は見つからない。
呆れたようにヴィオーラが皮肉気味に言った。
「怖気づいたのではないのか?とくにあの子男、自分を下心見え見えの気色悪い眼差しで見回していたというのに、それこそ己が戦力外だと現場で気づいたのでは」
棘、というよりもはや槍のような、グサグサくる毒舌を振りまくヴィオーラ。というか、見られていたのは自覚していたのか。
しかし、俺は尚もそのように——同じようには考えられなかった。
別にあの2人が尻尾を巻いて逃げ出していようが、俺には関係ない。ただ始末するモンスターがその分、少し増えるだけだ。
だが……何か引っかかる。
と、その時だ。
「……だから忠告してあげたのに」
ボソッ、とヴァイスの声が聞こえた。
休憩を終えたのか、ゆっくり立ち上がる。即座にヴィオーラが駆け寄った(ちなみにその道のりで邪魔をしてきたモンスターは、もれなく寸秒でお亡くなりになった)。
「主、休息は十分ですか?自分はまだ戦えますが」
「もういい。それより、」
ヴァイスがこちらを向いて、今度こそ明確に俺に答えを示した。
「シーニー、とかいう少年、ちゃんと見張ってた?」
「!」
まさか。
いや、そもそもアイツは文字通り『殺しても死なない』奴だ。襲ったところでメリットなんて一つも……。
そんな思考を、また別の声が——ただでさえボソボソしていて小さいのに、遠いためさらによく聞こえない声を精いっぱい張り上げたそれ——が、遮った。
「アーテルさん!つ、連れの方が……!」
ブルーノである。
隠れていた建物から外に出ていて、それだけでも相当な勇気を振り絞ったのだろう。
それでもブルーノは、必死で俺に状況を伝えようと叫んでいた。
「あの2人組が、シーニーさんを誘拐しました!!」
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「ったく、ふざけるなよな!?」
悪態をつきながら、俺は絶賛逆走行中である。
隣を必死で付いてくるブルーノが、そんな俺の声にまたビクッとなったので「お前じゃねぇよ」とだけ言っておいた。
くそ、ホント何やってるんだ!
あの馬鹿2人も、シーニーも、俺も。
幸い、それまでの戦いでモンスターはかなり減っていたのであとはヴァイスとヴィオーラだけに任せても十分だとされた。
ブルーノが目撃した方向へ俺を案内してくれるのだが、俺ばかりが焦りすぎて逆に追い越してしまう。それがもどかしい。
正直言って、あの山賊と小男が(何の目的かは知らんが)シーニーを誘拐した現場で、それを見かけた時点でどうして止めに入らなかったのかとブルーノを問い詰めたくもあった。
だが、そんなことは時間の無駄なうえに、俺の身勝手な理不尽でしかないとすぐにわかる。
……そもそも、ブルーノにあの山賊を止める力があるわけがない。何か対抗できる能力でも隠し持っていれば別だが。
と、そこで、俺は前方に人影をとらえた。
「いたか!あの野郎ブッ殺す!」
「ひぇっ!?」
「だからお前じゃない」
いちいちビクつくブルーノに呆れたが、おかげで幾分かの冷静は取り戻せた。
俺はさらに疾走に拍車をかけ、シーニーを誘拐した2人に追い付いた。
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山賊は、足音に気づいてこちらを振り返った。瞬間、「げ!?」と嫌そうな声をあげる。いや「げ」じゃねぇよ、当然だろうが。
そんな山賊に、米俵のように担がれたシーニーが俺に向かって、
「あ、来た来た〜。遅かったね?」
と手を振ってきた。お前もお前だな、ホント。
逃げようとする2人組だったが、俺は民家に立てかけてあった小さ目の植木鉢を引っ掴み、それを思い切り投げてちょうど2人組の目の前に落下するように狙った。
なんとか狙い通り、植木鉢は逃亡を試みた山賊の目の前でガチャン!と割れる。直接のダメージはないが、とりあえずそれで竦ませて時間稼ぎをすることができた。
ブルーノが「えぇ……!?」と声を漏らしポカーンとした顔で見つめてくるが、この際気にしない。
「お前ら、よく俺のタッグ勝手に持って行ったじゃねぇか。……意味、わかってるんだろうな?」
——ディヴィアントの世界に置いて、タッグが決まっているディヴィアントを連れ去ったり誘拐をすることは、そのもう一方のディヴィアントに喧嘩を売っていることになる。
まぁ、『便利なディヴィアントをタッグにしたい』と考える奴がよく用いる、タッグをかけた決闘のようなものだ。
しかし、山賊はこちらを振り向きながら、
「し、知らねえよ!おれはこの男に言われた通りにやっただけだ!!」
と、わめき散らした。
俺は思わず眉をひそめて「は?」と呟く。
すると、笑い声が響いた。
ククククク……。
笑っていたのは、それまで黙っていたあの山賊のタッグの男だった。
「……なんだよ?妙な発作でも起こしたか」
俺がそう言うと、男は顔をあげた。
「この少年は我々が、奴隷として売りさばいて金になってもらう」
堂々と、男はそう言い切った。