ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.83 )
日時: 2013/10/03 19:23
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)

Chapter 7.

5

- - - - -

「……どういう意味か、馬鹿な俺にもわかるようにもう一回言ってみろ」

俺は、できるだけ感情を殺して静かに尋ねた。隣で気配を感じ取ったブルーノがまたビクリと竦みあがるのが視界の隅に見えた。

子男は俺のこの問いの意味を理解もせずに、偉そうな態度でペラペラと喋った。

「そのままの意味だよ、この程度の語学も理解できないのかね?この少年はディヴィアントだ。それも、いくら傷をつけても無限に再生する能力を持っている、世にも珍しいディヴィアント。物好きな貴族連中にとっては、是非とも手に入れてケースに入れて、独り占めしてみたいと考えるような代物さ。とんでもない巨額で売れるだろうね。そもそも、こんなさびれた町のはした金でやるようなクエストをこのわたしが受諾すると思うかね?」

すると、その隣で下卑た笑いを浮かべた山賊が、とんでもないことを言った。

「まぁ、最初からおれたちはそれが目的だったんだがな。そもそも、おれもコイツもノーマルだしな」
「な……!?」

ブルーノが、思わずといった風に驚きと怒りの声をあげた。

「まさか……あなたたちは、クエストを受諾して集まったディヴィアントさんたちを狙って、自分がノーマルであることを偽って……!?」
「お前はそいつと違って理解が早いな、小僧。ま、そういうこった。まさかこんなドンピシャで大当たりを引くとは思わなかったがな!」

心底嬉しそうにシーニーを担ぎなおす山賊。
ブルーノは、その普段は比較的おとなしいと見えた彼にしてはかなり珍しく、怒りを露わにした。自分の町の将来に関わる問題を、こんな奴らの計画のダシにされたのだから当然だ。

そんなブルーノの反応など、子男は全く眼中にないかのように俺に問うてきた。

「あぁ、それとも君も分け前が欲しいのかな?そうだねぇ、どうせだったら君にも取り分を決めてあげないこともないが、」
「言いたいことはそれだけだな?」

俺は男のセリフをぶった切って、最後の『確認』をした。
同時に「は?」という顔になる山賊と小男。
勘がいいのか、ブルーノはソロリソロリと俺から距離をとるように後ろへ下がった。この状況ではある意味賢い選択だ。

「よし。……お前らブッ殺す」

言った瞬間、俺は足に渾身の力を込めてスタートダッシュを切った。
うわ、と驚いて逃げようとする山賊を、子男がガシッと掴んで俺の前へ盾のように突き出す。その間に、自分はしっかりシーニーを回収していた。

「な、何するんだテメ……」

言い終わる前に、山賊は俺の目の前で無様にこけて転がり込んだ。
俺は、容赦なくその山賊の腹を踏みつけた。

ぐふっ、とくぐもった声をあげる山賊。
続けざまに俺は山賊の顔面を殴った。ボキ、と鼻の骨が折れる音が聞こえ、次にブチュ、と目玉が潰れる音が聞こえた。

「うぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

絶叫。
山賊は必死で潰れた片目を手で抑える。ちょうどよかったので、その抑えた手を上からさらに俺の足で踏みつけた。
ごきり、と硬い音がして、山賊は気絶。どうやら力を咥えすぎて首を軽く折ってしまった。今さらどうでもいいが。

その踏みつけた態勢から俺はそのまま山賊を踏み越えて、シーニーを連れて勝手に逃げたあの男を追おうとした。

が、しかし。

「ま……待ってください、アーテルさん!」

後ろから、ブルーノがそう止めてきた。
俺は若干イラつきながらも、反射的に振り返った。
ブルーノは俺の様子を正面から見て、一瞬また竦んだが、それでも気を持ち直して言った。

「その先は……モンスターが向かって来ています」

少し震える指先を、子男が逃げて行った方向に差した。
その直後。






——や、やめろおおおおおぉぉぉぉぉ!!!






ぐちゃっ。






先ほどまで気障ったらしく喋くっていたあの男の悲鳴と、
何かが振り下ろされるくぐもった音が鈍く聞こえた。

- - - - -

駆けつけた時には、もう何もかもが終わっていたようだった。

肉塊と化した子男とシーニー。
そのうち、男の方の肉をむしゃむしゃと貪り食うオーク。
それにはもはや原型はなく、ただ白い脂と真っ赤な血、ピンク色の内臓が滅茶苦茶に混ざり合って、幼稚園児がクレヨンで塗りつぶしたお絵かきのようになっていた。

「ひぐっ……う」

思わず、ブルーノは顔を真っ青にして口元を抑えしゃがみこむ。……まぁ、『こういうの』を見慣れていない奴には当然の反応だな。
うぐ、と嗚咽をあげて吐きたくても吐けない様子のブルーノに、俺は一応「大丈夫か」と一言声をかけておいた。

そのうち、オークが貪り食う肉塊の中からピクリと反応する『一部』が出てきた。
それは、地面をゆっくりと這いずりまわり、それぞれの肉塊を拾って大きくなり始めた。

やがてその肉塊はだんだんヒトの形を取り戻し、
内臓が立体パズルのように組み合わされ、
それに巻き付くように細い血管がまとわりつき、
それを支えるように骨が組み立てられ、
それを包むように皮膚がベロン、と巻き付いた。
——やがて、そこにはすっかり元に戻ったシーニーが立っていた。

「ふぅ〜。あはは、楽しかったー♪」

すっごいスリリングだった!と嬉しそうに飛び跳ねるシーニー。
顔をあげたブルーノは、そんなシーニーの様子を、先ほどまで吐きそうになっていたことも忘れてポカーンとした顔で見上げていた。