ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.85 )
日時: 2013/10/03 20:05
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)

Chapter 8.

1

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オークは肉塊を食べるのに夢中なようで、復活したシーニーや俺たちの様子には気づかないようだった。
その間にシーニーを連れて俺は距離をとる。置いて行かれては命がないと言わんばかりにブルーノも必死で付いてきた。

それにしても。

(あれが、ノーマル人間としての暮らしを捨ててでも金を欲しがった、『贋者』の末路か)

俺は、ひとまず冷静さを取り戻した頭で考えた。
ヴァイスの警告、『贋者』の意味がここに来てわかった。つまりはまぁ、『贋者のディヴィアント』、ノーマル人間の詐欺師だ。

「馬鹿なことに突っ走ったな、あの2人も」

俺がボソッ、とそう言うと、それを聞いたシーニーが「でも楽しかったよー?」と呑気に言ってきた。
とりあえずその頭を軽く殴って「お前はもうちょっとくらい危機感を持て!」と叱っておいた。……ったく、奔走することになるのは俺なんだぞ。
そんな俺たちの様子を、ブルーノは物珍しげに眺めていた。
と、そこで俺は思い出す。

「あぁ、そうだった。お前、ありがとうな」

礼を言うと、ブルーノは「へっ!?」となぜか軽く飛び上がった。だからなんでそこまで怖がるんだ……。
おずおず、といった風にブルーノは聞き返す。

「えっと……すみません、何のお礼……でしょうか?」
「は?……だから、お前がシーニーが誘拐されたことを知らせてくれたことに対してだけど」

ブルーノは面食らったように、まるでお礼を言われたことが心外だと言わんばかりにキョトンとしていた。が、しばらくしてやっと意味を理解しきったらしく、「あ、いえ……そんなことは」と謙遜を始めた。

そういえば、もう一つ聞きたいことがあった。
俺は、ブルーノに尋ねた。

「なぁ、なんでさっきすぐにモンスターがいることがわかったんだ?」

まさかあの土壇場で、また計算がどうのこうのというのはあまりあり得ないような気がしたのだ。
すると、ブルーノは先ほどから衝撃的なモノを見てしまったり、いろいろストレスを受けていたからつい判断力が鈍ったのだろう。
不思議なことを口走った。

「いえ、遠くから『お腹がすいた』と言うモンスターのうめき声が聞こえたので……」
「モンスターのうめき声?」

俺が聞き返すと、ブルーノはハッ、となって、次にはまた顔を真っ青にした。
……明らかに口が滑った様子だな。

むむ?とシーニーがブルーノの前に回り込んだ。
思わず数歩後ずさるブルーノに対し、シーニーはさらに踏み込んで顔を覗き込む。

「んー?何隠してるの〜、ブルーノさん?」

次にニッコリ笑って、「教えてよ!」である。
……ある意味では、ブルーノの豆腐メンタルを確実に追い詰める方法だ。

ブルーノは歯の根も合わない様子で怯え、

「あ……ち、違うんです……えっと」

と必死で何か言い訳を考えていた。
俺は、いい加減シーニーに「やめてやれ」と声をかけようとしたのだが……。その前に、シーニーが口を開いた。

「あ、わかった!さっきの人が『贋者』だった、ってコトは〜、ブルーノさんが『本物』だったんだ!」

図星、という字がブルーノに突き刺さる幻影(ビジョン)が見えた。

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ヴァイスとヴィオーラの居る北東へ戻る道すがら、ブルーノはほとんどシーニーに懺悔でもするように全てを話した。
俺としては、そこまで無理して話す必要もないと思ったのだが……シーニーが、完全に面白がっているキラキラした目で見上げてくるので結局放っておいた(このガキは天使の皮をかぶった大悪魔である)。

俺もついでのようにそのブルーノの話を聞き流していたのだが……。
それにしても、また俺の知らなかった種類の能力を持った奴がいたものだ。
『人間以外の生き物と、心で会話ができる』能力。
もともとディヴィアントには、どんな能力が何種類存在しているのかは誰も知らないことだ。新しい能力が無限に生み出され続けている、とも言われているくらいである。
まぁ、だからといって必ずその能力が被らないわけではないらしいが。
同じ能力を持った別々のディヴィアントも時にはいるのだそうだ。噂だがな。

閑話休題。

俺は、ブルーノの話が終わったところで一応確認した。

「つまりは、お前がモンスターの襲撃を予測できたのはその能力のお陰だった、ってワケか?」
「はい……すみません」
「いや、謝れと言うわけじゃないんだが」

別に悪用していたわけでもないし、謝る必要はどこにもない。
それでも、ブルーノはどこか落ち込んだ様子だった。
おそらく、罪悪感にでも苛まれているのだろう。典型的な『善人』といった性格していたしな、コイツ。

と、そこでシーニーが不思議そうに言った。

「でもさぁ、謎だよねぇ、その『声』のヒト。ブルーノさんにわざわざお知らせしてくれたんでしょ?モンスターの中の裏切り者かな〜」

どこそかの探偵ぶって、シーニーはわざと難しい顔をして考えるフリをした。
だが確かにそれは気になる。また新たに謎の人物だな。
そう考えるのはブルーノも同じようで、「そうですね……」と同意していた。

やがて、目的地に俺たちは戻ってきた。