ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.86 )
日時: 2013/10/04 20:01
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)

Chapter 8.

2

- - - - -

「やっほー、ただいま〜♪」

シーニーが先に駈け出してヴァイスとヴィオーラにそう声をかけた。
しかし、そのすぐ後シーニーは「アレ?」と首を傾げた。何か様子がおかしい。

「どうした?」

俺とブルーノも続く。
そして、シーニーが首をかしげた意味がわかった。

なぜか、目の前でモンスターが輪を作っている。
そして、それをヴァイスとヴィオーラは静かに傍観していた。
俺たちに気づいたヴァイスが顔の向きだけ少しこちらに向けて、

「お帰り」

平坦な声で短く答えた。
いや、それはわかるんだが。

「……何やってる……ところなんだ?コレは」

モンスターが目の前にいるというのに、なぜか2人は戦おうとしない。
するとヴィオーラが、苦々しげな顔でその答えを説明した。

「彼奴ら、別の作戦に変えたようだ。自分が戦いを仕掛けても、逃げ惑うばかりで相手にせん。それどころか、作戦会議でも開き始めた」

……敵の目の前で、かよ。
モンスターの方もどういう神経をしているんだかサッパリだな。

俺はヴァイスに尋ねた。

「なぁ、だったらこういう時こそ魔法で残りを一気に残滅とかできねぇのか?」
「無理。術式を練り始めると気配を察知してバラバラに逃げるから、魔法陣の外に出てほとんど当たらない。体力の無駄」

体力の無駄って。もうちょっと頑張ろうとか考えないのかコイツは。

「貴様、主の繊細な身体に無駄な負担をかけろと言うのか?」

ヴィオーラは紫の瞳をまた鋭い刃物のように細めて睨んできた。……というよりお前、俺の考えがわかったのかよ。

——っと、そうだった。
こんな2人より、それこそもっと役に立つ人物が今こそいたじゃないか。

ブルーノに、モンスターがいったい何を喋っているのかを尋ねようと俺は振り返った。

……しかし、ブルーノはというと。

「……!」

驚愕と怯えの混じった表情で、モンスターの輪を凝視していた。
——明らかに何か、よからぬ事を聞いたようだ。

「おい、ブルーノどうし……」
「に、逃げてください!!」

俺が尋ねる前にブルーノは叫んだ。
俺たちは、いきなりで少し面食らったが、ブルーノは必至である。

「あのモンスターたちは、町の食糧なんかを狙っていたんじゃない……!『生贄』を探していたんだ!!」
「え?いけにえ?」

シーニーが聞き返す……と、それにかぶさるようにヴァイスが静かに、だが鋭く言った。

「遅い。気づかれた」

……この魔導師は本当に必要最低限の言葉でしか話さないな、わかりにくいことに自覚はないのか。
だが、それでも俺は嫌でもその意味がわかった。



輪を解いたモンスターが、一直線にこちらへ向かって全力疾走してきた。
それこそ、我先にと競争のように。
——まるで、お目当ての獲物が見つかったように。

「うわあああ来た!!こ、こっちに……!?」

ブルーノはパニックで話している内容が若干おかしくなっている。何が言いたいのかは何となく伝わるが。

「とりあえずお前は落ち着け、俺たちで大体なんとかなるから」

それだけ言っておいて、俺はモンスターたちを迎え撃った。
「うわーいさっきの続き♪」とシーニーもそれに続き、ヴィオーラも無言で走り出し、ヴァイスは何か目を閉じて俺には聞き取れない長い言葉を呟きだした。






——しかし、である。






「は?」
「あれぇ?」
「なっ!?」
「……?」

ブルーノを除く俺たち4人は、それぞれの様子で奇妙に思ったことを表した。

モンスターが、戦おうともせずに俺たちを素通りしたのである。
そして、ソイツらはさらに一直線に走り……。

(まさか!?)

一番後方にいたヴァイスをも通り過ぎ、——その後ろで震えていた、ブルーノにめがけて突っ走った。

「そっちかよ!?狙いは!!」

あぁくそ、と悪態をついて俺はすぐに方向転換をした。
考えてみれば、これは考えられた事態だ。

先ほど、モンスター討伐と称して俺たちが戦っていた時、ブルーノは建物に隠れていてモンスターは彼を知らなかったのだ。
それが、今になって姿を初めて現したブルーノに、モンスターは反応したのである。
ブルーノがコイツらから何を聞き取ったのかは知らないが、恐らく『生贄』というのは、まさにブルーノのことだったのだ。

(……なんかよくわからねぇことだらけだが……この際、考えている暇はねぇ!)

足の遅いシーニーはとりあえず放っておいて(どうせ後で回収する)、俺はとにかく走った。