ダーク・ファンタジー小説
- Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.87 )
- 日時: 2013/10/05 14:17
- 名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)
Chapter 8.
3
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しかし、さすがの俺でも今の遅れを取り戻してモンスターに追い付くには少し無理があった。
しかも、ブルーノは恐怖で足が竦んだのか動けないでいる。……最も、今逃げたところで彼の足ではすぐに追いつかれるだろうが。
モンスターはブルーノの目の前まで来ると、
「ギャオオウ!」
「ガー!ガー!」
と、何か会話らしい会話(?)をしてブルーノを、襲う……のではなくひょい、と担いだ。
……本気で生贄にするつもりか、コイツら。
「くそ、やっぱり間に合わなかったか……」
その時点で、俺はもう走るのをやめた。
別にここで止まっていても、山に帰るらしいモンスターが勝手にこちらへ向かってくるからだ。
どうやって迎え撃ち、なおかつブルーノを取り戻すか……。
今のブルーノは、半ば人質のような物である。迂闊に攻撃をすることもなかなかできない。
あまり期待はなかったが、一応ヴァイスの方をチラ、と振り返って「どうにかできないか」と目で尋ねた。
しかし、ヴァイスは黙ってかぶりを振った。
むぅ、魔法も万能ではないとわかっていたが……何ともやりきれないな、これは。
「は、離してくださいっ……!あ、いえあのそうじゃなくてやっぱりすみません」
ブルーノが抵抗しようともがくが、それもどこか怖々と控えめなもので、むしろ大人しくなってしまい抵抗になっていない。
シーニーがまた「どうするー?ほっといて帰る?」と冗談めかして言い始めたその時だ。
「『止まりなさい』!!」
突如、背後の山からそう、女の声が聞こえた。
瞬間。
先ほどまでギャアギャア騒いでいたモンスターは水を打ったように黙り込み、さらにその場で固まるようにして動きを止めた。
「……なんだ?」
俺が不審に思い呟くと、ヴァイスがぼそりと答えた。
「『言霊』。どこかに居る、誰かが」
コトダマ?……また俺がよくわからん専門用語が出たな。
そうしている間に、ブルーノを担いでいたモンスターが、急に動いた。
ゆっくりした動きで、壊れ物を扱うようにブルーノを地面に降ろす。
すると、またあの声が聞こえた。
「そう、それでいいの。その子には誰も手を出さないで」
モンスターはまるで忠誠を誓うように、その声の方向に向かって次々と片膝をついた。人間の真似ごとをするように不器用で不格好なその姿勢だったが、それは紛れもなく『1人の声の主を崇める』物だった。
俺は、背後の山を振り返った。
——木々の緑と、全く同じ色の瞳をした少女がそこにポツンと立っていた。
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少女は、まるで家なしの子供のように質素な服を着、靴も履いていなかった。髪も伸ばしっぱなしでかなり長い。女に対してこう言っては何だと思うが——まるで野生児だ。
彼女は誰の視線も全く気にせず、その裸足でペタペタと歩き、ブルーノに近づいた。
「大丈夫だった?少年」
少女はブルーノをそう呼んだ。
ブルーノは、というと。
「やっぱり……。あの『声の子』、君がそうだったんだ」
確信を持ってそう少女に話しかけた。
少女はそんなブルーノに少しだけ微笑みかけた。
「そう。『初めまして』でいいかな?少年」
2人以外の周りは、誰もが傍観者となっていた。
「ねぇねぇ」
ふとシーニーがくいくいっ、と俺の服の裾を引っ張った。
「なんだよ?」
「あの子が『声の人』ってことは〜、あの子がモンスターの中の裏切り者なのかな?」
……いや、『裏切り者』はないだろう。
むしろ、モンスターたちは明らかにあの少女を敬っている。何があったのかは知らんが。
その会話が聞こえたのか否か、少女が急にこちらを振り返った。
そして静かに言った。
「少年が話していた『討伐者』ってあなたたちよね?少し話がしたいの」
俺は他の3人を見てみた。
シーニーは明らかに興味本位で目がキラキラしている。
ヴァイスは無表情のままだが、この様子だったらどうせ少女の話を断る気もとくにないだろう。ヴィオーラは言わずもがな、そのヴァイスの決断に一も二もなく従う。
「俺はいいけど。とりあえずこっちもお前に聞きたいことがある」
俺は少女にそう返事した。