ダーク・ファンタジー小説

Re: -deviant- 異常者たちの物語 ( No.94 )
日時: 2013/10/06 12:48
名前: エンヴィ ◆3M6zglQ7Wk (ID: /TProENM)

Chapter 8.

4

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なぜか少女はモンスターたちに崇められているようで、俺たちが少女と向かい合うと、モンスターがその周りをグルリと取り囲んで見張るように見物を始めた。……若干居心地が悪いな。

ブルーノはどこにいればいいのか迷った末、俺と少女の間あたりに所在無げに立った。周りのモンスターをちらちら見て不安げに気にしている。

ヴァイスは相変わらず興味があるのかないのか、無表情で後ろに控え、ヴィオーラはそれに従っているだけなのでほぼ必然的に会話の代表者は俺になった。
俺はまず少女に尋ねた。

「お前……あの山で暮らしているのか?このモンスターたちと」
「そう。わたしはベルデ、——モンスターの『奇行種』」

奇行種……?
俺は少女……ベルデをもう一度見た。
……どこからどう見ても、人間である。

そんな俺の考えを察したのか、ベルデは説明をしてきた。

「わたしはモンスターから生まれながら、人間の姿をしているの。だから『奇行種』。モンスターの話す言葉もわかるし会話もできる」

ブルーノがわずかに「え?」と何か言いかけたが、ベルデは続けた。

「モンスターたちはわたしを『神の産物』だと崇めて、『姫』の役割を与えて育ててくれた。だからわたしは彼らの代表なの」

……なんとなく理解した。
ベルデの話を信じるなら、彼女はモンスターから生まれたが人間の姿をしていて、それをモンスターたちは特別扱いして代表者に据えたとうわけか。

ベルデは表情を変えないままひどく真面目に、冷静に話す。
だが……彼女の話は、ほとんどが俺にとっては信じられないモノだった。
モンスターから人間の姿をした赤子が生まれるなんて聞いたことがない。ヒト型のモンスターならともかく、こんなオークやゴブリンからここまで完璧な人間が生まれるなんてありえない。……はずだ。

同じことを思ったらしく、ブルーノがベルデに思わず言った。

「待って、代表者……っていうのはわかるけど、君は人間だよ!今までぼくと話していた時だって、君は人間の言葉を話していたじゃないか!」

しかしベルデは寂しそうに笑って否定した。

「ごめんね、少年。騙していたみたいで悪かったけど……。わたしが人間の言葉を話せるのは、モンスターが山を通りかかった商人から本や書物を奪って、それでわたしに勉強をさせてくれたからなの」

流暢に人間の言葉を語る、自らをモンスターだと称する少女はそう答えた。
さらに、ベルデはこうも続けた。

「今まであなたにモンスターの動向を教えていたのは、あなたを町の郊外……山に近づけさせるため。わたしもモンスターも、町の中には入れないし、入ったところでみんな隠れてしまうから、あなたに会えなくなってしまう。だからこの『作戦』を思いついたの」
「……まさか、それって、……」

ブルーノが何かを察したように、怯えた風で言いかけた言葉をベルデが引き取った。

「そう。わたし、ずっとあなたに会いたかったのよ。幼いころ、同じ人間の誰とも遊ばず赤い鳥と会話をしていたあなたを見かけて、わたしは友達になりたいと強く思った。あなたは他の人間と違って、『人ならざるモノ』と心を通わせる能力がある。……だから、わたしの仲間になってくれると思ったの」

そして、言った。

「モンスターが、わたしの為に町まであなたを探しに行ってしまったのは誤算だったけれど……そこからわたしは、この作戦を思いついた」

俺は、その時のベルデがブルーノに向けた優しげな笑顔を見て、


背筋が凍った。


それは、あまりに自分の望むものを求めすぎて、周りがどうなろうが本当にどうでもいいと考える、狂人の笑みだった。

ベルデは急に振り返り、モンスターたちに話しかけた。

「あなたたちもダメじゃないの。乱暴に扱ったら怖がられるって教えたのに。この子がまた隠れちゃったら、わたしこの子と会う手段がまたなくなるのよ?」

モンスターはまるで心底申し訳ないと言うように跪いた。

……何だろう。

俺たちなんかより、この少女のほうがよっぽど『ディヴィアント(異常者)』なんじゃないかと俺は本気で思った。

少女はモンスターたちが謝ったのを確認したのか、満足そうに笑って、また俺に向き直った。

「そういうわけで。わたしもモンスターも、目的はこの少年だけなの。だから、これ以降はもう町も襲わない。ごめんね、あなたたちには遠くから来て無駄骨だったかもしれないけれど、もう仕事はないから」

ベルデは笑う。
ブルーノに会えたことを、本当に嬉しがるように。

そして、ブルーノは絶望的な表情で膝をついた。

「嘘……だろ?それじゃぁ……この町が襲われたのは、全部ぼくのせいってことじゃ……」

ブルーノの瞳から、涙が零れ落ちた。

「じゃあ、あのモンスターを止めようとして死んでいった人たちは……!叔父さんも、近所のあのお兄さんも、おばさんたちやみんなは……!」

……それに対し、ベルデは無表情に戻り、ブルーノのすぐそばに近づいた。
そして、きゅ、と抱きしめた。

「もう大丈夫だから。あなたを苛めていた人も、みんな殺した。わたしがあなたに会うついでにね。少年、もうあなたは誰からも苛められないわ。それで、わたしと一緒に来るの。素敵でしょう?」

ベルデは心の底から愛情を表現するように優しげな声音で話して聞かせた。ブルーノはもはや言葉にもならず、ただかぶりを振った。

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俺は、そんな様子のベルデを見ながら隣にいるシーニーに話しかけた。

「なぁ、シーニー」
「んー?何〜」
「俺さ、——この『やり方』若干気に入らねぇんだが」
「あはは、やっぱり?言うと思った♪」

後ろで、ため息が聞こえた。ヴィオーラだ。

「貴様らはまた何をやろうとしている?これ以上あの娘が何をやろうが、自分たちには関係もないだろう?」

俺は言ってやった。

「あぁ。だからお前にも関係ねぇ。俺の気分の問題だ。……興味ないんだったら、お前らはもう帰っていいが?」

すると、ヴァイスが口を開いた。

「いや、残る。……面白そうだから見物だけしてる」
「見てるだけかよ」

冗談っぽく言ってやったが、魔導師は肩を軽くすくめただけで全く悪びれなかった。まぁ、コイツはそういう奴だしな。

ヴィオーラが何かヴァイスに言いかけたが、結局自重したのかやめた。
俺は、ベルデの方に向き直った。