ダーク・ファンタジー小説

Re: STRONG! ( No.10 )
日時: 2013/09/19 00:11
名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)



「では我々は記録検査機器を運んで参りますので、何かありましたらナースコールでお呼びください」



そう言って五名の医者達は特別集中医療室と名のついたドアを開ける。アカネがいるこの場所は特別集中医療室という病院内に増築された被検体に対し不死の薬を投与する為の一室で、三重にも渡るドアを潜り抜けた先にある病院内最上階にある部屋である。

彼女のベッドの周りには簡素な机と、酸素吸引機、点滴、人工呼吸器など多岐に渡る機器が存在し、いかにも殺伐とした病室であった。

医者達五名が病室を抜け、残されたのがアカネと母親だけになると、ふとアカネが自分の右手を握っている母親に語りかける。

その様子は薬を飲む前よりかは幾分元気なようにも見えたが、それが無理にやっていることだというのは当の母親はわかりきっていることであった。




「ねぇ・・・・、おかあさん・・・・・・・・・・。わたしね・・・・、げんきに・・・・・・、なって・・・・、もっと・・・・・・・・もっと・・・・・・、おっきく、・・なった・・・・・・・ら・・・・・、やりた、い・・・・・・・・・・こと・・・・、あるん・・・・・・だ」


か弱い声で話す彼女の声をしっかり聞いてあげようと、母親も耳を澄まし聞き返す。
彼女との会話を続かせるための最善策を採って。


「なに?——アカネは何をやりたいの?」


「・・・・・・わたし・・・・、わたし・・・・・・・・・、いっぱい・・・・・・いっぱい・・・・・・・、おべん・・・・・・・・きょう・・・・・・して・・・・、・・・わたし・・・・・・の・・・・おくす、り・・・・・・・・・・・つくって・・・・くれた・・・・・・・・ひと・・・・みたい・・・・・・・・・・・に、・・・・・なりたい・・・・な」


母親は目を見開いた。驚きというよりかは、嬉しさのほうが勝っていた。彼女の生きる希望に、あの不死の薬はなったのだから。

そのことに感謝の念を抱きつつ、母親は今一度問う。

彼女の右手を握る両手の握力をより強め、ぎゅっとする。



「アカネはお医者さんになりたいの?」



その答えはあまりにも儚すぎる、けれども力のこもった頷きであった。




「・・・・う・・、ん・・・・!」




その仕草に母親は咄嗟に涙をこぼしそうになる。だがそれをあらん限りの力で留めきり、言う。今は私が感動や悲哀の涙を流すときではない、彼女の心配を解き、安心させることが今の母親の務めであると、心に念じる。




「そう。じゃあ、いっぱいお勉強して、お医者さん、ならなくちゃね。アカネに夢があったなんて、お母さんとっても嬉しいぞ!!もう、ほんと、可愛いんだから!」



けれども零れていってしまう涙を隠すように、母親はアカネの横たわっている上半身に抱きつき、軽く抱擁した。彼女の涙が白いスーツに落ちては滲み、落ちては滲みを繰り返していた。




「おか・・・・あさん、・・・・なーす・・・・・・こーる・・・・・・おし・・・・ちゃう、よ?」


「えぇ!それは、少し・・マズイかしらね・・、怒られちゃうわよ、・・お母さん」


突然怖いことを言い出す少女に、母親は少々苦笑いを見せるが、直ぐに持ち直し全てを受け止めるような暖かい表情に変化した。

今度は、アカネが笑い出しながら確認をとる。彼女のベッドには医者達がぬいぐるみやらなんやらを片付けてしまったために、話し相手になってくれる物も人もいなかった。

流石にいたいけな少女には、あの医者達の前で眠るというのはどうにも眠れないらしい。



「え・・・・へ・・・・へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。おかあさん・・・・・・・、きょう・・・・・・は、・・・・・・ずっと・・・・・・・いて・・・・、くれる?」


だが、彼女が聞くより速く、返答は決まっていた。




「もう、当たり前じゃない、心配だもの。あの医者達も、あんまり信用ならないしね。アカネが元気になるまで、絶対離れてやらないんだから」


「そっ・・・・・・か・・。よかっ・・・・・・た」




アカネは安心したように眠そうな顔を見せ、小さくあくびをする。




「・・っ・・・・もう、アカネったら・・・・。・・・・・・・・さ、
もうすぐ医者達がこぞって帰ってくる頃だし、今日は寝ちゃったほうがいいわ」




もう9時10分を回っている。消灯時間はとっくに過ぎており、本来であればもう病人は寝なければいけない時間だった。

そう、彼女が被検体でなければ。





「・・・・はぁ・・・・・・・・・い。・・・・・・・・・・おや・・・すみ、・・・・・おかあ・・・・・・・・・・・さん」




最後に片言と言葉が続く。アカネの声音を聞く度にどうにかしなければいけないという感情とももうおさらばかもしれない。
だって、彼女は明日には助かるのだから。
そのために必死で不死の薬を心願したし、希い、望み、やっと手に入れた。
これを飲む者がいくら被検体と世間からバッシングを受けようと、私だけはこの子の母親であり続けようという決心があった。

それを胸に抱き、母親は言う。









「ええ、お休み。アカネ」
















最後の別れの挨拶を。