ダーク・ファンタジー小説
- Re: STRONG! ( No.12 )
- 日時: 2013/09/23 00:08
- 名前: 多寡ユウ (ID: /AtcWqBj)
そして1000名の少年少女達は目覚める。
時は、2020年12月。
冬のある日から始まってしまった21時間の空白を埋める為に、そしてその身に起きた真実を知る為に。
少年少女達は、進み続ける。
After 21 hours
「もうっ、シュウ!いつまで寝てるの!とっくに夕飯できてるのよ!?」
「ん………んっ……。」
聞き慣れた姉の声でシュウは目醒める。ちょうど夕飯が出来上がったようで、シュウの姉がいる一階から生姜の程良く効いた豚肉の焼けた仄かな薫りが二階へ伝ってくる。いい匂いに引きつられ無性につまみ食いをしたくなる衝動に駆られるが、今はそれが出来ない筈だ。
そう、出来ない筈だった
今の今までは
シュウは自らの日課である右手が動いてくれるかの確認をする為に、脳内で天井の証明を向いた顔の近くまで右手を静かに運ぼうとする。
「……」
?
シュウは頭上を横切る薄っすらとした何かの影を凝視するが、それが長さの異なる五指が伸びている掌であることを理解するのにかなりの時間を要した。
二十秒程度経つと、やっと脳内が正常に働くのがわかった。
眠気の性で薄らぐ二重の瞼からでもわかる、確かな右手の影が自らの瞳に浮かび上がる。
動く筈の無い自分の右腕が、宙に伸びている様が。
「…………………こ、これ、は、俺の、腕…………?」
証明に翳すと分かるその右腕は、寝たきりで動けなかったはずのシュウの腕とは思えない程に、青春の若者というような肌の色合いと肉付きで、五指や手首を至る方向へ動かしても全く痛みは無い。
では、声は。
「…………こ、……………声も、普通に……、手もちゃんと……………………って、これも、医療用ベッド、じゃない。人工透析も、酸素吸引機も、どこにもない、なんて。一体、何がどう、なって……………………っ!?」
困惑の色を隠せないシュウは、壁に掛けられている旧来式の掛け時計に目をやり、愕然とした様子で言う。
「12月20日……18時23分…………、これって、俺が変な薬を飲んだ、次の日の日付か。ジャスト21時間……、そういえば、服用後21時間は安静にって、医者がハル姉に、言ってたっけか……」
シュウは彼自身の記憶を再確認しつつ、男物ベッドに横たわりながら感慨に浸る。
「それにしても、どういう訳だ。つい昨日まで、寝たきりの、状態だったのに………………」
「身体が動かせる。これも、あの薬の……」
あの薬、とある製薬会社が配布した1000粒のみの万能薬を一つ服用した。たったこれだけの事で、シュウが長年味わってきた辛い闘病生活から抜け出せてしまった。
ハル姉がどんなにシュウの為に頑張っても成し遂げられなかった事を、容易にやり遂げてしまった。
「これで、これでやっと、治った、のか…………?」
長年姉弟二人の歩んできた軌跡が、たった21時間という短い時に容易く踏み躙られてしまった様な気がして、素直に喜ぶ事が出来ない。
「俺の、病気ってやつは」
二人が共に割いてきた時間の大切さをしっているシュウだからこそ、ハル姉の辛い苦しみを誰よりも知っているシュウだからこそ。
「もぉ〜、速くしてシュウ!!冷めちゃうって!!」
素直に、喜んではいけない。