ダーク・ファンタジー小説
- Re: STRONG! ( No.26 )
- 日時: 2013/10/15 12:42
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
「平等院さん!まってくださいよぉ!」
この世界において唯一の不可思議な能力。《鑑定》を持つ少女が前を行く背の高い少年を追いかける。
どこか大人びた少年、改め平等院は煩わしげに眼下にある少女に目を向ける。深緑色の長コートを全身に纏った少女は息をハァハァと切らせながら少年の傍にすっと寄り添った。
「おいおい、《鑑定》様。あんまり遅れてくれるなよ、やっとのことで他の能力者からお前を奪取できたっていうのに。お前の足が遅いからって他の能力者達に襲われたら、お前を奪ったこの前の俺の尽力は無駄骨になっちまうだろうが。さっさと歩いてくれ。でもって、逃げるぞ。《鑑定》様」
この世界において《遅れる》というのは死を意味するといっても過言ではない。実力偏差第20位までに陣取る者達、いわゆる《異常》でさえも《鑑定》の能力を欲しがる奴等が必ず少なくは無いはずである。
最も、《鑑定》など必要が無いほどに異常を超えた怪物も中には存在するが、そんな奴等はちょっとやそっとじゃ動かない。《鑑定》が目と鼻の先にあったって惨殺もしくは無視してしまうような怪物は、地球規模の何かが起きない限りは動こうともしない、そんな輩なのである。
「そんなこといったってぇ!私も好きでこの能力やっているわけじゃないんですよ!仲間はころころ変わっちゃうし、戦いには参加できなくて不便だし。戦えないから強い人についていってるんですから私は!」
甲高い《鑑定》の少女の高い声が耳を襲う。耳障り過ぎる音に平等院も少したじろぐが、ここでこの少女を失ってしまうということは、自らのプラス材料には働かないと判断した彼は、少しばかり会話に付き合ってやることにした。
「なら、もっと速く歩いて俺達が狙われないように、且つ負けないように努めてくれよ」
「でも、私まだ小学生ですよ!?そういう平等院さんはお幾つなんですか!」
「俺か?15・・かな。中学と高校をホライゾンってる感じの年だったと思う」
「それじゃ、体力差がありすぎるのも当然じゃないんですか!もう一キロはずっと歩いてますし、どこかで休みましょうよ!」
どうしても休みたいらしい《鑑定》に平等院はこめかみに手を置き、どうしたものかと考えた後、説得する道を選ぶことにした。《鑑定》高い声が響いてる時点で、これは失敗したと思っていた平等院だったが、もう仕方が無いと判断したのかため息を吐き、続ける。
「だから、駄目なんだよ《鑑定》様。ここら辺は鬼の《マザーボード》のテリトリーだ。迂闊に近づいて、失礼しましたで通れるような場所じゃねえんだよ」
「・・・・でも、平等院さんは強いじゃないですか。今までの仲間とは比べ物にならないほどに強かったですよ《SD》の能力」
うっ、と思わず二度目のたじろぎをする平等院という少年。彼自身、褒められるなんてことは皆無に近く、いつだって悪いことばかりして事件を惹起していた記憶があるような気がする。なので、この新鮮で直接でダイレクトな特徴を述べただけの言葉が、心身共に彼をグサっと貫いていく。
「そりゃ、お前を獲得するためにドンだけ戦ってきたと思ってるんだよ。ちょっとやそっとじゃ死なねぇ体になったよ、ったく」
照れ隠しのために顔を背けながら小さな声で平等院はつぶやいた。
それが照れくささの裏返しと《鑑定》の少女が気づいたかどうかは、また別の話。
「なら安心です!」
「なにが?」
「いえ、今までの仲間達は悉く弱肉強食のこの世界で敗れてきましたが、平等院さん。あなたはすっごく強いです。だから・・・・」
「だからどうした?」
平等院が《鑑定》に訊ねる。ただわかりきっていたような気もしなくも無いが、彼女の声で聞きたかったのかもしれない、この少年は。
数秒の間を置き。
◆
「平等院さんは、絶対にもう居なくなりませんよね?」
今まで自分の仲間だった者達にも送った確認の言葉を、最弱《鑑定》の能力を保有した彼女は口にする。
それはまるで、もう仲間が死んでしまわないで欲しいという平和の願望のようにも平等院には感じられた。
たとえその裏に彼女自身の思惑があったとしても、だ。