ダーク・ファンタジー小説
- Re: STRONG! ( No.29 )
- 日時: 2013/10/17 22:38
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
照れくささの裏返しか顔を見られたくない平等院が前に行き、また《鑑定》が後ろから付いていくような配置に変化する。
「・・んなの、俺の知ったことじゃねぇだろ《鑑定》様。俺がいつまで生きるか、いつ死んじまうかなんてよ、もしかしたらずっと生き続けるかもしんねぇし、もしかしたら・・って事もあんだろうな」
もしかしたら、の後は続けなかった。否、平等院自身は続けられなかったのかもしれなかったが、どうしてもそれが出来なかった。今から自分の身に起きることを多少なりとも否定したかったのかもしれない。
「いくら《SD》の能力がどれほど強くても、ですか?」
つぶらな瞳で問いかける少女に、平等院は長い金髪の髪をポリポリと掻く。
「ああ、俺はこの《マザーボード》のテリトリーから無傷で抜け出せるのは楽勝だと考えてるしな。・・だがそれは、俺が一人で行動してる場合だけだ。お前の用事があってこんな場所に居るわけだが、正直言って、《鑑定》様付きのオマケが俺の逃げ足に癒着してる時点であいつらには勝てない、不可能に近い。だから奴等との戦闘は回避するべきなんだよ、負け戦なんて誰もやりたがらねぇよ」
「そんなの・・・・・・、やってみなきゃわかんないじゃないですかっ!!!!」
少女の叱責が飛ぶ。
だがそれを平等院は冷静に受け流し、舌打ち交じりに地面に転がっていたアスファルトの破片を軽く蹴り飛ばす。能力などかけていた自覚もなかったが、破片は放物線を描き宙高く舞い、カッという音を立てながら平等院の遠くまで行ってしまった。
はぁと、溜息を吐いて平等院は語る。
「わかるんだよ、俺は弱い。あいつらに比べて仲間っていうものを信じられない時点で、俺は明らかに弱い。弱くて弱くて弱くて、弱すぎる」
「ならなんで私を、《鑑定》である私を奪い取れたんですか。強くなかったら、奪えません。あなたが強いと知ったから、聞いたから、ここまであなたに着いてきたんです」
「わりぃな、それは見当違いだぜ《鑑定》様。俺は強くはねぇ、強くなんかねぇ。弱い、弱いだけの青春を満喫していた筈のただの一個人だ。だからさ、《鑑定》様。・・・・もう嘘なんて、吐かなくたっていい」
優しくそれでいて許すような口調で平等院は話した。
先ほどの小さな破片はもう見えないところにあるのか、闇の彼方でひっそりと置かれているのかわからない。だがこれだけは言える。
もう戻ってこない。これだけは疑いようの無い事実であり、今の状況との結びつきを何故か考えてしまう。
「・・・・?」
「俺はもう、お前に嘘を吐いて欲しくはねぇ。あの生温い言葉だけで十分だ、あの言葉だけで」
(もういい。機嫌をとろうとしないでくれ。油断させようとしないでくれ)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それから長い沈黙が流れる。
幾秒かが経ち、大きな廃墟ビル郡に囲まれた広い旧国道へと出る。
ハナから車の行きかいが少ないこの地域は、夜になるともう既に無いに等しい。
今ここで何をやったってどうってことないと、平等院は考えていた。
いくら銃器をぶっ放したって被害は最小限に抑えられる気がする、と。
「わかってたんだ、お前が俺を騙そうとしてる事ぐらいな。別にガキの嘘なんてわかりやすい。すぐわかっちまう。・・・・・・・・・・だからもういいんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どこから、気づいていたんですか?」
失笑しながら、彼女の問いかけに応じる。
「お前を、《ダッチマン》から奪った時だな。《鑑定》っつう能力を持つガキを捕まえるってのが俺の当面の目標だったから、お前を捕まえるのに必死だった。だが、不思議と忘れないものでな、お前の過去の仲間であったハズの《ダッチマン》に対する白眼視はスゲェもんがあったよ」
「まるで、血も涙も無いガキだ、とでもいいたいんですか?」
自分でわかっている様子な《鑑定》に投げかけてやる言葉などもう殆ど無い。
この時点で、仲間などという非現実的で幻想的な固定概念などぶち壊されたも同然であるように感じた。
「はは、そうかもしんねぇし、そうじゃないかもしんねぇ。いいか、《鑑定》様。ここからは俺の独り言だから気にする必要は毛頭ねぇ。だから」
(俺は何を言っていってんだ。こんな敵に対して、なんで)
今の間合いがあれば《鑑定》を人質に奴等から逃げる事だって可能だったはずだ。なのに何故、平等院は
同情してしまったのだろうか、この哀れな少女に。
「はやく仲間んトコ、戻ってやんな」
涙ながらに平等院が口にしたのは、別れとも言える言葉。
19時間23分13秒。
これが平等院、《SD》の能力を持つ少年が、《鑑定》を租借していた時間であった。
もう後戻りはできない。
「・・・・・・・・・・作戦θ失敗。作戦γに移行する。これより」
この《鑑定》という少女に与えられた任務を全うするべく、先ほどまで仲間という設定であった少年に矛先を向ける。
瞳の水晶を、微かに潤ませながら。
「戦闘を開始する」