ダーク・ファンタジー小説

Re: STRONG! ( No.30 )
日時: 2013/10/20 19:14
名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)

《鑑定》の少女があらかじめ懐に仕込んでおいた無線通信機器を通して、戦闘開始の旨が伝わると、廃墟ビルに身を潜めていたセナがリン自前のアサルトライフルM-16の発射口から凄まじい火を吹かせる。


「ドォンッッ!!!」



たった一発の銃弾はブレなく一直線に目下の目標へと迫る。
自然環境下ではAK47に劣るM16だが人口的な環境、砂、水といった外敵が存在しないこの場所なら。



M16は、世界最強となり得る力を持つ。




だが、そんな最強の狙撃銃をもってしても《SD》という不可思議な実力偏差二桁の能力を持つ少年、平等院には決して届かない。



平等院目掛け穿たれた高速の銃弾は、平等院の目の前10メートルで失速し、平等院の頭に貫通する直前で勢いを完全に無くし、重力に逆らえず無残にアスファルトの地面にあたり、コッという音を立てた。



「話にならねぇ」




頭を軽く掻き、銃弾が迫った方角を見ようと平等院がそちらに目を移す。


「銃弾非貫通確認、リン姉、次お願いします」


《鑑定》の少女は標的が変わった事を確かめると、胸元の小さいマイクに口を近づけ次なるステップに入る。



「ハイな!アッちゃん下がってて!」


廃墟ビルに身を潜めていたリンが、ビルの高さを無視して飛び降りてくる。
まず手持ちの9mm機関拳銃を乱射し、重力とは逆方向の反動をつける。そしてその反動に持ち前の《加速》を付随させ重力と逆の力を倍加し、落ちる勢いをゼロにし着地。



第二ステップ、リンによる標的の《混乱》の開始である。




「ていやーッ!!」



リンは着地した地点から能力を使い《加速》したと思うと、手持ちの機関拳銃をぶら下げながら、平等院に向かって飛び蹴りを放つ。
それに《加速》を付加し、威力を調節。尋常ではない速度で放たれた飛び蹴りは容易く音速を超え、常人なら青痣では済まない程度の威力が付加される。



「……カッ、能力者、三桁か」



だがリンの飛び蹴りを平等院は軽々と左に一歩足を動かし避け、明らかな隙に自分の右拳をきつく握り締め、打撃の準備を開始する。
対するリンは身体を無理に逆回転させ、飛び蹴りで隙を見せていた平等院目掛け二発目を入れようと試みる。

「三桁で結構ッ!でも三桁の蹴り、舐めんじゃないわよヤンキー!!」

「加速《大》ッ!!」


リンは派手にも程がある今時の短めスカートにも関わらず平等院に右足で回し蹴りを放ち、瞬時に加速を高めた。

速度にして700km/時は優に超える蹴りは、周囲に異常なソニックブームを引き起こし圧迫された空気が周りに拡散され、アスファルトの地面が砕かれ、剥がれ落ちる。

廃墟ビルも無傷ではなく、所々でビシッという音が反響した。




「……………………………………くだらねぇな、…………ンな茶々な能力で俺の二桁を越えられる訳ねぇだろうが」


平等院は小さく可哀想な者を見る目でリンを向き言った。


「standard deviation」


平等院は自分目掛けて放たれるリンの回し蹴りに向かって右拳を突き付け、標的を固定、分散を開始すると。


リンの回し蹴りの威力が刹那にして無になり、重力に逆らえずにリンが上げていた足はバランスを完全に失い、リンは平等院の目の前で無残に尻餅をついた。


「……なっ、なんで!?蹴りにはちゃんと、加速が付随してたハズなのに……」


放心状態のリンに、後方から見守っていた《鑑定》が叱責した。




「リン姉ぇ!!前ッ!!!」




だが《鑑定》の叫びでリンが気づいた時にはもう遅かった。

リンの脳天に向かって、平等院の黒光りした拳銃が突き付けられる。
これ程に避けられない決定打はないと平等院は確信し。



「終わりだ、雑魚キャラが」





確実な死が、リンに放たれた。