ダーク・ファンタジー小説

Re: STRONG! ( No.31 )
日時: 2013/10/25 01:36
名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)



「うおおおおおッ!!」

拳銃のトリガーに指をかけた瞬間、平等院の右頬に強力な右ストレートが入る。
平等院が持っていた拳銃は殴られた勢いにより、5m程滑り停止。一方の平等院は殴られながらも倒れることはなく、殴打してきた敵とある程度の距離をおくにとどまった。
およそ10m。能力者にとってあってないような距離は、それでも確実に両者を分けていた。

「・・カッ、また雑魚か・・」

口を切ったのだろうか、道路に向かって血の塊をペッと吐き捨てる。
相手である少年は自分より年齢が高いのだろう、170は優に超えている。


「シュウ!!」

唖然という表情でリンはシュウの雄姿を見つめる。
ここまでは二番目の作戦通りだ。混乱はある程度成功した。《鑑定》は既にかなりの距離をこの戦場からおいているし、一応は大丈夫。

それに、ココから先の第二ステージである敵の弱点分析はリンの領分ではない。
分析力、知識の面に関してはシュウの知識は誇れるものがあるのではないかとリンは認めている。銃に関する知識量は銃マニアであるリンと同等かそれ以上、その他知識でもリンはシュウという青年に勝てる自信は無い。それは単なる年齢の違いではないことをリン自身もわかっているのだ。
この青年はすごい。正直な話、性格だけ除けば文句なしのイケメン。たまに助けるといったヒーロー素質も合い重なり、すかれるタイプでもある。
性格だけはネックだが。


(全く。少しはアンタを好きになっちゃた人の身にもなりなさいよ)



「じゃ、後は任せたわよ」

そうリンが言うと、いつもの生半可な返事が返ってくる。

「ああ、お勤めご苦労さん」


平等院とシュウが互いに顔を合わせる。
能力者対能力者の勝負で一番重要なのが、情報。相手との戦闘からどれだけの情報量を得られたかで勝敗は分かれる。
いくら実力偏差が二桁の能力者も、情報が無ければ三桁に勝つのは少しばかり難しい。
その情報集に長けているのがこの少年、シュウであるのだ。持ち前の知識量は全ての戦闘において絶対的な武器となりえる。


(冷静になれ)

《鑑定》少女の前情報より得ている平等院という少年の名。平等院の攻撃は数学の知識を応用したものであることは間違いない。

応用しているのは、簡単に言えば分散・標準偏差といったところ。データと平均値の差を偏差といいデータの偏差平方を分散、その平方根を標準偏差。平等院の能力名、《SD》というのはこの標準偏差といった辺りが妥当だろう。

確か数学の計算では、仮の平均を用いてデータの分散と標準偏差を導く。

本来は仮の平均はデータの平均を求める時に平均に近い値をそれとすることが多く、それにより各データとの差を作る。

またそれらがある物の倍数になっている場合はさらにその倍数で割って小さいデータに変換することが出来るといったものが常識の範囲内だが、リンの強力な回し蹴りの威力を《分散》させたのが、《SD》という能力の所為であるのならば、反撃の一手に出るのはそう難しくない。

シュウ個人の力では長期戦になるやも知れないが、こちら側には殆ど万能といっても過言ではないセナがいる。彼女の力があれば、この状況も容易に抜け出せるはずだ。



「問題は、セナさんが出るまでの時間稼ぎか」





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


(何故だ?奴の力を掴めねぇ。能力者ではあるみてぇだが、なんなんだあの能力は)

目標相手の能力をある程度知らなければ使用できない分散の能力は通じない。
さっきからあの少年から何か掴めそうな気が平等院にはするが、根本的に何なのかがわからない。

「掴めねぇなら、探るしかねェか」


平等院はそういうと右拳を握り締め、それをシュウのほうに突き出し横になぎ払う。
一見意味をなさない動作にも必ずなんらかの意図が隠されている。
きっかけはなんでもいい。動作は問わない。ただ己自身にコマンドを入力すればいいだけのこと。

ましてやシュウは、それが能力開放の合図だとは知る由もなかった。



「オーバーフロー解除ッ!!」


荒々しく平等院を中心に旋風が巻き起こる。
全てを等しく平等に簡潔に偏差し分散させる能力の真骨頂、ただ物体の威力・速度を下げることではない。
分散させたエネルギーを集約し、保持することにこの能力《SD》は重きを置かれている。


(限度を超えねぇと、奴は倒せねぇなら)

平等院はしっかりと目の前の敵を見据え牙を剥いた。
《SD》の真骨頂、集約する能力を右拳に宿しながら。



「限界なんて、粉々にぶち壊してやろうじゃねぇかッ!!」