ダーク・ファンタジー小説
- Re: STRONG! ( No.37 )
- 日時: 2013/11/18 23:47
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
「はぁ、また駄目だったかな。もう少し出力ある奴連れてこないと、《マザーボード》には触れられもしないかー」
右手に握り締めているのは、小型のモニター。彼のハッキング技術を使って東京全域の監視カメラの状況を見ることが出来るようになっている仕組みだ。
画質が悪くあまりどの程度の惨状になっているかがいまいち把握できないが、《SD》以外の異なる能力を持つ誰かがビルを丸ごと吹き飛ばした所を見たからして、十中八九《SD》を持つ平等院は敗北したといっていいだろう。
超近眼の少年が自分の眼鏡を指先でくいっと上に持ち上げ位置を直しながら言う。彼が今いる現在地は、ここ東京の生命線とも言えるものの上であり、正確には路線で言うところの心臓部と見ても差し支えない場所である。
彼は新しく全面改築された山手線の線路上に立ちながら、彼自身の能力で《SD》と《マザーボード》との一戦を路上観戦ならぬ線路上観戦していた。
電車が行き交わないわけではない。この時間帯は本数が幾らか少ないだけで、一定の時間を置いてここ山手線は東京の中心地をグルグルと回る。
だが、彼はそんなことなどお構いなしに邪魔者は消すといった風な装いで、この世界の森羅万象の《極限》を図る人間、否。
一桁であるならば、《怪物》と呼ぶべきであろう。
「二番線、ドアが閉まります。ご注意ください」
はるか遠くの駅から電車がもうじき彼の元に迫ってくることを知る。
「平等院君は、《マザーボード》んとこの《鑑定》に一枚噛まされていたのは知っていたのかな?流石にそこまではわかるかぁ」
彼は冷淡な表情を浮かべ、じゃあと続け。
「僕が直々に、平等院君を《鑑定》に噛ませていたのは知ってたのかな?」
ニヤリと、彼の口元が左右に裂ける。
それは不気味とは表現しがたく、恐怖を心の奥底に植え込む笑みだったのかもしれない。だからこそ。
そんな表情を見てしまった電車の車掌だからこそ、この人物を轢くことに躊躇わなかったのだろう。
「う、うわあぁぁぁあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!?」
電車を操縦する車掌はあの運転席という密閉された空間でこんな悲鳴を上げていたのかもしれない。だが彼にはそんなこと知ったこっちゃ無い。
目の前に出てきた邪魔者を破壊する。そんな脳しか、彼、もしくは彼と言う名の《怪物》は感じなかったのだろう。
次の瞬間。
実力偏差第五位の無慈悲過ぎる《極限》が、迫り来る科学の発展の賜物に牙を剥いた。