ダーク・ファンタジー小説

Re: 【1/7更新】あなたの故郷はどこでしょう? ( No.6 )
日時: 2014/01/09 20:33
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Ro4jdKEa)


 劇場の玄関に着いてすぐに、俺たちは爆弾の捜索を始めた。そこにたどり着いただけで電子音が聞きとれるほど、入口は静かになっていた。客は皆ホールの方に行ったようだ。
 そのため、小さな電子音でも聞きとることができた。探索は比較的スムーズに行われている。
 そんな中、ガイという男がふと疑問を感じたのだろう。誰に訊くともなくその疑問を口にした。

「そう言えば、爆弾しかけた奴ってどこにいるんだ?」
「えっ?」
「だって、上演したら爆発するんだろ? てことはスイッチ入れるやつがいるんじゃねえか?」

 それも確かにそうだと、団長は首を傾げた。だが、そのようにリモートコントロールするとなると、この電子音は一体何だというのか。
 ただしそれも、大体読めている。

「おそらく、上演時間が終わったその少し後の時間に爆発するようにタイマーがセットされている。上演せずにずっと探せばその内見つかるだろうから、上演しなければほとんど犠牲者は出ないんだと思う」
「なるほどな。その隙にしかけた奴は逃げられるのか」
「ああ。それに、犯行声明には別の目的のためにこんな騒ぎを起こしたという文章があった。本当に観客を殺したり、劇を中断するよりも大切な目的があいつらにはあるはずだ」

 正直なところ、境界人というのを俺は知らない。もしかしたらただ単に忘れているだけなのかもしれないが。
 そしてお探しのものはすぐに見つかった。

「ありました!」

 見つけたのは警備員だった。四角い箱のようなものが、空気清浄機の中に仕込まれていたらしい。
 タイマーを見てみると二時間以上経った後にゼロになるようだ。やはり、上演終了時刻に狙いを定めてきている。

「さてと……後は走って人気の無い所まで持って行けばいいな」
「お待ちください!」

 さっさと川にでも投げ落とし、周囲に人が近づかないようにすれば安心だと思ったのだが、警備員の男がかたくなにそれを拒んだ。

「私はホライズンの一員です。アカデミー時代に知識を叩きこまれましたが、この爆弾にはおそらくプラスチック爆薬が用いられています」
「だから何だって言うんだ?」

 何だか不穏な気配が漂い始めたな。そう思っていたら、しかめっ面のホライズンの男は、やけに真剣な顔でこう言った。

「下手に衝撃を加えると爆発する可能性があります」

 その言葉に、団長の、ガイの、ルカの表情が強張った。警備員は肩についている無線機を手に取り、誰かと連絡を取ろうとしている。

「私はこれから上官の指示を仰ぎます。ですから、皆さんはくれぐれも慎重にそれを控室まで運んでください」

 そう言ってその男はどこかへと駆けて行った。地図で彼が向かった方向を確かめてみると、警備控室や倉庫などが密集していた。
 実際に上官の指示を仰ごうとしているようなので、俺たちは彼の指示に従うことにした。爆弾を丁寧に運び、何とか爆発させずに控室まで向かおうとする。
 誰が持って行くかという話になり、責任者として団長が持つことになった。

「お前は信用ならん」

 ガイは端的に俺にそう告げた。そして自分でそれを持とうとしたのだが、お前は手先が器用じゃないだろうと団長から止められたという次第だ。

「それにしても、なんか色々気になることがあるな……」

 俺は静かに、頭の中でさっきからの出来事を再び辿った。脅迫状の中身、爆弾の設置場所。そういうのを細かいところまで考えて、考慮していく。
 その中で、どうしてもこれが分からないというものがあったので、ルカに訊いてみた。

「なあ……境界人とホライズンって何だ?」
「そんな事まで忘れてるんですか? 仕方ないですね……」

 境界人とは、複数の世界をまたにかける犯罪組織で、今の世の中でもっとも大きい“悪の組織”だった。あらゆる異世界のどこにも属せず、ゲートとゲートのはざまにある異次元に拠点を持つ。そのため、誰も追いかける事が出来なかった。
 そして、そんな連中を捕まえるために動いているのがホライズン。全ての世界を管理する、最大の警察機構。こちらもゲートの中間にある異次元に本拠を構えている。

「つまりは、警察とマフィアってところか」
「小規模単位で言うとね。影響力はその比じゃないわ」

 大体それで納得がいったので、もう一度自分の頭の中での思考に没頭する。犯人の狙い、それだけがまったく分からない。

「おい、どうせお前が犯人なんだろ?」
「いや、違う。犯人は大体分かってる。……いや、もしかしたらただの協力者かもしれないけど」

 その返事に、ガイ達はひどく面喰らっていた。どうして分かったんだと、ガイが俺の胸倉を掴んで詰問する。手の欠陥が浮き出るようなものすごい剣幕だ。どうしてこんなにも、この人物は熱くなっているのだろうか。

「落ちついてくれ……。とりあえず、全員揃ってから報告する。一応犯人を取り押さえるように警備員が戻って来てからな」

 俺がそう告げると、彼は渋々手を離した。その目からは、まだ疑いの色は消えていない。
 だが、真犯人さえ発覚すればそれも変わるだろう。来るべきそのタイミングに備えて、俺はもう一度頭の中身を整理し始めた。