ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【1/14更新】あなたの故郷はどこでしょう? ( No.8 )
- 日時: 2014/01/24 17:33
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: CR1FbmJC)
不意に呼びかけられた団長は一瞬目を丸くしたが、すぐに落ちついた。何で自分が質問されるのでしょうかねぇ、そんな風に首を傾げている。
本人はそんな呑気な様子なのだが、ガイが俺に詰め寄ってきた。今度こそ、周りの静止を振り払って、俺の服をおもいっきり掴んで引き寄せた。頭が揺らされて、少し気分が悪くなった。
「てめえ、団長を疑ってんのかよ!」
「違う。訊きたいことがあるだけだ」
「ふざけんじゃねえ! もったいぶって最後に団長を呼んだってことはお前が団長を疑って……」
「考え直せ。誰よりも公演を行いたいのは団長だろ」
それを言うと、ぴたりとガイの手は止まった。俺にそう諭されてようやく気付いたようだ。確かに俺がこんな順番で尋ねたというのも理由の一つで、ガイの言うようにもったいぶって団長に問いかけた。だけど、その団長を犯人だと思いこんだのは、他ならぬガイ自身だ。
それを察した彼は口を止めた。彼は心の底から団長を信頼している。ちゃんと考えなおしたからこそ、暴挙を自らやめた。突き放すようにして俺の服から手を離して、忌々しげに俺を睨んだ。
「お前が団長を疑ってない証拠がどこにある?」
「それは、今からする質問で分かる」
これだけ団員が暴れているというのに、当の本人は悠々としたもので、欠伸をしていた。ようやく騒ぎが収まったと分かり、団長は俺の顔をまっすぐ見据えた。
「で、何の問いですかな?」
「はい、簡単な質問です」
俺は、警備員を指差した。
「あの人“カリブ界”出身らしいんですけど、そんな世界って本当にあるんですか?」
「……ああ、そういう事ですか」
これまでの一連の流れに合点がいったらしく、大きく団長は頷いた。それだけではなく、状況を全て呑みこんだために、真実をすぐに見抜いたらしい。やはりこの人は、マイペースなだけでもの分かりが良い。
「え、でも“カリブ界”って言ったのお前だろ?」
ガイが呆れたような声で話しかけてきた。だが、その問いかけには俺よりも早くルカが反応した。
「でも、この人異世界を知ってるはずないんですよ。記憶喪失で、自分がどこの世界出身か分からないんですよ。そもそも、ゲートシステムや異世界の存在すらも忘れているみたいで」
「記憶喪失? 何で今まで黙ってたんですか?」
団長、あなたの目の前で俺とルカは記憶喪失だと喋っていたはずですが。自分の世界に入り込んでいたからきっと聞いていなかったんですね。
だが、今はそれどころではない。閑話休題するためにも、最初に団長が話を戻し始めた。
「カリブ海という海は地球界に存在します。二十一世紀にはカリブ海の海賊を主役にした映画を放映していたそうですから、海賊もいらっしゃるでしょう。ただし、地球界は今や百余ある世界で最も科学の進んだ場所。田舎などどこにも存在しない」
「つまり、あんたの話は矛盾があるって訳だ」
俺達の視線は全て警備員の男性に向けられた。脂汗が彼の顔に浮かび、明らかに彼は動揺している。
「いや、そんな事は……」
「あんたが吐いた嘘はもう一つある」
往生際悪く言い逃れようとする彼を前に、もう一つのカードを切る。さらに墓穴を掘っていたのを俺は聞き逃していない。
「あんた、爆弾を見つけた時何て言ったっけ?」
「……揺らすと爆発するから危ないです……だったと思いますが」
「いや、それだけじゃない。“プラスチック爆薬だから”。そう言っていた」
それがどうかしたのかと、彼は強気に出る。
だが、彼の漏らした迂闊な発言はもう一つある。『アカデミー時代に知識を叩きこまれた』というものだ。
「おかしいな。プラスチック爆薬というのは極めて安定な物質で、ちょっとやそっとの刺激じゃ爆発しない。信管を使わないと起爆できず、ちょっとずつ燃える程度だ」
「いや、仕掛けの都合で……」
「あんたは“プラスチック爆薬だから”と言ったはずだ」
「言葉のあやですよ」
「アカデミーで叩き込まれたのにか? その程度の知識を間違って覚えているような奴を排出するアカデミーなのか?」
「いいえ、アカデミーは超エリート校ですよ」
横からルカが口を挟んだ。各世界で優れた頭脳、あるいは身体能力を持つ精鋭が集い、いつの日か巨悪を打つために日夜奮起する。それがホライズンの候補生だ。この手の知識は一般常識と同じレベルで頭の中にインプットされている。
「気付けよ、何言い訳しようとあんたもう詰んでんだよ」
まだ悪あがきを続けようとしていたようだったが、その一言で完全に言い逃れる努力を放棄した。もう認めるしかないと全てを諦めている。お手上げだと言わんばかりに、首を横に振る。
こんなもの捨ててやる。そう言わんばかりに今着ている制服を破るようにして脱ぐ。それをそのまま地面に叩きつけた。
「さすがだな。上層部が躍起になるのも良く分かる」
「何の話だ?」
「お前の話だ。何も覚えていないんだろう? だったら教えてやるよ。この世界のどこかにいるであろうお前をあぶり出すために今日の出来事を仕組んだ」
「……俺を、捜し出すために?」
「ああ。危険因子だからな。神を含め百八の異世界において、最も境界人を憎む者、それがお前だ」