ダーク・ファンタジー小説
- Re: アネモネ『チャンネル風ホラー』 ( No.8 )
- 日時: 2014/02/20 08:01
- 名前: 梅雨前線 (ID: gF4d7gY7)
>>7
「何なの!?あの細マッチョ小学生!!」
私…秋沢要は 叫ぶ。
今、私達が居るのは掃除用具入れではない。現在進行形で再度リアル鬼ごっこをしている。
廊下は相変わらずボロく、気を抜けば直ぐに穴に足を取られるだろう。
電気は 所々で 怪しげな光が付いたり消えたりとしているのみで 何処のB級ホラー映画だと叫びたい。
電気が半端なので、廊下や窓、教室の至る所にベタベタ付いてる赤い子供の手形や、文字が更に際立つ。
…ハッキリ付いて バッチリ直視するのも嫌だけど、やはり逃げる為には しっかり付いてて欲しい。
鉄と腐った生ゴミの様な臭いが鼻に纏わり付いて離れない。
ぐわんぐわん頭の中で鐘が鳴り響く
"うるさい"と自分に喝を入れて、
前へ、前へと足を動かす。
なんたって鬼はテケテケさん。
走りに特化していると言って良いオバケさん、今はコンパスの違いでどうにかなってるが現速度を少しでも
緩めれば あっ!と言う間に追い付かれるだろう。
しかし意外だったな。と思う。
噂通り小学生(低学年)で下半身が無く…ではなく、小学生(低学年)は同じだが足も有る。手がハサミとかでもない。…顔色が凄く悪いのを除けば唯の小学生と言っても何らの遜色も無いだろう。
しかし、その両手に持っているのはテケテケさん本体位の身の丈の超巨大ハサミ。…やけに磨かれているのは追求しては負けの様な気がする。
「それにしても…由月って期待を裏切らない人だね」
斜め前で笑いながら走る仲間、バ月に呆れ口調で声を掛ける。
「んーwそんなに褒めてもw何も出ないよ?www」
「…やっぱ黙ってれば良かったかなー?」
「ゴメンナサイ」
何に話をしているかというと、先程の私の様子…由月の服を引っ張る動作についてだ。
話を少し戻そう。
まだ私達がロッカーに隠れてた頃…
その時私は、全身を"何か"に掴まれている様な恐怖感が有った。
本能で この場所は危険だと察していたが、ココを出ても また鬼ごっこがスタートするだけで有って、もしかしたら気の所為かも知れない
いや、そうで有って欲しい。と心の中で ずっと念じていた。
しかし祈り届かないまま、更に煽られ続ける恐怖感。
本格的に逃げなくては、そう思ったが時既に遅く、体の自由が効かなくなったのである。
"何か"…無理矢理にでも形容すれば
重く絡みつく煙…いや鎖の様。…手とも言える。
仕方なく最大限の…服を引く行為に及んだのだが…この男の笑いを誘っただけとは………少し考えれば分かるのに考えなかった自分が憎い。
運良く一瞬だけ"何か"の拘束が緩んだので、ロッカーを開け、服を掴んだまま2人共外に流れ込んだから良かったものの、もし緩んでなかったら…数コンマでも遅れていたら…隣の教室からの攻撃により、ハサミが体を貫いて居た事だろう。
正直言って、隣のクラスからハサミが襲撃してくるとは思わなかった。木の壁を通り越え、鉄製のロッカーまで貫くとは驚き。
どんだけ筋肉質なテケテケさんな訳!?あだ名決定!細マッチョ小学生!!
突っ込むのも そこそこに 隣でツッコミながらも大爆笑している由月の腕を引き、教室から出て走り出す。
テケテケさんも追い掛けて来る。
…手には 巨大ハサミをもって。
そして今の状況に落ちる。
隣で走っている由月をチラ見すると
器用に携帯を弄りつつ笑いを堪えてる始末。
うん、零の気持ち分かったよ。…痛い程に。
………ギシッ。
踏み出す度に軋む床。
『くすくすクスくすクスクスくすくすくすクスクスくすくす』
迫り来る恐怖。
何処へ行けば分からないのが精神的にキツイ。
鈍痛で揺れる視界。
足に焼き付く様な熱さを感じ、横目でチラリ見ると、太ももから足首まで約40cm強、バックリ切り開かれいて、赤い鮮血がどくどくと動く度に 其処らに血を待ち切らし
ながら重力の法則に従い流れてゆく。…既に靴下は真っ赤だ
ふらり。
視界が激しく揺れ、頭の鐘も もっと鳴り響く。…気にしてしまったからかな?
感じてしまえば、しまう程、段々と足が鈍くなっていく。…ああ、ダメだ。動けない。
足に何かが引っ掛かる感触がする。
そのまま、促されるがままに体が倒れ込む。ぶわりと埃が舞い、視界を微かに白くする。べちょっ。と血だまりに全身ダイブ。…顔は逃れたけど、かなり跳ねたのが掛かる。
「おい、平気か!?」
由月が気付いて、戻って来てくれる
のは嬉しい。しかし、もっと遠くに逃げて欲しい。
声が出ない。まるで潰されたかの様にヒューヒューと音が出るだけ。
音が直ぐ後ろで止まる。と、同時に溢れんばかりの憎悪感が ズシリと体に乗し掛かる。
『かなめ おねーちゃん、つーかーまーえーたぁー』
幼児特有のソプラノの声。…オバケと言えど中々声が綺麗なのは否めない。
「要っ!」
由月は どうやら結界か何かで 3m先までしか来れないらしい。良かった。と安堵するのも束の間。
テケテケは嬉々と私の手を掴み、持ち上げようとした所で聞き慣れた…いや場違い過ぎる声が聞こえた。
「あれ?テケたん、どうしたんです?」
『れん!』
テケテケが手を離す。…普通なら ここで直ぐに逃げ出す筈なのだが…
今の私の頭の中は普通では無かった
"有る可能性"が頭の中でフラつく。
アルトとソプラノの中間…女子としては やや低めで透明感の有る声に、なめらかな敬語口調。
どうしよう…私の中で一人だけ該当者がいる。
恐る恐る後ろを見ると、じゃれ付くテケテケの頭を優しく撫でる同年代の少女。
肩に行くか行かないかの短い黒髪。
大きめの黒眼に白い肌には微かに朱が掛かっている。黒髪から微かに覗く痛々しい首の傷痕…それだけ、いや傷痕だけ見て確信してしまう。
体が震える。ああ、どうしよう。
分からない…分からない。分かりたくないのに…
「ほら、そんな所に蹲ってないで。
捜し物を探しましょう?」
ーーー否定したいのに その声は あの子の物で。
(待って)
『わかった、れん』
「行きましょうか」
テケテケは少女の手を掴み楽しげに笑いかける。少女も微笑み返す。
ーーー否定したいのに その名前は…
(待って…)
ーーーその後姿は…
ここでフッと2人の姿が闇に消える。
決して闇に溶け込んだ訳ではない。
いきなり消えた。
と、同時に余り物出来事に忘れかけていた驚きで冷静さと…激しい鈍痛、疲れが波打つ様に戻る。
「かなめっ!かなめっ!!?」
由月が私を抱え呼びかける。が、応えて挙げられる程の気力は今は無かった。
(…私の、親友の…)
(ーーーーーーーーーーー…蓮)
意識は闇の中に滑らかに沈んでいった。