ダーク・ファンタジー小説
- Re: 紫電スパイダー ( No.1 )
- 日時: 2014/05/23 15:11
- 名前: 紅蓮の流星 (ID: 3dpbYiWo)
#序【鉄風雷火】
閃光が爆ぜた。
体勢を崩した黄河一馬に、追撃。
迫る足払い。裏拳。上段蹴り。踵落とし。膝蹴り。
息を呑んで避ける。避ける。避ける。
反撃。右手に掴んだ「草薙ノ剣」を突き出す。
切っ先が掠めたのは、藤堂紫苑の髪。
伸びきった腕を絡めて。紫苑が一馬を投げ飛ばす。
宙を舞う一馬は左手のリボルバーを構え。
銃声。銃声。銃声。着弾した場所から煌々と爆炎。
駆けて反って跳ねて。紫苑は爆炎を掻い潜り。
一馬の着地。紫苑の到着。ほぼ同時。
寸前。
片や金色の火炎を剣に纏わせ。
片や紫色の雷電を掌に掴んで。
極端に時の流れが遅くなったような錯覚。
直後。再び閃光が炸裂する。
——君は「イグニス」を知っているだろうか。
照明が照らすスタジアムの中、二人は交錯する。
鉄風雷火を撒き散らし、その瞳に互いだけを捉え。
体躯を、戦略を、武器を、イグニスを。
惜しむことなく叩き付ける。披露する。魅せ付ける。放つ。
全ては眼前のターゲットを仕留める為。全ては黄河一馬を、藤堂紫苑を打ち倒す為。
彼らの一挙手一投足に、観衆が沸き上がる。
——それは超能力であり、魔法であり、力である。
紫苑の腕が空を切り、指先が空を叩いた。
一馬はそれに合わせ駆けて転がり跳ねる。
まるで見えない何かを避けるように。
更に紫苑は指を鳴らして。
響く乾いた音。縦横無尽に奔走する紫の雷光。
これを読んでいたのか無意識か。一馬は潜り抜け。
また目と鼻の先に対峙。
迎撃。一馬の腹部を、紫苑の蹴りが撃ち抜いた。
吹き飛ぶ一馬。
観客席が一際強く波打つ。
——そして、身体を、頭脳を、イグニスを懸け。
一馬は何事もなく立ち上がり、唾を吐き捨てる。
標的を見据え、視線を外さない。
紫苑もまた一馬を見やり、不敵に笑む。
「少しはデキるようになったんじゃないか?」
「はんッ……嫌味にしか聴こえねぇな」
——富を、命を、誇りを、存在意義を賭けて闘う。
「さて、それじゃ」
「続けようか」
白黒つけるために、と呟いて。
——その賭け事の名は「スペルビア」。
二人は駆け出す。互いの首を求め。
煌炎と紫電がぶつかる刹那に、
「今を楽しめ」
誰かが、そう言った気がした。
——これは、イグニスという力がある世界の話。
陽射しが当たらぬ裏の社会に生き、スペルビアに興じ殉じる命知らず共と——
——後にその世界で、伝説として名を馳せる男・藤堂紫苑の物語。