ダーク・ファンタジー小説

Re: 理想郷の通行証 ( No.1 )
日時: 2014/03/21 19:49
名前: 御砂垣 赤 (ID: atRzAmQi)

 legend


 その村にとって、湖は神聖且つ重要な物であった。
 そしてそれを護るための様々な取り決めが存在した。
 湖に舟を出してはならない。
 湖から水を引いてはならない。
 湖に流れる川を止めてはならない。
 湖から流れる川を止めてはならない。
 湖で魚を捕ってはならない。
 湖にゴミを捨てるなど以ての外。
 その他諸々の『掟』があった。
 破った者には人を殺した以上の極刑が処される。当人は勿論、前後三代の親族さえ危うくなるのだ。
 村人たちは、敬意と畏怖と恐怖によってその『掟』を守り続けていた。
 唯一絶対神の様に村に君臨し続ける『掟』。その総歴は村の想歴に等しいという。
 『掟』は絶対。『掟』は常識。『掟』は基準。『掟』は教訓。『掟』は隣人。『掟』は番人。『掟』は裁き。
 完全無欠、唯一無二、一罰百戒、春蘭秋菊、一蓮托生、子々孫々、永遠不変、天地開闢。
 半ば催眠に似たその固定概念を破るものなど居はしない。それが、村人共通の確信でもあった。

 ────暦上雪の降る唯一の月、雪月。
 数名の村人は、身篭った一人の女が湖へ漕ぎ出すのを見た。


    legend=昔話