ダーク・ファンタジー小説
- Re: 「血相契約」〜オリキャラ募集中です!〜 ( No.30 )
- 日時: 2014/04/11 16:56
- 名前: 黒hana ◆JEhW0nJ.FE (ID: CFE7lDA5)
第9話(樹目線)
周った。周った。周りつくした。走って歩いて。でもアイツ美紀はどこにも見当たらない。あいつの行きそうな所、行かなさそうな所。全部全部周ったのにアイツはどこにもいなかった。病院の人に言おうと思ったがあいつの事だし病院の人に許可もとらず抜け出したに違いない。だからこそ今あいつが行方不明だと言うことが病院の人の耳に入ったら病院は混乱に陥るだろう。そのこともわかっていたから俺は誰にもいわず病院を駆け回っていた。が、美紀はいない。
「あいつ……どこいったんだよ……。折角見舞いにきてやったのに。」
パタパタと靴の音を鳴らし俺はロビーへたどり着いた。グルッとロビーを見回すが美紀らしき姿はない。人が目の前を通ってはいなくなっていく。大きな病院だから人がいるのは当然だが。どうでもいいことに気をとられているとふとある考えが頭に浮かんだ。もしかしたら病院から脱走してしまったんだろうか。あいつのことだし。人の騒がしい声とアナウンスの音が自分を現実へと引きずり落とすように頭を貫通する。
(あいつの放浪癖……ここまで酷くなってたのか。なんとかしねぇとな。)
見つけたらまず説教からだが。
とりあえずロビーを横切ろうとしたらふと病院の地図が目に入った。そこには俺が時間をかけ周り尽くした場所達が記入されていた。病院の地図を見つめながらおれずっと走ってたんだな。ここを周ったんだなと呑気なことを考えていた。下から上まで、ボーっとそれを見ていると一番上に小さく記入されている文字が目に入った。
「屋……上……。」
俺は無意識のうちにその言葉を口にしてしまったのだろう。俺の後ろを通った人が俺のことをチラリと見た。その一秒の間、自分が何を考えていたのかあまりよく覚えていないが気付けば自分の身体は動き出し足は地面を力強く蹴り飛ばしていた。周りに人がいるのにも関わらず、ぶつかるのも気にもとめず、俺は走り出した。全部周ったつもりだったが俺は馬鹿なことにひとつだけ見落としていた。なぜこんな簡単な事にも気付くことが出来なかったのか。過ぎ去る風景の中俺は思い、唇を噛んだ。ひとつだけ行ってない場所。
屋上だけ行ってなかったのだ。
————————……
「はぁ……っ!はぁ……」
病院の中を駆け回ったときから足はダメージを負っていたのだろう。一階から五階まで一気に駆け上がった俺の足はもう動かないと訴えるようにズキズキと足の芯から痛みを主張させていた。痛い。痛い。足が痛い。下手したら捻ってしまうかもしれない。それほど俺の足は悲鳴を上げていたのだ。しかし今は自分の足を心配しているつもりなんかない。目の前は屋上へとつながる階段。上から微かに屋上から覗き込む夏の日差しが見える。数十段ほどだ。これを上ったらきっと……。息を吸い俺は最後の力を振り絞って階段を駆け上がり始めた。一段一段踏みしめるように上がっていく。足の痛みと反動が上へと上がってくる。静寂に包まれた廊下の中にドタドタと異端な音が聞こえる。光が差し込んでくる。暖かい。もうすぐだ。
「はぁ……っ!んがっ……!」
小さな声を漏らし身体に、足に力を入れる。足が限界を超え始め感覚が無くなって来ていた。美紀め俺をこんなに走らせやがって。すぎる視界と高くなる自分の位置、一歩一歩踏ん張りながらのぼっていく。頭の中ではこのあと美紀を捕まえてまず説教して……とこの後の事を頭の中に浮かばせていた。そうだ、ジュース奢って貰おう。呑気なことを考え階段を上っていく。息があがっていくのが自分でも恐ろしいほどよくわかった。胸が締め付けられるような圧迫されるような、そんな感覚に襲われた。しかし、それももう終わる。夏の日差しが目の前にまで迫ってきているからだ。
「もう……少し……!」
後数歩。その時、
「——……!!」
「……——!!——。」
何か聞こえた。何かが俺の頭の中に貫通した。何を話しているのかは良く聞こえなかったが男女の声だ。痴話喧嘩か何かだろうか。
「————……よ〜?——」
男の声が聞こえた。何の話をしているんだ?男がいるなら美紀はいないだろう。美紀は俺以外の男とはあまり一緒にいない。それ以前に美紀は近寄らない。だから男がここにいるなら美紀はいないことになる。美紀はいないのか?本当に?病院にいないのか?
(まさか本当に脱走したんじゃ……)
次の音というなの声が聞こえたのと俺の足がてっぺんに着いたのはまったく同じ瞬間だった。
「ちょ……ちょっと!!」
「はぁ……はぁ……。え?」
今の声は……!!
聞き間違える筈がなかった。他の奴が聞き間違えても俺が聞き間違えるはず無かった。なぜなら俺が一番知っている声だからだ。一番聞きなれている声。一番安心する声。紛れもなく、ずっとずっと探していたあいつの声で。頭の中でいろいろなことが混ざり合った。アイツが目の前にいることだけを認識して。他にはなにもいらなかった。
俺は切れた息を整えることもせず勢い良く屋上のドアを開けた。
目の前には……。
真っ黒なコートに身を包んだ長身男と、その男に腕をひっぱられ男の後ろの真っ黒いもやのようなものに引きずりこまれる美紀の姿があった。
「美紀……!!!!!」
掠れた声で美紀の名を呼ぶ。すると美紀は倒れながらこちらを見た。美紀は驚いた顔をし、俺の声を呼ぶ。
「えっ!?樹!?」
美紀が黒いもやの元へ倒れていく。男はこちらをみて笑っていた。限界を超えた足で美紀の元へ走り出し痛む身体に鞭打ち美紀へと手を伸ばす。美紀のまであと数センチ。すべてがスローモーションのように動いてるように見えた。もう少し。もう少し。あと……。あと…………。
「み……きっ!!!」
「いつ…………」
その瞬間美紀の身体と俺の身体は離れていった。美紀の驚いた顔が、美紀の身体が黒に消えていく。
美紀は真っ黒いもやの中に吸い込まれた。美紀の最後の言葉を遮って。美紀の姿が俺の目の前から消えた。俺は目を見開いた。美紀を吸い込んだ真っ黒いもやは瞬間フッ……と音も立てずに、俺も吸い込んでくれずに何事も無かったかのように消えてしまった。俺は全力疾走しそのうえ手を伸ばしていたので全体重が前へとかかっていた。何も無い地面へ俺の身体は吸い込まれていく。思考はすべてを遮断していた様だ。何がおきたかもわからず俺は地面へとたたき付けられる。身体が限界を超えしかも打撲というダメージを食らったのでありえないほどの痛みが波になったように俺を襲った。ドガッと痛苦しい音が沈黙の屋上に響く。
「っが……!!!いってぇ……!」
急いで顔を上げる。視界もぼやけていたが屋上を必死に見渡し美紀の姿を探す。しかし美紀の姿は無い。あの長身男も。美紀を吸い込んだ真っ黒いもやのようなものも。また目を見開く。そしてようやく働くようになった頭で俺は今何がおきたのか考えてみた。そしてすべてを理解した後、身体からすべての力が抜けた。決して安心感からではなく絶望等なのものに力のすべてを奪われてしまったのだ。唇を血が出るくらい噛んで下を向き「くっそ……!くっそぉ……!」と小さく呟く。握りこぶしをなにもない無の地面へとたたきつける。何度も何度も。目から何かがあふれ出した。生暖かい透明な液体。それは頬を伝って夏の暑いコンクリートの地面へと落ち染みを作っていく。一つ二つ。
「俺は……俺は……!!」
何もいえない。頭の中では言葉があふれ出てくるのに口は言うことを聞かなかった。あふれ出てくるいろんな言葉。それが音になってもれることは無い。息をすうだけ。息をはくだけ。なんて使えない身体なんだ。
みっともない——それだけだった。