ダーク・ファンタジー小説
- Re: 「血相契約」〜小説大会【銅賞】大感謝!〜 ( No.46 )
- 日時: 2015/02/03 22:01
- 名前: 黒hana ◆tr.t4dJfuU (ID: CFE7lDA5)
第14話
「えっ……!?ど、どういうこと?」
もっと詳しく聞きたくて私は前のめりになって目の前の黒夜に聞いた。
しかし当の本人はなんのそぶりも反応も見せずにただ迫ってきた私にすこし面倒臭そうな目線を投げかけてきただけだった。その後私から顔を背けて口を開く。
「そのまんまだっつーの。契約者探してお前らの世界に降りたらお前がいた。はい。終わり。」
ったく、そんなこと聞くなよな。黒夜は私にそう告げてからまた目を閉じ、眠りに付こうとした。しかしそんなの私が許さない。違う。もっとちゃんとした理由があるはずだ。他のもっとちゃんとした。今、私の目の前にいる黒夜はいつもの黒夜とは何だか違う。嘘をついている雰囲気を微かに漂わせている。なのに、どうして話してくれないんだろう。黒夜に、誰かに嘘をつかれたとわかった私はショックだったのだろう。気が付いたら思考の海にどっぷりとはまっていた。信用してくれていないのかななんてそんなことも頭の片隅に浮き上がってきてはそんなことないと、彼はそんなこと思っていないと都合よく否定したがる頭がそんな考えを消し去っていく。でも、やっぱりなんとなく悲しかった。嘘をつかれたという現実を叩きつけられた事に少なくとも私は悲しくなってしまった。
「どうして…………?」
緊張のせいか喉はカラカラに渇いていた。そんな喉から搾り出された声は小さく、とても掠れていた。そしてその声を自分で聞いた小さな時間は、『ああ、やっぱり悲しいんだ。私。』と自分を自虐するような気持ちが生まれた瞬間でもあった。
「あ゛あ゛?」
でも黒夜には聞こえたらしくジロリと表現してもいいような目で私を見てきた。それに伴って酷くドスが聞いた声もおまけについてきた。
「どうして……嘘をつくの……?」
小さな、本当に小さな声で私は黒夜に問いかけた。黒夜が目を微かに開く。刃のような視線が私を刺し殺してきた。その時の私の気持ちは恐怖という文字で塗りつぶされていた。黒夜がこんなに怖いと感じたことは今までなかった気がする。怖い、恐い、こわいよ。ああ、きっとこのあと怒鳴られるんだろうなぁ。黒夜ってやっぱり……怖いなぁ。でも、私が予想した数秒先の未来は実現することはなかった。黒夜は色々なことを吐き出したそうな顔をしたが、すぐに口をキュッと閉めてその口から音を発することをやめた。そして、きわめて普通、を保った状態で呟いた。
「嘘なんかついてねぇよ……。」
くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ。その言葉で彼は一体何を表そうとしたのか。馬鹿な私にはわからない。彼が心から伝えたいこと、私には当分わかりそうにもない。もしかしたら一生わからないかもしれない。
「…………………………。」
部屋に重苦しい沈黙が流れ始める。黒夜はもう何も言ってこなくなった。元の性格からしてこういう空気を無くそうと盛り上げるようなことをするような奴ではないことも知っているが、今は何でもいいから言って欲しい。寂しい気持ちに拍車がかけられる。
『ごめんね。変なこと言っちゃって。』
今一番、黒夜に言いたい言葉。ごめんねって言って謝りたい。疑ったこと、嘘ついたって少しでも思ったこと。あきらかに悪いのは私なのだから謝って当たり前なのに、口から出てこない。ようやく口が開いたと思えば、私の口から出たのはまったく違う言葉だった。
「…………私、ちょっと外いってくるね。」
おやすみ。黒夜は何も言わずに、チラリとこちらに目を向けてきただけだった。おやすみという意味を含んでいるのか、さっさと出て行けという意味を含んでいるのか、どちらなのかわからないが挨拶ととらえておこう。今はそう思っておいたほうが私にも、黒夜にもいいだろうから。
部屋の鉄のドアが重苦しい音をたてて閉まる。最後まで黒夜は何も言ってこなかった。私はゆっくり足を動かし暗がりの中の出口へと足を進めていった。