ダーク・ファンタジー小説

Re: 「血相契約」〜小説大会【小説大会銅賞&更新再開!】〜 ( No.57 )
日時: 2016/05/30 00:36
名前: 黒hana ◆tr.t4dJfuU (ID: wGslLelu)

第16話(??目線)


「あなたに何がわかるっていうの!?!?」

無駄に響く怒声が頭にこだました瞬間、ガチャンという何かが割れ砕けた音と仄かに甘く香る茶葉の匂いが自分の鼻腔をくすぐる。目線を下に下ろすとさっき自分がわざわざ目の前で喚き続けている少女のために入れてあげた紅茶が床に投げ捨てられていた。高価であろう柔らかい絨毯が茶色く甘い香りを漂わせた液体によって使い物にならなくなってしまったことに僕は内心で大きなため息をついてしまう。ああ、また"主"に怒られる。

「物を乱雑に扱うのは感心しませんねえ。」

目線を足元から顔を上げて目の前に移すと少女は悔しいような悲しいような怒っているような、よくわからない表情を浮かべていた。そんな顔をされても僕は君の気持ちなんてわからない。わかろうともしていないのだから当然といえば当然だ。僕は彼女が"この城"から出て行かないように見張っているのと彼女が変な行動を起こして己を傷つけないように危険事を回避することだけが仕事なのだから。

僕はその場に立膝を立て、自分の足元でもう使い物にならなくなった豪華な装飾が施さていたこれもまた高価だったであろうティーカップの割れクズを一つ一つ指で拾い上げていく。

「こんな風に陶器を投げつけたりして……怪我をしたらどうするおつもりで?」

目線だけを目の前の少女に向けると少女は唇を噛みしめて小さく呟いた。

「怪我なんかしても貴方達には関係ないわ。」

私のチカラの事しか見ていない貴方達に。少女はそう言って椅子から立ち上がり早足気味に部屋を出ていった。扉がパタンと音をたてた瞬間に"俺"はまたため息をつく。どうしてああ反抗的な態度ばかりをとられるのか、イマイチよくわからない。確かに俺たちはあの少女のチカラにしか興味がないと言えば無いが決して彼女を手荒には扱っているつもりは無いし逆に比較的俺の性格には合わない仕事を引き受けているというのによくできている方だと思っている。俺は再度ため息をついたあと踵を返し部屋を後にした。

絵画や花瓶など生活感の一切ない、白すぎるえらく飾り気のない殺風景な廊下に出ると窓の向こうの景色に目が行く。久しぶり過ぎる空とのご対面に俺は少し驚いた。

「珍しいな……。」

いつもは思わずため息が出るほどの汚く濁った曇り空な物だからこんな澄んだ真っ黒な夜空に加えて星一粒一粒がこれほどまでに自己主張をしている美しい空があるものなのかと思わず疑ってしまった。こんな美しい空を拝むのはいつぶりだろうか。俺はずっとこの世界にいたので昔はよくこの空を目に焼き付けたものだが恐らくあの少女にとっては初めてのことだろう。今頃城の何処かで俺と同様に空を拝んでいるに違いない。

「おやおや〜?珍しー。アルファナス君がお空を見てるぞー?」

ふと己の思考の波を乱す声が聞こえた。はっと意識を取り戻し声がした方へ顔を向けると先程の少女ではない別の少女がニヤニヤと面白い物を見つけたかのような笑みで此方に歩み寄ってきた。俺はその少女の姿を捉えると本日何度目かのため息を心の中でつく。

「何の用だ……。クソガキ。」

「わぁぁー!!ひどー!クソガキじゃないしー!」

皆の可愛いいアイドル、レミエルちゃんだしー!とクソガキ、もといレミエルは己の一つ結びにした長い髪の毛をユラユラ揺らしながらけたたましい声で抗議してきた。

「はいはいうるせぇ。……今日はあのクソもふ娘は一緒じゃねえのか。」

「えー?なんかねー、メルは主に呼び出されたみたい。」

「また何か壊したのか?」

「えー、わかんなーい。最近あの"SPH"の子のチカラについてうんぬん言ってたからそれじゃないの?」

レミそこまで聞いてないからわかんなーい。と言ってレミエルは腕を頭の後ろに回してぶーぶー言っていた。

"SPH"

「あとっ!クソもふ娘じゃないし!メルにはメルシエって名前がちゃんとあるんだからー!」

俺は後ろでけたたましく抗議するレミエルを放置して一人思考回路に浸っていた。"SPH"……。失われた存在の欠片と記憶の塊に命が宿ったモノ。存在することを許されないモノ。SPHとは言わば精密なコピーそのものだった。持ち主の記憶と心を写し出しコピーしてできたものがSPHである。だがSPHは決して自然には生まれることは無く人の手によって作り出され無理矢理命を与えられ完全なる姿、もとい"ホンモノ"になることすらできない。そんな哀れな人口劣化コピーをSPHと呼ぶ。そしてその名称を着せられているあの先程の少女を思い浮かべる。

あの哀れな少女には名前が無い。正式に言えば"無かった"。SPHという偽物として作られたのだから名なんてものは無い。でも今は違う、我が主があの少女を無理矢理さらいここに幽閉した後に主は彼女に名前を授けた。彼女のホンモノの存在……すなわち彼女の大元となる存在から名前を取ってきたと言われている彼女の名は…………。
















































__「ミキ」……_____。