ダーク・ファンタジー小説
- Re: 「血相契約」〜【小説大会銅賞&更新再開!】〜 ( No.61 )
- 日時: 2015/07/05 04:14
- 名前: 黒hana ◆tr.t4dJfuU (ID: CFE7lDA5)
第17話(美紀目線)
————————————————————………………。
——————————…………き………………。
何も考えられなくなった頭の片隅で微かに声が聞こえる。
—————……み…………き………………。
その声はとても小さくて、音として確認できるのかすら難しいほどに掠れていて。とても何を言っているのか聞き取れない。
————……あなたは…………ちゃ……ない…………。
わからない。わからないよ。貴方が私に何を伝えたいのか、そんな小さな言葉じゃここまで届かないよ。もっと大きな言葉で、音で私のところにまで来てよ。
——……あなたは……なくちゃいけない……。
わからない。ワカラナイ。ワカラナイよ。
ああ、ああ、誰だろう。
——あなたは知らなくちゃいけない…………。————
私に語りかける"貴方"は……………………。
…………………………
………………
……
——————み————……。
——みき——……。
「美紀!!!!」
「どぉわあ!!!??」
ドスンッ
いきなり耳の中をかき乱すかの様な大声で私の体は反射的に跳ねそのままベッドから転げ落ちたのであろう、私の体は無機質なコンクリートの地面に仰向けのまま叩きつけられていた。一瞬遅れて背中から体中に鈍い痛みが駆け巡る。何が起きたのかわけのわからないまま覚醒していない目で周りをキョロキョロと見渡しているとふと自分の倒れた体に影がさしかかった。
「………………ん?」
目線を目の前に向けるとそこには私のものであろう白いシーツを掴んだ碧が腕を組みながら私を見下ろしていた。碧は呆れているのか怒っているのか、どちらとも取れないような表情で私を見つめていて。これほどまでかと溢れ出す険悪なオーラに押され気味になりそうだ。
「おはよう。」
バサッ。
「うわぁ!?」
碧は一言そう言うと倒れる私に取り上げたシーツを放り投げてきた。一瞬にして視界が白に染まって私は驚きの声をあげ、起きかかっていた体はまた硬い無機質な床に逆戻りしてしまった。
「早く起きな。朝寝坊だよ。」
「うへぇ〜……。相変わらず容赦ない……。」
シーツをどかしながら小さく苦笑いしながら呟くと碧はむっとした顔で睨みつけてきた。さっきよりも負のオーラが増す。私はどうも最初の方から彼女の威圧感に押されっぱなしだ。
「おぉ……。お顔が怖いよ碧さん。」
「美紀がずっと寝こけてるからでしょーが。」
さっさと着替えて準備しな。とわざわざ私の乱れたベッドを手際よく整えながら碧は言う。さっきまでヘラヘラ寝ぼけていた自分だがその言葉にふと違和感と疑問を覚える。準備……?今日は何か外出予定でもあるのだろうか。いや、そんな予定は無いはず。ならば一体何の準備を…………?私がボーッと立ちながらそんな事を考えているとヒュンッと風を切りながら目の前から何か大きな物が飛んでくる。勢いのついた謎の物体は瞬く間に私の目前にまで迫ってきていた。中々のサイズ、当たったらひとたまりもなさそうだ。
「ほげぇっ!?!?」
バシッ!
私は声をあげながらギュッと目をつむってソレを寸前でキャッチする。中々のサイズのうえに質量もあるらしく受け止めた手が微かに痛み手首にまでビリビリと伝わってきた。
「あっ?え?なに……?」
目を開け、自らの手中にある物に視線を移すとそこには赤ん坊一人くらいならつめれそうな大きめのカバンがあった。コレを投げつけてきた碧は窓を開けていてこちらには見向きもしていない。
「……………………あ。」
ふと己の口から声が漏れそこで私は今日の予定が何かを思い出す。それと同時に碧がこちらを向いて私が握りしめているカバンを指差して言った。
「必要最低限の物だけつめとけだって。新しい拠点って言って荷物一杯持っていっても余分なヤツはどうせ捨てなくちゃいけなくなるからだってさ。」
そうだ。思い出した。今日は皆で新しい拠点に移るって話をしてたんだった。ここより安全面はどうなのかは詳しくは知らないが比較的綺麗な場所に移れると聞いて一人テンション上がってたのは自分ではないか。何で忘れてたんだろう。
「もうみんな用意して下で待ってるから、美紀も早く用意して降りてきて。」
んじゃ先下行っとく。碧はそう告げたあとご丁寧に扉まで閉めて部屋から出ていってしまった。残された私は1人黙々と着替え始め、その後また黙々とさっき渡されたカバンの中に必要最低限の荷物をつめていく。服やら小物やらポイポイつめているうちにふと"アレ"を忘れていた事に気づく。
「あれ?どこ置いたっけ?」
キョロキョロと付近を探していると己の服のポケットからキラっと光り輝いた何かがこぼれ落ちる。それはカチャンと小さく鎖の音を鳴らしながら冷たい床に落ちた。
「あ、あったあった。こんな所にあったんだ。」
私はソレを手に取るとまじまじと朝日の光に照らされてキラキラと光るそれを見つめた。幼い時から何も変わっていない輝き。
「お母さん……。」
愛する母がいつもつけていたお守りの青い石のネックレス。不思議な事にその青い石は一度も光を失ったことはなく今も昔も変わらぬ輝きで私を導いてくれる。その輝きは幼い頃の幸せだった頃の記憶と重なっていくように思えてこのネックレスだけが今はもう遠い所に逝ってしまった母と私を繋いでくれる一つの架け橋となっている。私はソレを胸元でギュッと握りしめ、その後失くさないようにしっかりと己の首に通す。
「お母さん、どうか今日も私を守ってください。」
小さな声でその輝き続ける青い石を見つめながら私は呟いた。その瞬間よく聞き慣れた声が下から反響するかのように響く。
「おーい美紀ーー!いけるかー?」
と樹の私を呼ぶ声が聞こえてフッと現実に引き戻される。
「はーい!」
私はネックレスを服の中に仕舞うとカバンを閉じ、急いで下の階にまで駆け下りた。