ダーク・ファンタジー小説

Re: 「血相契約」〜【小説大会銅賞&参照1000大感謝!】〜 ( No.64 )
日時: 2016/09/11 00:40
名前: 黒hana ◆tr.t4dJfuU (ID: 7WYO6DME)

第20話


なんやかんやで私達は美織ちゃんの機嫌をなんとか直すことに成功したのはいいもののまだ少々不満が残っているのか美織ちゃんはその大きな目をキッと細めて私を見つめてきた。その視線に私は一瞬背筋が伸びる。これはなかなか根性のあるレディだと見た。人は年齢や見た目によらないとはこの事を言うのだろう。

「…………まあ良いわ。本題に入りましょ!」

彼女はくるりと体をモニターの方に向け歩み出す。隣の直也さんから「大丈夫だろうか……」という声と小さなため息が聞こえてきたのは気にしないでおくが、なんだかとても申し訳ない気分になった。

美織ちゃんはモニターについているキーボードを操作し始める。カタカタと無機質な音だけが暗い部屋に響きその音だけしか響いてないからなのかやけに大きな音に聞こえた。しばらくすると画面に青白い光と共に大きな地図のようなものがかび上がった。

「まず、この世界のことを教えてあげるわ。」

美織ちゃんは一瞬口元を緩め話始める。

「もう知ってるだろうけどこの世界はね、貴方達がいた世界とは全く違う言わば異世界、別次元の世界って感じね。」

私達からしたら貴方達の世界がそうなんだけど。

「この世界には2つの人種が存在していた。一つは悪魔、もう一つは"血約者"。悪魔と契約するためだけに産まれたといっても、過言ではない存在よ。そして蘭山 美紀、あなたにはこの血約者の血が流れている。知ってるわね?」

「う、うん……。初めて知らされた時は驚いたし訳わかんなかったけど。でも、どうして私にだけ?」

私がそう問いただすと美織ちゃんは斜め下を見つめ小さくため息をついた。

「わからないわ。私達もずっと不思議に思ってるのよ。あなたはあちら側の世界の人間なのにどうして血約者の血が流れているのかとね。」

わからないことばかりなのよ。
そう呟く美織ちゃんに私は何も言えなくなった。彼女が少し弱っている姿を見るのは初めてだった。その姿はいくら大人びているからといって、そこにいるのはれっきとした幼い少女であり、彼女もまた年相応の寂しさを感じているのだと思った。

「まあいいわ。じゃあ次はこの世界に何があったのか教えてあげる。」

美織ちゃんは顔をあげてキーボードを操作する。すると今度はモニターの地図の上にいくつもの赤い斑点のようなものが浮かび上がった。

「これはね、今よりずっと前のこの世界の地図って感じのものね。この赤い斑点は村や国があった場所を示しているの。……今はもうないけどね。」

樹が口を開く。

「ここに出てるやつ全部がか?」

「そうよ。元々この世界はとても平和でなにも争いや危険なことなんてなかった。悪魔と血約者は仲良く暮らしていたし今はこんな瓦礫だらけだけど昔は緑や森、川や海、全てが綺麗な素晴らしい世界だったわ。…………あんなことが起きなければ、ね……。」

美織ちゃんは悲しげに目を伏せるその姿は暗い部屋というのもあいまって小さく泣いているように見えた。直也さんも少し下を向いて何かから目をそらす。私は彼女達にとって昔の世界がどれだけ彼女達の中で大きく、美しいものだったのかがわかった気がした。すると美織ちゃんは気を取り直したようにまた再びモニターの画面とキーボードを操作し始める。空元気なのは見え見えだったが。

「じゃあ次、貴方達がこれから戦うであろう敵とそいつらがした事を説明するわね。」

"敵"というフレーズが出てきた瞬間場の空気が一瞬ピリッとした。この話はとても大切だからしっかり聞いておけと黒夜に言われたことを思い出す。画面に数枚の画像が浮かび上がる。

「……これは?」

そこには元は人だったのだろうか、一部に機械のようなものを埋め込まれている人や全身が機械の人、明らかに生まれつきではない羽が生えている人、様々な改造のようなものを施された人達の画像が浮かび上がっていた。皆、目が虚ろで虚空を見つめていて明らかに意識がハッキリしていない、そんな姿があった。胸がとても苦しめられ息が一瞬ヒュッと詰まった。

「"Dans la mort mondiale"、通称"M"によって改造されてしまった元血約者達よ。こいつらは急に現れたかと思えばいきなり大量の血約者達を誘拐して様々な人達を実験や研究材料にし、自分達の言いなりを聞くだけの改造人間に作り替えた。子供大人動物関係なしにね。」

「大人だけでなく子供も……。」

「……そして、そいつらが作り上げた改造人間達によって沢山の村や国が襲われた。悪魔達は殺され、血約者達は誘拐されみんなみんな崩壊していった……。」

"Dans la mort mondiale"──……。"世界に死を"という意味だ。

「ハッ、けったいな名前だねぇ。"世界に死を"、なんてさ!」

零慈君が腕を組ながら鼻で笑う。

「しかし、事実コイツらの馬鹿な改造計画のせいでこの世界は壊れてしまった……。そう思ったら事実こいつらは着実に世界を死というものに向けているのかもしれない……。」

めったに喋らない響さんが小さく呟いた。その場にいる全員が黙り部屋には沈黙と静寂が流れた。

「…………確かにこのMは恐ろしい組織よ。こいつらのせいで血約者は減り悪魔達は皆タイムリミットという名の寿命で死ぬか、こいつらの改造人間達に殺されてしまった。……一番恐ろしいのはこいつらの目的や計画、基地の場所や組織がどんなものなのかすらハッキリしないこと。」

なにも情報がない、正体不明なのよ。美織ちゃんは一瞬下を向くがすぐに顔をあげて先程よりももっとキツい目で改造人間達の画像を見つめた。その顔は彼女の硬い決意を示すには十分だった。

「でも、戦わなくちゃいけないの。闘わないと私の、私達の大切なこの世界が存在ごと消されてしまうかもしれない。そんなの、絶対嫌よ……!」

美織ちゃんはそっとモニターに触れて再び寂しげに目を伏せる。

「それに……こんな姿になってしまった皆を、元に戻してあげたいの。大切な、大切な世界の仲間だから……。」

また、皆で美しいあの頃の世界を造りあげられるように──。