ダーク・ファンタジー小説
- Re: 「血相契約」〜オリキャラ募集中です!〜 ( No.9 )
- 日時: 2014/04/04 15:59
- 名前: 黒hana ◆JEhW0nJ.FE (ID: CFE7lDA5)
第4話
懐かしい夢を見た。
とても、とても、懐かしい夢。
でも決して懐かしい夢がすべていい夢だとは限らない。逆に誰がそんなことを決めたんだと問いただしたくなるくらいに。そんな皮肉なことを言うくらい、私の夢世界はひどく歪んでいる。なにしろ幼い頃からいい夢なんて見たこと無かった。両親がいない一人ぼっちの幼少期。幼少期とかいってるけど、今現在も両親なんてものは存在しない。
(だって……)
だって両親は私を守って殺されたのだから。
——————————……。
「……美紀っ……!」————。
目の前で母の声がしたと思ったら私になにか大きなものが覆いかぶさった。視界が黒に染まる。一瞬のぬくもり、人の体温だった。その瞬間嫌に耳を刺激する音が聞こえ、私の視界は赤と黒に染まった。最初はグシャと変な音が鳴り、その次に何かしずくが滴るような音。ポタッポタッと小刻みに滴る。私の視界は影という名の黒と「血」という名の赤に染められているため何がおきたかわからない。しかし少しずつ、少しずつ、腹部に何かが染みていた。生暖かい。人の体温とおなじように。そしてその音がなった瞬間、目の前の影から温もりが無くなった。いや、温もりが消えていったといったほうがいいだろう。温もりがなくなると同時に目の前の影がぐらりと倒れていく。ゆっくり、ゆっくり。まるでスローモーションのように影が倒れていく。私はそれを震える視界で追っていく。薄暗い月光が視界に差し込み、少しずつ「影」の正体が見えてきた。
————お母さん。————
口か。それとも心か。はたまた両方か。
一番最初にそのフレーズを出したのは誰だろう。
ドサッ……と何か重いものが地面に打ち付けられた音がする。その瞬間黒い地面に広がる赤い液体。赤い。赤い。赤い。血液だ。赤い液体は倒れる母の腹部からじわじわじわと広がっていく。鉄臭い匂い。母の白いワンピースにその赤い液体は酷く映えた。さっき腹部にしみた生暖かい液体は母の血だったのだ。
「あ……っあぁ……」
私はその場に座り込み死に行く母の姿を見つめているしかなかった。
母は何一つ喋らない。一言も発さない。ゆさゆさと揺さぶってもおきない。ふと手に何か生暖かいものがベッタリと付着した気がした。恐る恐る自分の手を見つめる。そこは母の血で見事に真っ赤に染まっていた。その瞬間、吐き気が襲う。しかし手で押さえようにも押さえられない。しかし、そんなこと、今はどうでもいい。私は必死に母を揺さぶる。
「おかあさぁん……!おかぁざぁん…………!!」
私が泣きじゃくりながらゆすっても母はおきない。母の死体に目から溢れ出した涙が一滴、二滴と零れ落ちる。
その姿は私に「母は死んだ」という現実を突きつけるのには十分だった。
月光が目の前から差し込む。目の前には光に背を向ける男の姿。逆光でその男の姿は影と同じくらい真っ黒に染まっていたがこの男が私の父と母を殺した張本人なのだ。男の服についた真っ赤なしみと真っ赤なナイフ。そして男の足元に転がる私の父だったもの。真っ赤に染まり、原型をとどめていない。それがなによりの証拠なのだ。男はニヤニヤといやらしく笑っている。裂けた口の中も真っ赤だ。男は私を侮辱するかの用に見つめていた。だた何もない光もない目で。
「…………あっははははははははははははははははははははは!!!!!!!」
男は急に笑い出した。狂ったように。男の姿は見えない。しかし真っ赤に染まる血はよく映えた。男の狂い様と真っ赤に映える血は見事にマッチしていて、とても美しかった。そんな物まで美しく思えてしまう私はきっと両親が死んだショックで頭が狂ったんだ。そうだ。きっとそうだ。男は笑いながら、座り込み泣きじゃくる私を指差す。
(ああ……殺されるんだ。)
ひと目でわかった。きっと最後は私だ。私が殺されたら終わりだ。殺されるのか。痛いんだろうなぁ……怖いな……そんなことを頭の中で唱える。でも、これで両親の元へいけるならそれはそれでいいかもしれない。天国だったらこんな人いないはず。そしたら今度こそ三人で幸せに暮らせるんだ。
しかし、いつまでたっても男は私に手を出さない。おかしいと思い、涙でぐちゃぐちゃになった顔をあげる。男は私を指差したまま何かをつぶやいた。しかしその音はかすれたような声で。まず声として言葉を発しているのかすらわからない。なにか口をひらきながら何度も繰り返す。
『え?なに?よく聞こえないよ?もっとおっきな声でいってよ。』
しかしその言葉はのどに来る前に身体の中で溶けた。
意識が薄くなっていく。すこしずつ黒に染まっていく。
黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒。黒に溶ける。
最後に見えたのは男の足に転がる父と母。
真っ赤に染まる地面。
月光。
そして私を指しながら何かをつぶやく男の姿だった。——