ダーク・ファンタジー小説
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.1 )
- 日時: 2022/03/11 20:16
- 名前: 利府(リフ) (ID: 6i18Tf8q)
きみはだれだい?
……ああ、いや違うぞ!お名前を仰ってくださいませ、とかさぁ……
そーんなこと僕は聞きたくないんですから。
おまえに太陽はいるか?
うぅむ、また私変なこと言い出してしまいましたね……
失敬失敬。マジすまねぇ。
ぼくは誰かって?
……てめぇが知ることではない。
まぁ、一言でいっちまえば
一人の軍人だ。
ほら、チャイムも鳴ったことだ。
お前もいかなきゃ、ですね。
大丈夫。
いつか知るはずだよ。
おれがきいたこと、ぜんぶ!
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.2 )
- 日時: 2022/03/11 20:21
- 名前: 利府(リフ) (ID: 6i18Tf8q)
空は遠い。
あたしは時折、宇宙に行ってみたくなる。
…別に、よくよくうたわれる「星座」を見たいわけではないけど。
でもいつか、この私だけが拒まれる空間を超えて、跳躍して
何も拒まない、広い宇宙に。
存在しえない四次元が広がる世界へと。
広い四の世界へと、私は踏み出してみたいのだ!
…とまぁ、不思議なこと語っちゃったさね?
でもあたし、これでも真面目なこと言ったつもりなんよ。
わかってくれたらいいんけどなぁ。
あたしはハルミ、こんな女やけど。
あんたが、認めてくれればうれしいんさね!
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.3 )
- 日時: 2016/02/08 19:00
- 名前: 利府(リフ) (ID: 1EmUrXq/)
鐘が鳴る。
学校特有の、何かが始まる、何かが終わる時のよく響く音。
あたしはそれを聞きつつ、人生何万回目かの溜息を吐いた。
楽しく二人並んで歩く、清楚な制服を着た同級生。
正門の掲示板にはチョークで彩られた桜。
そしてあたしの隣にあるのは散ってしまった桜。
桜の木の下には、何とやら。文学に詳しいと大声で言えたものではないが、まずその言葉を頭に浮かべた。
学校というものは、本当に地下深くに死体でもどんな怨念でも埋まっていてもおかしくない。
あたしと皆の桜のイメージは、はてさて同じなもんなのか。
まぁ、深く考えても仕方無いさね。
眼前には散ってゆく桜と、和気あいあいと歩く生徒達。
あたしは進む。
吹っ切れたような、足取りで。
そう、学校の玄関へと踏み出した瞬間まで。
そんなに軽々と物事が進むものか。
それは、すぐに切り替わる。
あたしは、思い知るのだ。
どうせあたしは無力だから。
あたしはフユノギハルミ、四の世界に生きたいというのに。
それも儚く夢で終わる。
玄関に入った瞬間。
軽い、形容すればとすん、といった音と共に、足元がふらりと揺れ、バランスも取れないまま落下した。
冷たい石畳がすぐに近付き、額をぶつける。
分かっている。分かっているのだ。
あたしが、彼女にとって、不特定多数の人間にとって、ストレスの捌け口と見られていることなんて。
「おっはよー、サネ子ちゃん」
見上げれば逆光、俯けば「それ」の影。
黒だらけで、目が見えないような感覚に襲われる。
ただ、残念なことに耳は。
あたしの鼓膜は。
口には出せなくても忌まわしい、
あのいつもの声を脳に取り込んでしまっているのだ。
「おはよう、ユリさん」
にたにたと笑っているであろう彼女に意味もない言葉を呟いて、
今日もベルはあたしを苛む。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.4 )
- 日時: 2016/05/16 21:58
- 名前: 利府(リフ) (ID: sq.MYJuj)
額がずきずきと痛みを発し始める。
先ほど勢いよくぶつけたからだろうか、鏡で見ると少し青い。
はぁ、とまた溜息を吐いて長い髪を下ろした。
そろそろ日常茶飯事で済ますことができるほど、こんな傷を負ってきている。
痛みを訴えても誰も返事を返さないのだ。しょうがないだろう、どうせ始まる前から諦めている。
今日は始業式。
教室では背伸びたね、とか久しぶりー、とか
他愛ない話が続いている。
もちろんあたしを呼ぶ声はない。もしあったら、それはパシリか何かだ。喜ばしいものでもない。
だから、せめて耳を傾けて前髪にある赤いヘアピンを
ぐりぐりといじる程度しかあたしにできる遊びはなかった。
輪に入れるものなら入れてくれ。そう黒板にでも書けば、みんな反応を示すだろうか。
蔑むだろうか。嘲笑するだろうか。そうなることが分かるから、何にもあたしはしない。
まぁ、その輪の中に入るには必須の条件があるということを
もう皆、忘れてしまったんだろう。
——ザンッ、と亀裂が入る音がした。
グラウンドの上で、あたしを蹴飛ばした悪女はまた不敵に笑っている。
「出席番号9番カンザキユリ、能力名は鬼裂。前回調査と変化なし」
グラウンドにはまるで蟻地獄のような穴が開いていた。
屋上に立つ彼女はいつも通り、というように笑って
少し乱れてしまったのか髪を直し始めた。
彼女がセットした露出の高い制服の改造品は、男子にいつもウケが高い。
風の中でさらに胸元が見えるようになると、傍で口笛を上げて囃し立てる生徒の姿も見えた。
正直ドン引きだって、周りの女子は分かっていても言わない。
彼女は最高級の能力の持ち主で、この学校の誇りという声もあるのだから。
だからあたしは彼女が、妬ましくて妬ましくて、でも泣き寝入りしかできないのだ。
あたしの孤立の原因は、あたしにあるのだから。
他のなにが変わろうと変わるはずのない。これっぽっちの理由が、あたしの苦痛で、妬みの元だった。
「能力判定無し、静能力者と判定する」
そう、そのことを知った瞬間、あたしはここには居られなくなった。
あたしはここに越してきた、帰国子女だ。
だからといって輝かしい生活を送ってきたわけでもない。
父は今も外国出張で家にいない。母は日本人で、父の貧乏事業に振り回されていた。
それに嫌気がさして、あたしたちだけが親戚を頼りにして
中学卒業と同時に帰国し、親戚の家の近くに今は住んでいる。
外国よりはいいところよ、と母はあたしに微笑んで言っていた。
そのぶん、幸せになってくれということだろうか。あたしが入る高校をここにしたのは。
だが、ここに来たのは…大間違いだったのだと、あたしも母も、嫌になるほど知っているのだ。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.5 )
- 日時: 2016/05/14 22:33
- 名前: 利府(リフ) (ID: I69Bg0jY)
能力専門高等学校、略して能力高校。
あたしは一貫して能力高等学校と呼ぶそこは。
入学方法は推薦のみ、その推薦の優先的条件は
「普通の高校生を超越した能力を持つ者」
能力…即ち、自然の変化から人の大量殺傷まで。
能力さえあれば、この学校は何もすることはない。
試験も能力に限られる。
授業も能力に限られる。
全て能力を求めている。
ここでだいたい、予測は付いただろうか。
そう、あたしには能力がない。
いくら学力があっても、下等。
いくら強くても、下等。
一人ぼっちだ、哀れだ。
そんな声が毎日、毎日、遠くから聞こえてきて、もう耳鳴りのような煩わしさ。
もう幻聴で片づけてしまいたいのに、カンザキユリがあたしを現実に引き戻す。
今だって煩わしく聞こえてくるそれが大嫌いだ。耳を塞いでも、笑い声が聞こえてくる。
しかしそれが、一瞬で砕け散った。
「お、おい!?…あんな生徒は記録にないぞ!」
先生の叫び声と共に、皆の視線が上に向いた。
あたしも剣呑な動きで顔を上げて、ユリさんも後ろを振り返った。
校舎の屋上、そこにいたのは。
「こんにちは、下等種族の少年少女様」
長く伸びたポニーテールを揺らしながら。
いつどこで手に入れたのか、あたしたちのものと寸分違わぬ制服をまとって。
影は、恐ろしく高い校舎から躊躇いもせずに落下した。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.6 )
- 日時: 2021/04/15 18:16
- 名前: 利府@今回は3DSから (ID: Mgo.shQL)
一人の少女が、校舎から転落した。
そう聞けば、誰もが怪我をしたことを予測するであろう。
あの校舎から落ちたのだからひとたまりもない、と。
だが、彼女は。
驚くなかれ、掠り傷すらない。
自慢げにもせず、二本の足で地面に立って耳の後ろを掻いている。
いつの間にか彼女は能力測定靴を履いていたようで
着地した瞬間、電光掲示板に能力名が表示されていた。
『測定不能 能力名“白鳥』
はくちょう、つまり鳥…
彼女は、飛んだのだ。
飛べるはずなのに、わざわざ落ちた。
勿論、鳥なのだからゆっくりと落ちることができる。
彼女は、白鳥。
だが、測定不能、靴がオールレベルと呼んだそれとは、何なのか。
そして、彼女は何故能力を持つのか。
何にも分からないまま、あたしの隣に座っていた女がまず声を上げた。
「モモちゃんはこの子を保健室まで連れてってくれると信じてますよぉ。なぁ、季節?」
こんなに幸せそうに笑う顔など初めて見た。彼女はあたしの唯一の友達、モモなのに。
彼女はあたしと同じ無能、それなのに性格は真反対。唯一、私に親しくしてくれる同級生。
不遜な笑顔を浮かべる彼女は、今まで何を心待ちにしていたのだろう。
この一瞬で、この“衝撃”の到来で、彼女の頭が回りだしたようだった。
「あっ、あの、えっと」
「保健室に行けばいいのね?」
今まで友好的な態度を示しているようには見えなかった少女が、こてんと首をかしげて言った。
周りを見回すと、早く連れて行ってくれという空気しか見えない。あたしの役目のようだ。
こっちです、と彼女を校舎まで先導して歩くなか、みんなはあたしたちを避けて行った。
一つの道ができているのを見て、またあたしは小さいため息をついた。
*****
保健室は無人である。
確か養護の先生は職員室で、新任の先生と今後のイベントで使う用具を作っていると聞いた。
件の少女はソファに優雅に腰かけ、足を組んで扉の近くに立つあたしを睨んでいた。
こっちを見るな、待ってろと言えたもんではない。あたしはそういう、偉くもない無能なのだから。
「あなたがハルミ?」
「はっ、はい!?」
突如名を呼ばれ、肩がびくりと跳ねる。
「フユノギハルミ。フユノギ…か。
君は私の知っているハルミではないんだね」
ごくりと唾を呑む。
なぜ私の名前を知っているのか。今の言葉に不信感も怪しさも、全てが詰められている気がした。
そんな意味を全く理解できない言葉を呟いて、部外生徒はくすりと笑い声を響かせた。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.7 )
- 日時: 2016/05/16 15:50
- 名前: 利府(リフ) (ID: sq.MYJuj)
測定は中断だ。
そう伝えてくれたのは遅れてやってきた養護の先生で、トヤマミコトを
代わりに職員室まで連れて行くというので、自分は一人で教室に戻ることになった。
モモは教室の隅で蹲って居眠りをしており、ユリさんは舌打ちを繰り返しながら
足を組んで椅子に座っていた。あたしは彼女の机の前は通らない、確実にそのまま
蹴りから始まる軽い暴力を受けるからである。
「うっそー何?測定が後日とか…」
「自殺未遂だって…なんか、うちの生徒じゃない奴が飛び下りて」
騒いでいる皆をよそに、あたしはその言葉の真意を理解しないように耳を塞いでいた。
こいつらは心配する言葉も、嬉々とした表情で言っているのだ。信じたりできるものか。
そして、勝手な憶測をしている奴らに言えるものなら言ってやりたい。
あれは、能力だった。お前らよりも圧倒的にレベルの高い、そういうものだった。
「そんなことできるの、カンザキぐらいしかいねーだろ」
それも見当外れだ。地面に亀裂を入れる能力を持つカンザキユリでさえも、
体勢を整えずに落下すれば多少、いや、相当な怪我を負うであろう。
あの高い校舎の屋上から、落下すれば。
あたしの知る範疇では、確実に。
ざわつきを隠すこともないみんなは、あたしが能力を持っているのだったら、友達になれていただろうか。
でもそんなの残酷だろう。そのチャンスはもう諦めたはずなのに。
自分にもみんなにも苛立ってきて、あたしは大きく足音を立てながら教室を出ようとした。
「季節ぅ」
そこで呑気なモモの声が聞こえて、あたしは反射して振り返る。
「どうしたん?」
「負けんなよぉ、あんた」
「…何それ、意味が分からないさね」
彼女だって嫌われているのに、どうしてそんな笑顔を見せられるのだろう。
相手が軽く笑ったのを返事とみなして、後ろの扉を開けて廊下へと出た。少し休みたかったのだ。
廊下も賑わっていて、これじゃどこに行けばいいものか、と少し迷っているうちに、
「ちょっと、すいません」
「へ、へっ?」
また驚いて顔を上げる。
もちろん、目の前の相手はあの少女ではない。髪を結んでいて、まつ毛が短くどこか中性的。
でもよく見れば手は骨張っていて、そういうところに男らしさを感じた。
男子の制服を着た、トヤマミコトとよく似ている少年だ。もしや、出てきたのは同じ腹からか。
「自殺未遂したとか言われてる奴、どっかで見ませんでしたかね?」
「え、さっき…職員室に連れて行かれたと思うさね」
「そうですか、ありがとうございます。センパイ」
え?
疑問を浮かべたときには、軽い足取りで去っていく少年。
彼は何故、私が先輩だと分かったのか。
もう何が何だか分からない。
考えすぎて頭が痛くなってきたが、時計を見て集会の始まる時刻を思いだす。
とりあえず席には着いておこうと、不安の種と疑問を頭の中にしまいこんで教室に戻った。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.8 )
- 日時: 2016/05/21 16:04
- 名前: 利府(リフ) (ID: L7bcLqD7)
「職員室の場所聞くの忘れた…」
途方に暮れて廊下を歩く。あのセンパイは優しそうだったから、一時は助かったと思ったのだが。
また聞きに行くのも癪だろう。あと30分で集会、それまでにミコトを見つけなければ。
「…あれ、タケル?もう帰るの?」
「!」
職員室から丁度出てきたところらしく、ミコトの隣には教師らしき男。
叱られていたと思ったのだが、やはりそんなことも全く気にしていないようだ。
こういうところは寧ろ怒りを通り越して尊敬してしまう。
教師の目は俺に向けられ、怒りの声が飛んできた。
「君、知り合いか?早く戻りなさい。外の者は立ち入り禁止だ」
「いや…んっと。
今日転校してきました、トヤマタケルとトヤマミコト。姉弟です」
姿勢を整えて作り物の敬語で接し、俺はここにいる理由を述べた。
もちろん目を丸くする教師。まぁ、見た目が似ていても俺ら中身は特に似てないしな。
姉弟と言われるまで、気付かれないことも多々ある。
だからこそ姉弟、という肩書まで欠かさずに言ってやったのだ。
「んじゃ、姉貴。とりあえず手続きだけでも、済ませといてくれ。
俺は家帰ってる」
軽く手を振って、下へ行く階段へと進んでいく。
ミコトに色々と問い質す教師の声を聞いて苛立ちが隠せなかったが、さてどうしようか。
まぁ、いいか。
あんな弱弱しい大人に、興味はない。
*****
「手続き…?」
タケルが言うだけ言って去った後、私は頭を抱えたくなるほど馬鹿らしい教師の相手をしていた。
入学手続きとでも考えるかと思っていたが、その更に下。何にも分かってないじゃないか。
「あぁ。あいつはもう、特別なことがない限り学校には来ません。
特例としてテストを自宅で受け、その点数で通知表の評価をする。
それが、もう決まってるんで。おわかり?」
不登校。
教師が嫌うそれは、まぁしょうがないと言えばしょうがない理由さえあればまだいい。
彼の理由は、こいつに教えるに値しない。
「例外さえなければ、もうあいつに会うことはないですよ」
だって例外は、もう近いのだ。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.9 )
- 日時: 2014/06/30 21:08
- 名前: 利府(リフ) (ID: nWdgpISF)
「それではただいまより、XX年度、能力高校始業式を開式致します」
教師が頭を下げ、壇上から降りる。
そして校長の話が終わり、次は何だとプログラムを見てみた。
『新任教師、転入生紹介』
ありきたりな、特にあたしには関係がない紹介。
そう思えるものだった。
「えー、それでは新任教師と転入生、壇上に上がって下さい」
声を合図に、ぞろぞろと段差を上がる生徒と教師。
その中で、ひときわ目を引いたのは。
あの落下事件を起こした、長い髪の少女だった。
起こしたことが大きいため、周りからはざわつきと
彼女への視線が向かう。
先ほど保健室で会ったのもあるが、どうも彼女は謎だ。
謎というより妙、とも言えるか。
これだけ注目されているというのに、たじろぎも見せない。
寧ろ堂々として、まるで自分はこれが普通だと言い張るような。
靴音が響く。
「それでは転入生、自己紹介をお願いします」
礼をして、息を吸って。
彼女は、また私たちを見下ろしてこう言った。
「こんにちは、下等種族の少年少女様!」
今度は晴れ晴れとして。
マイクから体育館中に響き渡る声で。
彼女は、叫んだ。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.10 )
- 日時: 2014/07/05 23:48
- 名前: 利府(リフ) (ID: nWdgpISF)
「ふざけんな」
その一言を皮切りに、一気に罵りが起こる。
うるさい、非常にうるさい。
耳をふさいで、もう目まで閉じたい気分だ。
特に隣にいるカンザキの足元には、僅かにヒビが入っている。
人はこんなにうるさい生き物だったんだろうか。
「もう、あんたらやめてさね…!」
耐えきれなくなり、必死に声を上げる。
しかし、私は驚愕した。
薄目で壇上を見てみると、そこには
「あはっ、愉快だわ」
罵声をものともせず、寧ろうっすらと笑みを浮かべている。
その姿は、まるで王者。
嘲笑いを含んだ壇上からの声を聞いた群衆は、さらに激怒して。
もう耳を塞いでも、頭がおかしくなりそうな叫び声が聞こえる。
やめて、と再び言おうとしたその時
ぽん、と肩を叩かれる。
いや、これは
布が肌に触れたような感覚…?
「貴方様は、叫ばないのですか」
冷たい、まるで幽霊。
首に巻きついているのは、ただの布…
着物だけなのに。
「私はレイ…ただの従者です。
さぁ、どうしました?叫んで、愚かにならないのですか」
する、と布がほどけていく。
それでも冷たさが残り
今でも体を貫きそうな感触がした。
怖い
こわい
—だれなの、あれは
「いやああああああああああああああ!!」
あたしは、叫んだ。
壇上の彼女は、また息を吸っていた。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.11 )
- 日時: 2014/07/07 21:56
- 名前: 利府(リフ) (ID: nWdgpISF)
壇上に乗って、1分。
体育館は鎮まることを知らなかった。
人間って一言でここまで豹変してしまうものなのか。
えーと、今静かになさってるのが…
十数人程度。
ばらばらに散らばってはいるけど。
そのうちの一人は、ちょっと叫び始めてる。
恐怖?かな。騒ぐつもりはないみたいだね。
息を吸って、また話してみるか。
今度は「叫ぶ」とは言わない声の大きさで。
「んふ、く、くく…あははは、はっ」
が、笑い声が漏れて、どうも言葉にならない。
だが、流石下等種族。
まだ、騒ぐ!
もう焦れて焦れて。
手が出かけた、その時。
「お静かに、お静かに」
誰かの、声がした。
「マイクテスト、マイクテスト、だよ」
いつの間にマイクがない。
この声の主かな?
どおりで声が届かないわけだね。
いきなり聞こえた謎の声に、体育館はしん、と水を打ったように
静かになっていた。
「この子、この子、話しているよ?
静かに、静かに、してあげて?」
聞き覚えがない声だなぁ。
おそらく、あたしらと同じだな。
新しく来た奴か。
まぁ、助かるね。ありがとう!
というわけで、改めまして…
話の続きを。
さて、これを聞く人は…
生き残れるかなぁ。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.12 )
- 日時: 2014/07/08 22:46
- 名前: 利府(リフ) (ID: nWdgpISF)
始業式が終わって5分。
もう教室に辿り着いたあたし達だったが、それでも教室内には
ピリピリとした雰囲気が漂っている。
そりゃそうだ、あんな侮辱なんてされてしまったら。
この学校で、あの子の味方をする者は今後現れるのだろうか。
「ねーねー、さっき騒がしかったね」
「!?」
肩が跳ねて、露骨に驚いてしまう。
「え?う、うん。びっくりしちゃった…」
いや、むしろ自分に声を掛けてくる人がいるとは思わなかった。
避けられるのが普通すぎて慣れてしまっていたのだろうか?
と、思いつつ窓を見ている。
(空、青いなぁ)
「君、まさにうわの空って感じだね」
「…」
「ねぇ、聞いてる?
ま、いいや」
・・・
あれ?
静かだ。
鳥肌が立つような違和感を感じ、ついに窓を見るのをやめた。
くるりと顔を振り向かせ、教室を見渡すと
誰もいない。
(あれ、みんな)
どこへ?
夕焼けのような燃える空があたしの目に飛び込んできて
サイレンのような音もする。
不安、という気持ちの意味が分からなくなってきた。
一人で寂しい時?
自分がどうしていいか分からない時?
そのまま机に突っ伏す。
これは白昼夢か、醒めるまで待てばいいんだろう。
最後に見た空は、火の色だった。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.13 )
- 日時: 2014/07/09 23:58
- 名前: 利府(リフ) (ID: nWdgpISF)
文体変えたい。の、結果。不自然of不自然。
あつい。
最初に思ったのはそれだけだった。今は春だというのに、何だこの異常な暑さは。頭がぼんやりするほど暑くてたまらない。
まるで火あぶりにされてるみたいだ。
ぐしょぐしょに濡れている髪が頬に触れて、余計気持ち悪くなる。…だが、頭を上げる気にはならず、髪を自分が横たわる机から引き離すことしか考えなかった。
しかしどうもだるい。
動こうと思えば動けるが、暑さががんじがらめに体に巻きついているかのように気力がだらだらと汗となって落ちる。
ああ、まだ夢を見てるのか?あたしは今どうなってしまってる?
もしかして、本当に死んでしまったとか…?
「ざっけんじゃねェよッ!!」
いきなり怒声が響き、思わずがば、と顔を上げる。さっきまでの暑さはやはり夢だったのか、まさに夢みたいに消え失せてしまっていた。残っているもの、とすれば顔から滴る冷や汗くらいだろう。
「うるさいよ、うるさいよ、トオル君?」
か細い注意の声が聞こえて、そろりと前を見てみる。
そこにいたのは、とても長い髪をした女性。日本人形みたいで、白い肌、真っ黒な瞳、シンプルで地味な色でまとめたワンピース。そう、例えるとしたら…日本人形、もしくは市松?
ともかくお化けのような雰囲気がする女性を見ていると、いきなり目があって、ぺこ、とお辞儀を返された。
「ど、どうも…えと、えとっ」
『連絡します。チエリ先生、2年1組の健康観察を行ってください』
放送で声を阻まれたみたいで、少々顔が赤くなるのが分かる。
その「チエリ先生」は健康観察を手に取り、ちょいちょいと手の先を曲げていた。
察したのか、トオル君が舌打ちをして座った。
「じゃあ、じゃあ、出欠をとりますよ」
横目で見た空には、雨が降り出していた。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.14 )
- 日時: 2014/07/10 23:21
- 名前: 利府(リフ) (ID: nWdgpISF)
あぁん?今回ほぼキャラ紹介?
そのようなことがあろうはずがございませ…いや、ございます
「えーと、まず。言うよ、言うよ?
まず、イサキチヅル」
「はい、います」
「カンザキユリ」
「…はぁ」
「ガダイレンタロウ」
「へい、いるいる」
「シンザワサソリ」
「うぃ〜」
「スズノミヤマ」
「ハイっす!」
「トヤマミコト」
「はい」
「トヤマタケル」
…
「…欠席かな、残念。フユノギハルミ」
「いっ、いるさね」
「マツリバヤシ」
「おります」
「…?
これ、なんて、読むのかな?」
「モーモ!100って書いて、モモだよぅ!」
「ヤシロトオル」
「…」
「返事、返事」
「チッ」
「はい、これで終わり。
お疲れさまでした」
「センコー!」
いきなり隣の席から声がした。
初対面で先公はないと思ったが、叱られることでは無かったらしい。
「どうしたの、どうしたの?モモさん?」
「理研は?あの鳥は?」
鳥?理研?
クラスの半分が顔を傾げるが、そうでない者は確かに、と言っている。
チエリ先生も知っているのかと顔を上げてみた。
「遅刻、遅刻ぅ!」
どこぞの少女漫画王道シーンのように先生が答えたので、思わず吹きだしてしまった。同時に、こんな人形みたいな先生にもボケの発想はあるのかと驚愕。
そうか、遅刻か。
「どんな子なんだろう?理研君、って」
それを知った時、あたしはとてつもない後悔をすることになる。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.15 )
- 日時: 2014/07/12 20:01
- 名前: 利府(リフ) (ID: nWdgpISF)
雨はまだ降り続けている。
窓にどろどろと垂れていく雨粒を遠目で見る人もいれば、本を読みながら喋っている人もいる。十人十色、というところだろうか。
あたしは前者で、窓の向こうの水滴をなぞって遊んでいた。
チエリ先生が出ていって、もう5分はたつ。
だが、皆はどう騒ぐこともなく、一番騒ぎそうなトオル君もぼーっとして指をいじくっているだけだった。
まるで脅されているみたいに静かだった。
降り続ける雨を見ていると、ようやく戸が開く音がした。
が、入ってくるそれを見たクラス全員が戦慄する。
それは確かにチエリ先生だったが、白い顔は真っ青、服と手には大量の血がこびりついていたのだ。
チエリ先生は荒い声で、皆に呼び掛けた。
「皆、お願い、お願い、すぐに下校して」
「え!?」
そんな急な、と騒ぎ始める教室。
「急いで、早く、早くッ!!」
しょうがない、というように皆はぞろぞろとカバンを取りに行った。
そのまま全員が廊下に集められていく。
「いい?レインコートと傘を皆にあげるからね。いい?
ぜったい、ぜったい! 雨に濡れちゃだめ、だめ!」
仕方なくレインコートを羽織り、傘を抱えて廊下を歩いて行った。
そのままあたしは階段を急ぎ足で降りていく。
「ハルミ?」
「ふぇ!?」
目と鼻の先に顔。
予想通り、といえば予想通り、それはトヤマさんだった。
「ねー、体育館行かない?チエリ先生が行ってたみてーなのよ」
「…え、うん。べつにあたしはいいんけど…」
「決定!さーさ、ハルミ。行こう」
あと何で知ってんのかは秘密ね、とトヤマさんはあたしの手を
引っ張って行った。
熱線のような蒸し暑さは、よりどろどろとした雨を印象付けている。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.16 )
- 日時: 2014/07/15 21:26
- 名前: 利府(リフ) (ID: nWdgpISF)
階段を下りたところで、やっとトヤマさんの腕が外れた。
「ンと…この辺りでモモと待ち合わせしてたんだけど」
まだかな、と子供のように辺りを見回すトヤマさんは、あの壇上で高らかに非情な言葉を発した人物とは思えないほど無邪気で。
あたしはそれに驚きつつも、体育館の方向をただ見つめていた。
(近くで見ると、また随分と変な雨だ)
濁った色。粘り気がある水滴。
何だろう、これは。デジャヴという言葉では説明しがたい違和感は。
聞いたことが、あるような…?
「お待たせ〜!ミコっちゃん」
ぶんぶんと手を振って、レインコートを羽織ったモモがやってきた。
彼女も雨を避けるように廊下を歩いてきているが、どこも雨の飛沫に濡れるような感じはしない。
「そんじゃ、体育館、のぞいてみますか」
トヤマさんはぽいぽいと運動靴を投げ捨て、小さな段差を駆け上がっていった。
「そんじゃ、あたしも…ぅわぶっ!?」
ごん、と盛大にモモが横転して、体育館に大きな音が響く。
「…び、びっくりし、た」
声が掠れる。
何だ、これは?
血?
「へーぇ、まるで戦争だ…」
にんまりと笑うトヤマさんと、表情を険しくするモモ。
目の前に広がる風景は、あたしみたいな普通の人間が耐えられたもんじゃない。
壁には体、床には服の残骸、天井には噴出したであろう血。
虐殺のような、この風景は…
あたしの意識を暗転させた。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.17 )
- 日時: 2014/07/21 14:02
- 名前: 利府(リフ) (ID: nWdgpISF)
もう帰宅時間はとうの昔に過ぎていた。
あたしが倒れたとモモが皆に伝えてくれたらしく、クラス全員が体育館の前に集まっている。
(よくヤシロ君まで連れてきたもんさね…)
体育館にはトヤマさんがいる。
危険だよ、とあたしは止めたが、トヤマさんは「だいじょうぶ、信じろ」
と親指を立てて扉の先に行ってしまった。
「…なぁ、モモよぉ」
「何ぞ何ぞ?このモモちゃんにご用か、ガンダム」
モモは顔を上げて、にまにまと笑う。
「ハルミはともかく、てめーはなぜ至近距離で見て卒倒しねぇ?」
「さぁ?季節とガンダムが慣れてないだけジャネーノ」
んだと、とガダイ君が追いかけて、モモが笑いながら逃げ惑う。
それを見てユリははぁ、と呆れた溜息をする。
「ただいま。全員来てるの?モモ」
「来てるよー、ミコっちゃん」
そんじゃ調査結果を、とトヤマさんは一枚の紙を広げた。
そこには大量の文字が箇条書きで書かれ、ちらほらと図も見える。
「死者は判別できたもんじゃないわ。部位がばらばらに転がってて、
白骨・肉片のオンパレード。
しかも、これは確実に…能力者が起こしちゃってるわよ」
「…は?うちの学校の、誰かがやったっていうのか!?」
「そうでしょうね」
一気に皆が全員に疑いの目を向けた。
が、それはヤシロ君の一言で、変わる。
「てめぇら、居るだろ…?犯れるのが、1人」
「そ。センコーには唯一、アリバイがござーません!」
証拠もある。
体育館に入ったというモモとトヤマさんの証言。
そして、先生にこびりついていた血痕。
「戦犯候補、上がりました♪」
皆の足は、職員室へと向かって行った。
雨はまだ、降る。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.18 )
- 日時: 2014/07/23 15:47
- 名前: 利府(リフ) (ID: nWdgpISF)
「先生、あんたが犯人だ」
ぽけ、とした表情をしていたチエリ先生だったが、それは一気に青ざめて黒い眼を大きくぱちくり、と瞬かせる。
職員室に押し掛けたクラスメート全員を見上げながら。
「な、何を、何を言ってるの?しかも、何で帰ってないの?」
気が動転しているのか、言葉はいつもより片言。
もちろんその一言だけじゃ皆が結論を変えるはずもなく、全員が先生に
疑いの目を向け続けていた。
それも、犯罪者を見る眼差しで。
「ち、違う、違うよ…何の犯人かも知らないし、なにもそんな
怒られるようなことも、やってないよ!」
「とぼけんじゃねぇ、クソ女がッ!!」
ヤシロ君が殴りかかる。
ひ、とあたしは耳を押さえてしゃがみこんだ。
…が、
「やめろ、城尾」
鈍い音がして、次の瞬間にはヤシロ君が崩れ落ちる。
その横には彼の手首を靴で押さえた、モモ。
「ミコっちゃんが今教えてくれたよ。センコーは、犯人じゃない」
「…んなっ、根拠があるかよ!?」
「ある」
トヤマさんがモモのところへと向かい、一つのごつごつした破片をポケットから取り出した。
「トオルさん、あんたの能力は『極刑』でしたね?
それを使って、この破片の指紋を調べてくれませんかね」
「…何で知ってやがる、テメェ」
ふふ、と笑ってトヤマさんはヤシロ君の口に己の指を当て、
「危険な目には、あわせませんから。ね?センパイ」
それを軽く舐めた。
トヤマさんの顔は、ちょっと赤く高揚していた。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.19 )
- 日時: 2014/07/25 23:08
- 名前: 利府(リフ) (ID: nWdgpISF)
気まずい。
悪乗りだったと信じたいが、まさかトヤマさんがあんなことをするとは。
衝撃的すぎて声も出ない。
いやいやいや、トヤマさんって、まさか…
「どしたのん?季節」
「ん、んっ!?な、何さね」
気が付いたらモモが至近距離。
そこまであたしは変な顔をしてたか、と思わず顔を片手で隠した。
「トオルさん、結果でた?んじゃ、頼むよん」
ひらひらと手を振り、トヤマさんは職員室のドアに勢いよくもたれかかった。
そして、全員の目線がヤシロ君に向く。呆気にとられるチエリ先生は、まだ状況を理解できてないらしい。
魂が抜けたように、ヤシロ君の能力をぽーっと見つめていた。
…幽霊、みたい。
と、その時。
机にヒビが入る音がした。
「…トヤマ、てめぇ」
「今気付いたばっかだかんさぁ、゛それ゛が犯人だって」
指差されたのは青白く光る模様、付着した…指紋だろうか。
ヤシロ君が持つ手袋がそれをなぞって、模様が少しずつ消えていく。
「ねぇ、アリバイがない奴は考えれば何人でもいるものなのよ。
あんたらもあの下校時間中、アリバイを証明できないでしょ?
この学校にいない者でも、能力を駆使すればいい」
トヤマさんがチエリ先生の名簿を取り上げ、それを投げる。
写真が舞って、彼女の懐からナイフが飛んだ。
「これが」
ナイフが、映画のように
「戦犯だよ?」
1枚の写真を捉えた。
「理研こと、サエズリケンジ」
—prologue end.
戦犯確定
死亡者多数。
生存するのは、何人だ。