ダーク・ファンタジー小説
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.108 )
- 日時: 2016/03/01 22:52
- 名前: 利府(リフ) (ID: Nt/V91yN)
どうしてこうも途中まで書いてた分のデータがすっ飛ぶことが多いのでしょうか
書く気失せるんで毎回涙ぐみながら書いてるんですが
無論作業用BGMは謎の人の新作、退紅トレイン
あぁもう最高ですか!!短編のほうの歌の迷宮も更新してやる!!(絶叫)
でも呟きも出す!あぁテンション下がらないわやばいわシュガシュガヒルトン!!
*****
「な、なんで?…タケル君の声が、確かに」
あたしは、声を震わせる。
もう先ほどまで開けてくれと懇願していた、目の前の門は開いているのに。
だが、今のあたしの目線は、眼前に佇む少女の姿に向けられていた。
トヤマさんを、子息と呼んだ。そして、タケル君がいるように見せかけた彼女一人に。
こちらをじっと見る少女も、トヤマさんも気にせずにあたしは少女の身形をまず確認した。
風が吹く中で、こちらを出迎える表情は、トヤマさんと似通ったもの。
涼しい笑みはイサキさんが何度も見せるものだったが、これは違う。冷たい笑みだ。
だが、危険要素を含むような。何かをしでかすか分からない、悪戯っ子のような参謀の、美人だ。
下ろせば腰まであるであろう髪を二つに結えて、シミ一つない白のワンピースを纏う。
さらに裸足とも来れば、一部の要素を覗いてしまえばただの子供だ。肌は真っ白だが。
その要素としたら、多分この雰囲気と傲慢な口調だろうか。…喉とかには、人間の要素しかない。
「なに。憂い事でもあるの、お嬢さん」
「えっ」
「ありすぎて押し潰されてるんでしょ。実際、そっちでも一人潰れたらしいわね。ねぇ、お前」
「違う。二人よ。精神がまた一人潰れたばっかりなのに、年増はこれだから介護もしたくない」
「お前よりいいわよ。若造を気にかけるのは若造のほうがいいわ」
結論を言おう。
さっぱりわからない家庭に来てしまった。
今のを要約すると何だ。痴話喧嘩か。あたしは頭を軽く抱えて、前後で罵り合う二人の声を
インプットしようとする。勿論それも無理で、飲み込む前に肩をぽんと叩かれた。
「ごめん。ハルミ、応接室行くよ。じゃなきゃここに来た意味もないわ」
目の前の少女も軽くお辞儀をして、「ごめんねぇ」とまた冷え切った笑みをこちらに向ける。
お母さんと全く違う笑みだ。住む家庭の違いって、時として酷いものになる。
トヤマさんがまず玄関にあたしと少女を入れ、自分は一人で別の部屋へと走っていった。
彼女の背を追うのも気が引けるので、隣の少女を横目で見るとその表情はもっと冷たい真顔になっていた。
前方には大きな鏡。広い屋敷の中にあるすべてを反射するその前で、あたしは彼女と目があった。
「…で、お嬢さん。お前って、少し腰が引けてる人間なのね。
でも時として強いって、ミコトから聞いたの。変わり者だわ」
「そう、ですか…変わり者?変わり者って、失礼な」
あんまりそんなこと言われたくはない。怪訝そうな表情を返すと、少女は瞬きをして
次の瞬間にはふっと吹き出し、トヤマさんに似た声で大笑いを始めた。
「そう、そこが変わってるの!さっきお前、私におびえていたでしょ。それがいきなり怖い顔。
面白い。ミコトのお墨付きだなんて初めて見たわ。お前、こっちについてきて」
裸足で歩を進める少女に、あたしは少し誇りを持ってついていく。笑い声が、少し漏れてしまった。
——どうであろうと、強者に認められていたなんて。ちょっとだけ、嬉しかった。
長い廊下は真っ赤なカーペットが敷いてあり、ここにも汚れは一つもない。
壁は薄い黄色の模様があり、それが上品さを醸し出していた。ここも、新築のように綺麗だ。
上では火が揺らめくスコンスが立ち並び、歩いて少し経つと大きなシャンデリアもあった。
この辺りであたしは一つの違和感を抱き、前に立つ彼女にそうっと聞いてみる。できるだけ自然に。
「あの、使用人は」
「いないわよ?そうそう汚れないわ。だって私もミコトもタケルも鳥だもの。
暮らしているのは三人ぽっち。しかも全員何かをこぼすだとか、そんな事もしないの。
立つ鳥跡を濁さずよ。あれ、ちょっと違うかな」
「…違うと思います。確実に、さね」
「そうよね。…あ、着いた」
こっち、と指された扉は彼女がゆっくりと開き、その部屋が全容を見せる。
一歩足を踏み入れてみれば、ここも思ったとおり広い部屋だった。
白いロングテーブルだ。中心に、真っ赤な花があるのがより白の中で目立つ。
でも、何故だろう。並ぶ椅子はたったの4脚というのが、どこか芸術的で淋しげだった。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう(コメント募集) ( No.109 )
- 日時: 2016/03/12 00:48
- 名前: 利府(リフ) (ID: hpZBxX8P)
場面コロコロ変わりすぎてやばい
今回は職員室に再び来客が…というかすっごくお久しぶりな人が
*****
書類を片付けてからというもの、チエリはパソコンにただひたすら向かっていた。
タケルの情報をまず探し、貢献することから考えたのである。
「でも、どこにいるか分からないよね…人手が多いほうが、一番効率的だと思うんだけど」
彼女の技術ではせいぜい地図を出すのが精一杯である。
無論タケルの居場所も突き止められなかった。
こうなれば朗報を待つしかないと、いったん窓際で目を休めようとしたチエリのもとにやってきたのは。
「疲れてんの、センコー」
「…えっ、あなた今まで、今まで、どこにいたの!?」
長髪にガスマスクを被った、可愛げのない太眉の少女モモである。
敵に回す人物が多いが、ミコトにはよく気に入られている奇異な人物だ。そして、無能。
モモはチエリの前まで歩いてくると、同じように窓から乗り出して街を眺める。
チエリが彼女の目を良く見てみれば、その目は薄らと笑っていた。
「何か、何か、分かるの?モモさん」
「しらね。弟君がいなくなったことしか知らされてないのに、私が何か分かると思うの」
「ご、ごめん、ごめんなさい」
「ええ?センコーが生徒に謝ってやんの。ははっ、笑えてくる」
悪態をつくモモにチエリは頭を抱えるばかりである。
しかし彼女をミコトが好いているのも事実で、むやみに怒りたくはなかった。
しかも、相手は生徒である。
こんな時でもチエリの教師としての信念はあるらしく、「何でかなぁ」とひとりごちて彼女は頭を抱えた。
「なにが。何を指してなんでかなぁなの」
「いや、いや!私が空回りするからね、なんでかなぁって」
「……なんか、センコーって季節と似てる」
「そ、そんな!私、私とハルミさんは別に」
「んで、あんたは何を迷ってるの。参謀気取り?それなら状況くらい教えろよ、モモちゃんに」
低い声にびくぅ、とチエリは体を跳ねさせた。
いやこの程度でびびってたまるか。反論だ、チエリ!と己を叱咤し、頭をぶんぶんと振る。
それでも目の前の視線は冷え切っているような気がして、結局チエリは
モモの目を見れないまま状況をぽつりぽつりと伝えることにした。
*
「それで、それで、今みんなはタケル君を探しているの」
「そーなの。ミコっちゃんはこれに関わらないかと思ったら、お人好し季節のせいで巻き込まれてるのね」
「モ、モモさん!…言い方が、言い方が悪いよ!」
「何とでも言え。私はあんたらとは違うし、弟君を探す気もない。第一私の足しにならない、帰る」
あっさりと。
モモは、結果的にタケルの捜索の協力を拒否した。
「…あなたの、あなたの足しにならなくてもっ、ミコトさんの足しになるかもしれないの!」
「その名前出してくるなよぉセンコー。ミコっちゃんの足しになるとしても、私は暗躍が好きでね。
ヘルと戦ったときに季節を倒したのは私だ。ミコっちゃんを助けられたからもう私はおねんねの時間なの」
やけにきっぱりとした否定に、ふとチエリは違和感を抱いた。
彼女が第一に考えている人物を掴むのは容易である。ハルミではない。タケルでもない。
そう、ミコトが彼女に大きくその存在を落としていると気付いたのだ。
むしろ、その他に興味を示すなどあったか。チエリはすぐに質問を投げかけた。
「モモ、さん?…あなたにとって、ミコトさんは…ミコトさんは、なんだって言うの?」
少し間を置いて、モモは笑って答えを返した。
「悪友」
そのまま踵を返して去っていくモモを止めずに、チエリはまずその言葉を反芻した。
悪友。悪い友。悪いことを一緒にする。友。
この二人に限っては、まるで運命共同体。
(——ミコトさんが、何かをしたの?)
そう言えば、彼女の家庭は少々特殊なものだった、とチエリは思い返す。
鉄は熱いうちに打て。すぐにチエリは机に置いてある受話器を取り、今までに何度か
押したことのあるボタンを押して数列を並べ、一つの場所に電話をかける。
(お願い、出て。出て!ミコトさんじゃない、保護者のあの人が…!)
祈るように受話器を握り、チエリはうつむいて応答を待つ。
そして数コールが経ち、ぶつりと何かが切れるような音がしてから。
「なに、お前」
チエリの耳に届いたのは、ミコトとは違う少女の声であった。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう(コメント募集) ( No.110 )
- 日時: 2016/04/06 23:08
- 名前: 利府(リフ) (ID: n/BgqmGu)
おゆるしください(更新遅すぎました)
BGMは鉄血のオルフェンズより「Iron-Blooded Orphans」
かっこよくてテンションが上がるとおもいました(こなみかん)
外国人兄弟視点
*****
「兄ちゃん。オレ、泣いてなんかない。目がかゆいから、座ってる、だけだ」
うつむいたままで意地を張って、それでも目を擦るイワンを見つけたのは、つい先程だった。
タケル君が出て行って、それを追おうと飛び出した彼のスピードは予想以上に早く、
育ち盛りのイワンよりも体力だけは少々低い僕は追いつけなかったのだ。
日が落ちでもしたら、いくら能力を駆使しても無理なのだ。彼はその力の恩恵を受けているおかげで
タケル君を探すことはまだ容易だし、きっと今頃遠くにいるのではと危惧したが、それは杞憂だった。
ゴミ捨て場の隣で捨てられた小動物のように座るイワンは、僕の姿を確認するまでずっと泣いていた。
膝小僧は擦り傷だらけ、あざも一つ二つ見える。転んでどこかにぶつけたのか。
「そうだね。イワンは強い子だ、今日はチエリの家に早く帰ろう。彼女なら、
きっと一つは彼の情報を掴んでいるかもしれない」
「ありえねぇ。ガンタイのコたちならありうるけど、チエリはああ見えて“ユウジュウフダン”だから」
「…まだ探すのかい。なら僕もついて行くよ、弟を一人にしてはいけない」
ほら、と手を伸ばすと、イワンはゆっくりと顔を上げた。予想通り目もそのまわりも真っ赤で、
これは後でまた泣くかもしれないなと思いつつもう一度「行こう」と呼びかける。
するとイワンの手が僕の出した手を突っ撥ねて、一人ですたすたと歩き出した。
唖然として去っていく彼にもう一度叫んで呼び止める。
「止まれ!一人じゃ危険だよ、この街の状況を分かってるのか!?」
「オレの能力を使っていけばいい。動物がオレに力を貸してくれるから、
兄ちゃんの助けは…今は必要ない。先に帰っててくれよ」
「今は、じゃない。まだお前は未熟だって、父も言っているじゃないか」
「オレはタケを探す。ミジュクだからってカンケイない。オレなりに探す」
聞く耳を持たないイワンの後を追いかけていこうとするが、足元で犬の鳴き声がした。
はっとして下を向く。突然現れた犬はどこか凶暴だった。まるで誰かに命じられたように。
「…こんなものをいつの間に?」
本当に一人で探す気なのか。戸惑っている間にイワンは走って逃げてしまったようで、
犬も一瞬で可愛げのある姿に戻った。唸りもしないから、きっとイワンの能力に干渉されたのだろう。
「…駄目だ。探さなければ」
犬を一撫でして、僕はすぐにイワンの後を追った。
*****
「タケ!!タケ————!!」
叫んで叫んで叫んで、でも周りには人ひとりいなくなってきた。
確かこの辺りが校区外の境目だ。本当に見つからないけど、どこかで手がかりを見つけなければ。
あのチエリが言っていた“ハンカガイ”で人に聞くよりは、オレは動物のほうがいい。正直だ。
ただ家が多いほうに行っても、よく見てみれば空地ばかりでノラネコもいない。
(…このあたり、さびれてるのか?あとでチエリに聞こう)
日がほんの少し落ちている気がする。こういうときは、鳥に聞いたらいいかもしれない。
わたり鳥でもいればいいけど。上をじっと見ていると、黒いカゲが群れをなしてとんで行った。
ひと目見てシュルイは分かったが、あれは夕やけに似合うやつだ。
——追ったら、夕やけには見つけられるかもしれない。
オレはすぐにカゲと一緒に走り出した。
「タケ——!!ぜってぇ、見つけてやるからなぁ!!」
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう(コメント募集) ( No.111 )
- 日時: 2016/05/12 23:45
- 名前: 利府(リフ) (ID: I69Bg0jY)
本当に申し訳ない
今年から受験生なので、更新がさらに疎かになると思いますが
それでもよろしい神様のような方はもうしばらくお付き合いください
今回視点はトヤマ家です
絶賛スランプ
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「椅子はお嬢さんから見て一番左側を使ってくれない?花が一番綺麗に見える席よ」
「はっ、はい」
ワインレッドのクッションが敷かれた椅子は予想以上にふかふかで、されど重厚感がある。
高いものだろうとは察していたが、今自分が住んでいる寮の椅子の何十倍の値段だろう。
そしてロングテーブルの横についた席から、花の露がちょうど輝いて見えるのがまたいい。
考えつくして、この配置にしたのだろうか。
「綺麗に見える?」
「うん、綺麗さね、とっても。…花が見えにくいけど」
「そうよね。完璧じゃないでしょう、私が話せるのはそういう事よ、お前。
トヤマ家の過去だとか、私の子息の事。ミコトはそれを聞くのが嫌だから別の部屋に行ったの」
「…面倒くさいからじゃないさね?」
「私だって同じことを考えた。でも、本当に嫌そうにしてるの。
気持ち悪い、馬鹿みたいなきっかけと結末。
だから、気をしっかり持って聞いてよ、お前」
*****
トヤマ家は簡単に言えば、人のようで鳥のような奴らの一族なの。
ミコトもお前にそんなことを言ってなかった?あぁ、やっぱり言ってるわよね。
能力を持っていることが当たり前の人間なの。お前、そんな奴はどちらかといえば嫌いでしょう?
知った口をきくなって顔だけど、しょうがないのよ。人はそう、たまに醜いからいいの。
体に加えて頭が働くから悪事を働いて、口が動くから人を毎日傷付けている。
それを止めたいと思ったことはあるけど、止められたことなんてないでしょ、お前もミコトも。
それがいいの。
私はね、このトヤマ家の中の“傍聴者”なの。そういうものでいる、その信念を持っているわ。
この家で育っていくものをただ見届けて、ときに捻じ曲げて面白く変える。
ミコトとタケルにもそれぞれの信念があって、だから私はその信念を守っている。
前に市松先生にも怒鳴ったわ、それを守ってやれって。
お前にも、あるはずよ。そういう核がね。
ミコトとタケルはその核が昔に膨脹した、っていうのが正しいわ。
二人はただ、私に対して『もう大切なものを失いたくない、そのための障害を壊す』って言うのよ。
これだけなら、何があったか気になるでしょ?
簡単よ。二人は誰かを救って、誰かを殺す気でいる。
お前はミコトに好かれている、それは彼女にとって素の姿なのか、仮面をかぶった姿なのか。
タケルも同じよ。でも案外、間の抜けた人間なの。だから、こういうことをした。
衝撃的かしら?案外、普通よ。強い能力を持っている者に限った話、なのかは分からないけどね。
私は二人の昔話をよぉく知っている。
お前に全て理解できるなら、お前が全く後悔しないなら、
お前が完璧な答えを出すのなら、喜んで話してあげるわ。
…無理?
あぁ勿論、そんなことできないって、分かってるわよ?
だって、完璧なものなんてどこにもない。
今お前は「はい」と言わなかった。だから、その心意気を評価して教えてあげる、変わり者。
あの姉弟の弟はね、世界が何度変わっても一人ぼっちの、可哀想な子なの。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう(コメント募集) ( No.112 )
- 日時: 2016/05/29 01:21
- 名前: 利府(リフ) (ID: W3Oyo6TQ)
そしてもう一つ、教えてやることは。
トヤマタケルもトヤマミコトも、私からしてみれば何一つも繋がっていない。
意外かしら。そうよね、お前たちは何も知らない。私の子供も、聞かれないのをいい事に黙った。
でもオウムにとって、黙っていることは苦痛なの。だから、ここまで来たお前には私の知る全部を話す。
でも私が知ってることはこの世界のほんの一部。お前だってそうでしょ。みんな、みんなそうでしょ?
市松先生だってそう。人間すべて、一かけら一かけらを所有して、存在価値を保っている。
そしてトヤマタケルは、もともと私の腹からは出てきていない。
私、いままで誰とも交わったことなんてないのよ?信じてよね、お前。
生まれてから、必要のない限り外に出ることはない。散歩なんてしない。
嫌でしょう、お前?それで良いと思うのは、人でなしだと思う?
はっきり否定はしないのね、お前。やっぱり、変わり者だわ。
話が逸れたわね。ああ、別にさっきまでの内容は忘れてなんかいないわ。
こうみえて年齢と姿がかみ合っていないんだけど、頭は冴えているの。
トヤマ家は、そういうものが集まるのかしらね。これは、そのままの意味よ。
それで、一つ聞くけど。
お前、誰かと幸せに暮らすとしたら、どうする?
ふうん。家族、か。やっぱりそうなのね、それがちっぽけに思える人間はどこか捻くれている。
お前は、そういう意味で保守に走る。私はそんなことはしない。
——私が欲しいのはね、自分を犠牲にしてでも相手を守ると誓った者よ。
お前に心当たりはある?あるのなら、教えてみて。
…はぁ、そうよね。それが普通。
じゃないと、この状況は私が手を出すことなく変わっていく。
あれ、お前、この話の意味が理解できるの?
…そういえば、ミコトが必死に話していたわね。フユノギハルミは、そういう人間だと。
お前の、能力は。“早知”。
それは、理解を早めるもの。
他よりも、早く知る者。それが、お前。そうよね。
そういうお前に、この言葉を託したいの。この世界のために。
いい?よく聞いて——
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ。
劈くように、彼女の声を切り裂くように電話のベルが鳴り響いた。
戸惑いを隠せない彼女の顔は遠く、その感情までは読めない。
あたしはベルの轟音を無視した。頭で、どくどくと熱い血が回るのだ。
こんなの、普通の人間の起こすものじゃない。他から加えられた拷問だ。なんなんだ、これは。
(トヤマ家は鳥の家族、傍観者の彼女は、トヤマオウム。トヤマタケルは、一人ぼっち。
あの姉弟は、人間を救って、障害は殺す。トヤマミコトはあたしの前で、仮面をかぶっている。
トヤマオウムはあの姉弟の親じゃない。トヤマオウムの、望みは…!!)
そこで、しびれるような痛みと共に、力が抜けて行った。
貧血の時のように、吐き気がして、目の前が白くなって、音が遠くなる。
頭が回らなくなって、少女が扉を開けて電話に向かうのを横目で見るのが精一杯だ。
それでも今度は記憶を手繰って、さっきの血の流れの原因を思い出す。
理解だ。———そうだ、これが。
早知、だ。
あたしの、能力だ。
それを感じて、心になにか優越のような衝撃のような、例えられない何かが落ちる。
少年の声が、微かにする。これはきっと、ガダイ君の声だ。この力を抱いていた、彼の声。
声に耳を傾けて、あたしはがくりと頭を下げる。
申し訳なさと、やるせなさの中に、決意があった。
あたしの役目は、彼の代わり。
この理解しようがないほど目まぐるしく変わる世界の、
狂言回しだ。
『やっと、俺に能力が手に入ったんだ…!』
バットを握る手を思い出す。全く関わることがなかったのに、擦り傷の多い頬を思い出す。
何度叱られても髪を切らなかった、意地っ張りだったことも。
彼の記憶のように、浸透していく。あたしに託されて、溶けて外から見えなくなっていく。
あたしは両手を重ね合わせて、指を交差させ、強く力を込めて、祈った。
「ありがとう。あたしが、君を使ってごめんね、どうか…許して、さね」
彼を奪うという事は、改めて理解すると心が狂いそうなほど擦り減っていくもの。
もう彼はあたしになった。それだけなのに。
「ハルミ、能力を…手に入れたのね」
扉を開いたトヤマさんの優しい声が聞こえて、顔を上げた。あたしの目に熱いものが溜まっている。
そんなの気にしないはずだったのに、彼女がつかつかと歩いてきて抱きしめてくれるから、
涙が形を作ってこぼれてきて、自分とトヤマさんの制服に染みていく。
「オウムがハルミにこの話をしたのは、君の能力の開花を促すためだった。
こんなことをしてしまってごめん、でもこれで…戦争に勝つための、力が増えた。
今の君なら、タケルの居場所も、すぐに分かるはず。行こう、有能」
「うん…分かったさね、トヤマ、さん…」
ぼんやりと見える彼は、黒い影。潤む瞳の中で、それだけをあたしは捉えていた。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう(コメント募集) ( No.113 )
- 日時: 2016/06/17 23:23
- 名前: 利府(リフ) (ID: MQQ8Cjrn)
タケル「ヘイヘイヘル君ビビってる—!!」
ミコト「ヘイヘイ最近出ないカンザキ&ヤシロコンビビビってるー!!」
ヘル「でもお前らカレカノいないじゃん、おいらいるんだけど」
ミコト「爆ぜろ」
今回そういう感じです BGM神曲(あさき)にしようか迷ったけどやっぱり溺れる宇宙猫
この曲でうごメモPV作ってたけど進捗なかったんでKill everybodyに切り替えました
*****
おかしい。
そう気づくのは早かったけど、ここまで背筋がぞわぞわとするのは初めてだ。
何におびえているかって、それは単純に。
誰もいないことに、おびえている。
日が落ちてきた。どうして、街に明かりが灯らない?
あの鳥、カラスの群れを追ってきたはずなのに、鳥の鳴き声さえない。
誰もいない。“キョム”だ。聞いたことがある、それは確かに…兄ちゃんに。
空と建物と植物と空気しかない。オレの“モクシ”で確認できるものは、五指にも満たない。
それが怖いのだ。誰かいないのか、オレは一人きりになんてなりたくない。
(……バカか、オレ。さっき、兄ちゃんを置いていっただろ?一人で、強がっただろ?)
バカらしくて一人で笑うと、視界がまたにじんできた。
目がかゆい、だから泣いてる。さっきはそう言っただろ。悲しくないのにどうして泣く?
怖いだけで泣くなんて、ずっと探してた姉ちゃんにもタケにも顔向けができない。
「姉ちゃん…タケ……」
諦めるつもりがないのに、あきらめたような口ぶりで言ってしまった。
まるでこのあとに、オレはダメだったよだとか言いわけぶった言葉をつなげるつもりなのか。
とっさに口をふさぐ。でも嗚咽がもれそうになって、勝手にかくごを決めていた。
「おにいちゃん、だいじょうぶ?」
聞こえてきた声は自分の真下にあった。
すぐにその姿をみて、ホッとした。ああよかった、子供だ。小さな男の子だ。
「おーおー、どうしたんだ?オレはだいじょぶだ、なんにも心配しなくていい。
今のは目にゴミが入っちゃったんだ、お前にもそういうこと、あるか?」
「まえまであったかもしれないけど、もう分からないなぁ」
「そうかそうか!ぼーず、迷子じゃないよな?」
「迷子じゃないよ。いまからヒミツのさくせんをじっこうするって、あの子がいったんだ。
だから、ぼくだけちがうところにいるの。あのカラス、もうみつかったかなぁ…」
…あのカラス?
オレはくい気味に叫んだ。
「な、なぁ!!そのカラス、どこにいるって!?」
「え?おにいちゃん、カラスの友だちなの?じゃあ、うーん…」
子供は戸惑った声で、オレに耳うちをした。
「向こうにたいようにいちばん近いビルがあるんだ。そこの、上にカラスがいるんだ。
なにをしてもどれだけいじめても鳴かなくて、きみがわるかったなぁ」
そこまで聞いて、まだ何か言いたそうな子供にありがとうとだけ返してオレは走り出した。
“ジジョウ”が違ってくればこの子を叱りつけていたのだが、やっぱりタケが先だ。
すぐにタンクトップと胸元の間に挟んでいたケイタイを取り出して、兄ちゃんに電話をかける。
『イワン?どこにいるんだ、教えてく…』
「兄ちゃん!!隣町のタイヨウに近いビルだ!その屋上にタケがいる、早く来てくれ!!」
『あ、あぁ』
何かを聞こうとする兄ちゃんの声をさえぎった。さっきまでいた子供の姿はもうないけど、
子供はうそをつかない。しょうじきでいい子だ。だから、こういうじょうきょうだと信用できる。
駆けて、足がどっかに引っ掛かるたびに激痛がはしる。きっとあざになる、すりきずもたっぷりだ。
空が少しあかい。もう夕ぐれだ。なら、タケを見つけるのはこのタイミングしかない。
タイヨウが近くなってきた。その真下にあるビルが、真っ赤にぎらぎら光っている。
あたりを見回してみると、いくつか並んでいるはずのたてものがぬけ落ちている。
(バケガクじゃせつめいがつかない。こんなの、みんなでかんがえるしかない…)
ビルの中に駆けこむ。人はいないけど、綺麗なところだ。植物がたくさん、よく育ってる。
ヒマワリはちゃんと日の当る所にある。そんなの常識だけど、優しいところだ。
あったかい家、というか…とにかく、団らんの場所?
階段をさがして登り、のくり返しの中、廊下のみちはばが狭くなった。
わかれ道を無視して突っ切ると、小さく外が見えた。
屋上への扉だ。
行くしかない。タケはきっとここにいる。
————オレだけでも、こいつの味方になる。
そう決意した。
ほんの少し一緒にいて、何かわかったわけじゃないけど。オレの中のなにかが決めたんだ。
「タケ!!」
扉が開いて、その向こうに。
「イワン…?」
なんら変わらぬ姿で、タケは佇んでいた。
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう(コメント募集) ( No.114 )
- 日時: 2016/07/03 19:14
- 名前: 利府(リフ) (ID: laYt1Tl.)
ハイキター。ついにヘルの彼女です。
書きたいシーンは次に持ち越し。だって受験生疲れるから。
*****
やっと見つけた。その安堵感で、息がなぜか苦しくなるような感覚に襲われる。
目のまえにタケがいる。それだけで、擦り傷の痛みがどっと増した。多分、これは“クンショウ”だ。
褒めたたえられる、そういう傷だ。
それなのに。
目のまえのタケが、あまりにも苦悶に満ちた顔をしている。…泣いてる、のか。
どうして?だとか、そんな言葉が顔に書かれている。
肌のどこかしこに、夕焼けと同化するしずくが付いている。
「え…なぁ、タケ?どうしたんだ…?」
「…今すぐ、ここを出てくれ。ここは、俺が食い止める、だから…
これ以上、俺に嫌なものを見させないでくれ」
戸惑うしか、なかった。
怯えているのは、この“ムジン”の街のせいなのか。いや、さっきの子供が言っていた「いじめ」なのか。
とにかく、思考の終点をまず先に述べる。
「助けてくれる人がいないのは、こわいよな。オレだって分かるよ…」
「っ、だからなんだよ…?イワン君がっ、俺の決めたことを手伝うのか?」
「あぁ、さっきそう決めた。だから、いっしょに帰ろう。タケ」
そこまで言ったところで、ものすごい剣幕でタケが叫んだ。
「馬鹿!!俺の言ってることがわかんないのか!?、一人で帰れよ、
そうした方が俺もお前も後悔しないんだ!!出て行け!!!!」
その声色で確かに、タケが自分の感情の何もかもを吐露したしたことはわかった。
なにか、ここにキケンなものがあるということも。
それでも、オレの心になにひとつ響きはしなかったのだ。
瞬きも普通のスピードのままで、息もあらげず、ただオレはそこにつっ立ったままでいた。
「……………なぁ…わかってくれよ…」
そこでやっと、悲痛な声は聞こえてきた。
ぼそりと言ったから、オレ以外には分かりやしない。
オレは、分かっているつもりでいるんだとおもう。多分、全人類がそうだ。
ときにそれに“イワカン”と“ギモン”をいだいて、不安になる。
目のまえに立っているこいつだって、オレがすぐ考えを曲げるやつだと思っている。
子供っぽいから。よく人にめいわくをかける“ジコチュウシンテキ”なやつだから。
(そんなこと、今までオレはなんども分かっていたよ…)
誰だって、一番じぶんを知るのはじぶんだ。
だけど、いまのオレはなんだか違うって、おしえてやりたいのだ。
タケにも、オレにも。
わかって、くれるだろ。
オレは、隣のビルの屋上に陣取る、異形のなにかを見すえた。
形容できない形だ。近いものを言うとすれば、しろい布がぐねぐねとアメーバ状になったものだ。
でも、よく見ると、腕と手らしきものはある。
気持ちの悪い。息をのむと、タケがはっと顔を上げてオレを突然つきとばした。
「だから逃げろって言ったろ…?あいつが、この街を消したんだ。
人間も、建物も、この街の生きるものすべてを消し去った、…はは、笑える話だろ。
俺はそれを何一つ守れなかった……」
「は?…え、冗談止めてくれ、タケ。あれが——————」
その瞬間、布は手を振り上げて屋上に手をついた。
まだ、状況を理解できていない、そのオレに敵は“タンジュン”な事実をつきつけてきた。
その瞬間、ビルは溶けるように消え去ったのだ。
硫酸のように?
なんらかの力で破壊されたように?
いや、それじゃ説明などできなかった。
バケガクでもカガクでも証明できない、これは…!!
「…ろ」
「………っ、はぁ?」
ぼそり、と呟く声がする。
布はビルがあったはずの場所の真下に居座り、簡潔にそれを述べた。
「零。私と彼の目的が死なぬ限り、この偽りは溶けて失せると決まっているのです」
その刹那にタケが黒い翼を生やし、オレをビルの下へ叩き落とした。
鋭い痛みが走り、文句を言ってやろうと上を見上げると。
タケの涙は、あふれ出していた。
「さようなら、ジャバウォッキー」
零の、誰に向けたかも分からぬ言葉の前に。