ダーク・ファンタジー小説
- Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう(更新停滞中) ( No.119 )
- 日時: 2016/12/22 21:00
- 名前: 利府(リフ) (ID: HW2KSCh3)
消えた雑踏と靴跡を眺めて、おいらはざまあみろとばかりに笑う。
今日がこの街の終末になった。いとしい最終兵器が、静かにこの街を滅ぼした。
今の自分は少年の姿をしている。無垢な少年、人畜無害な、されどおいらにとっては害でしかない人間のからだだ。
同じ空の下でおいらと人間たちが共存していくなんてこと、難しいったりゃありゃしない。薄々それが分かってるからこいつらは無意味にも戦争に巻き込まれ、...いや、戦いに参加させられる。おいらたちの目的の達成とともにひとり残らず死んで、積み上げたゴミのような文明が崩れていく。
生憎おいらたちは、人間以外あんまり殺したいとは思わない。
だってこれは戦争だ。人間しか、核とか地雷とかは作れないだろ?
おいらはそんな馬鹿げた連中が大嫌いだ。人に優しく。人類みな兄弟。何いってんの、今日もまた人間は人間によって死ぬんだ。
共食いだ。螺旋階段だ。それも下りの。デジタル?機械?能力?人間の進化?そんなの、“おいらの時代”ではまだ馬鹿げたものだったのに、人間って本当に死にたがり。
だからおいらはね、こんな姿になって、あることを成し遂げてやろうと決めた。
それはね。
*****
──屋敷を出て。
「ハルミ、もうすぐ着くよ」
焼け落ちるように赤い空を前にして、あたしたちは羽ばたいていた。
ガダイ君の意思を受け継いだあたしを認めたトヤマさんは、こうしてあたしを再び戦いの場に招こうとしている。
あの電話のベルの後、トヤマさんの携帯にも電話がかかってきた。
相手はトヤマさんが「駒鳥」と呼んだ、ロビンさんだった。緑のボタンを押すと、携帯の向こうから必死に叫ぶ声が聞こえてきた。それに加えて、トヤマさんはスピーカー機能までONにして電話に応じる。街の雑踏は聞こえなかった。
「もしもし!?ミス・ミコト!?」
「何その名称、寒い」
「そんなことよりっ、今すぐ隣町へ向かってくれ!!」
隣町。確か、相当賑やかなところだった。うーん、お母さんともっかい行きたいなぁ。
いや、待て。こんなに必死な電話ということは、まさか。
「弟がミスター・タケルを見つけたらしいんだ!弟が先に彼の元へ行ったが、どうにもこれは......護衛が必要だろう。今すぐ二人とも来てください」
その言葉に思わず絶句した。
街に敵がいる、という可能性はさっきから薄々感じていた。それが、タケル君を狙った、ってことだ。やはりあの時、叫んででも止めておくべきだった。あの兄弟の家族を探すために奔走する精神を、抱きしめてやるべきだったのだ。ああ、体が震える。目頭が熱くなってきた。
「分かった。今すぐ行く」
トヤマさんが抑揚のない声で返事をすると、ロビンさんは待っています、とだけ言って電話を切ろうとした。.........電話を切ろうとした、と分かる自分に、違和感を覚えたけど。するとトヤマさんが真剣な顔をして、待って、と声をかける。
「勝手なことしないでよ、優男。君の能力には期待してるの」
「......先走らない様に、と?」
「分かりにくいか。じゃあ簡潔に言う、死ぬなよ」
ロビンさんの笑う声がした。
「......僕はイワンの家族ですから、こんなところで死ねません」
そこで電話が切れた。
不思議と、その電話の向こうから、街に溢れる音が聞こえない理由がわかったような気がした。
その理由は何かって、悪いやつが街を滅ぼしたんじゃないか、と。あんまりにも馬鹿げた被害妄想だなと思った。だから、その時トヤマさんに伝えることはしなかった。
だが、それは間違っていなかった。
街の建物が、不自然に消えている。夕焼けに照らされる建物の数は、太陽に近付くにつれ、まるでコロナに溶かされたかのようにして減っていく。
人は一人もいない。あの日と全く違う。お母さんと一緒に歩いた新鮮な街の景色も、人間の群れも、ないのだ。
「早知」の的中に、あたしは絶望した。
頭の中に、新しい何かがやってくる。血流に混じって、未来がやってくる。
あたしははっとして目を見開いた。
血が、少年の華奢な体から吹き出るのが見えた。
顔まではわからない。それでも、それは確かに見知った人間の少年だった。
「おえ、...っ」
吐き気を堪えるために、両手で口を押さえる。トヤマさんがあたしを抱き抱え直してくれたが、それでも不快感は溢れて止まらない。あの光景は的中するというのが、重苦しく自分の中にのしかかってきた。
そう。
タケル君が、一番危ない。
「トヤマさん、お願い、急いで...」
「いや、待って」
「何が!?...ここまで来て引き返すつもりじゃないさね、あんた!?」
「おかしい点があるの」
トヤマさんが、地面のある方向を指さした。
「人と建物がこれだけ跡形もなく消えておいて、血痕ひとつない。それに、どうしてあの部分だけ、煉瓦の床がなくなって、荒地が剥き出しになっているか説明がつかない」
「......え、それって」
「分かったみたいだね、感心だわ。じゃあ解答でもしようか」
あたしの声を遮って、トヤマさんは汗を一筋流しながら言った。
「能力だよ。でもこんなの、測定不能どころじゃない。
まるで異次元のものだ。言ってしまえばこれ、
人間兵器だよ」