ダーク・ファンタジー小説

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.41 )
日時: 2014/11/18 20:08
名前: 利府(リフ) (ID: zc76bp3U)

モモが結局ガスマスクと手袋を守り抜いて無事退院し、
休養の後の2日後、休日。

あたしはチエリ先生からの知らせを受け、再び校舎の前に立っていた。


『サエズリ君からのプレゼントが届いた』


そんな連絡網を回されては、あたしも皆もいくら休日とはいえ学校に来るしかない。
教室には、サエズリ君以外の全員が集っていた。


「あ、センパイこんにちは!バッグ置いてきましょうか?」

え、

何でタケル君いるん?


「えっちょっと待って、クラス間違えてない!?いや…皆は、その…」

「死んだからね。仕方ないよねー、ミコッちゃん」


モモが掃除箱のそばで笑い、トヤマさんもにやにやと笑いながら椅子から立ち上がる。
そのまま教卓へと歩き、一つの紙をばっと広げた。

あの時の、あの集会の演説のように。



「譲渡書。送り主はサエズリケンジ本人、そう゛積眼゛の能力を持ってる
 イサキが認めた、その上タケルがイサキが嘘をついていないか観察した。

 
 間違いなく本人のおふざけだわ。とんっでもない、私らの命を懸けさせる」



トヤマさんがイサキさんをちらりと見る。
イサキさんがこく、と頷いた。



「譲渡されたのは体育倉庫。そこが拠点にもなる、って書いてあるわ。
 体育館も清掃したらしいし、今から確認に向かいましょう。
 職員室でチエリ先生と合流、それから…

 サエズリが戦争のために用意した武器を、見に行くことになるわ」


行きましょ、と続けてトヤマさんは廊下へ歩きだす。
何人かは怯えつつ、そして何人かはかったりーと呟きつつ。

あたしは、タケル君の後に続く。

「あっ、あの…タケル君さぁ、何で嘘とかを見抜けるん?それが疑問なんさね」


「俺、烏ですから…。心の中で輝く嘘とかは、見抜けてしまうんです」

どこか困った顔をして、悲しそうな眼をして。


「でも、嘘か本当か分かりにくい言葉は見抜けません。

 お気持ちだけ、見える気持ちだけ…頂けるんです、だから怖いんです。


 モモセンパイの、あの嘘のような本当のような言葉が」



モモが、トヤマさんに近づく理由。

それは、


彼だけが知るのかもしれない。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.44 )
日時: 2014/12/12 22:42
名前: 利府(リフ) (ID: zc76bp3U)

書き方ちょっと変えます(




かん、こんと規則正しく足音は響く。
タケル君が先陣をきって歩く後ろで、あたしは僅かに恐怖していた。

だってそれもそうだろう、戦争とか武器とか言われてもあたしは何にも理解出来やしない。
トヤマさんのように余裕なんか持てるわけもない、増してや一番に狙われる無能が…

ああも、楽しげに歩けるものだろうか。


「どーした季節?浮かないお顔は幸せも近付かないよー?」

「…モモ、あんたなんでそんなに呑気でいられるん」


モモは少し首を傾げた後、二マリと笑ってこう話した。


「私はミコっちゃんについてく。せっかくできた親友、誰もなくしたくないでしょ」



まるで、はじめて友達が出来たみたいな物言い。

モモはそれ以上話さない、それだけ言ってトヤマさんがいる後列へ歩いていこうとする。

ずるい。
あたしを置いていこうとする。
誰も、あたしの手を引いてくれない。

あたしがここで立ち止まっても、誰も


どうしたの?
早く行こう?


なんて、言ってくれないんだ。





「モモッ、あんたはあたしの友達じゃないん…?」


人生で初めて、泣きそうな声が出た。
今まで耐えてきたものが、こぼれて、きている。

だめ。
質問に答えないで。

だって、あんただけがあたしのよすが、なの。




「季節っていつからジコチューになったわけ?

 私の中にあんたはいないよ」



あ、
あぁ。

終わったような、気がした。

解けていった縁が、とうとう千切れて、いく。



しばらく立ちつくして、合流したモモとトヤマさんが通り過ぎていく。

二人も、みんなも、階段を下りて、見えなくなる。
タケル君もいない。


あたしはあの中にいない。
ここはあたししかいない。

あたしだけ。


掠れた、まってという声だけが何もない空間に響いた。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.45 )
日時: 2014/12/13 23:29
名前: 利府(リフ) (ID: zc76bp3U)

体育館は、何とも言えない静けさがあった。

「センパイ!大丈夫でしたか、サエズリは見てないですよね?」

「見てないよ、あたしは大丈夫だから」


よかったぁ、と胸を撫で下ろしてタケル君は奥にいるトヤマさんのもとへ向かって行った。
他のみんなは何もせず窓の外を眺めていたり、誰かと会話を交わしていたリ。

そんな中で、あたしはステージの横の扉へ向かっていた。


「……」

指ががりり、と木目に線を引く。
喪失感から、一人ぼっちの感覚から。



モモなんて、マツリバさんみたいに焼かれてしまえばいいのに。

焼かれてしまえばいいのに。

焼かれてしまえ。

焼かれろ。


焼けろ。





「ハルミ!?」

びく、と体が震える。
耳元に吐息がかかるほど近くに、いつの間にかトヤマさんが立っていた。


「声とか、聞こえない?さっきモモとガダイがそこに入ってってさ、武器探しに」

「え…いや、聞こえない、さね」


というか、聞こうとすらしていなかった。
1人でいようとしていた。

なんて、孤独だけど孤独じゃない人には言えるわけがない。
あたしは口ごもった。



「姉貴ッ!!!」

体育館に怒号が響き渡る。
全員の目線は、言葉を発したその口へ。



「気配がッ、する!扉の先からッ、真新しい血が、見え……」

タケル君の体が崩れ落ちた。
みんなは動かない。

何かに指示されたように、動かない。


あたしは、駆ける。
衝動に駆られた精神が、足を止めてくれない。

だって、もし。
あんただったら。


あたしが神様から与えられた友達が、なくなる。
それがあたしだけの幻想だったとしても。
生きがい、よすが、あたし。
それが砕けてしまう。


血のにおいが、素人にでもわかるにおいが、する。



「モモ——————ッッ!!」






焦げた何かが、見えたような気がした。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.47 )
日時: 2014/12/16 23:03
名前: 利府(リフ) (ID: zc76bp3U)

冬休みと言ったな?

あ れ は 嘘 だ




「ッあ…」


薄暗い蛍光灯に照らされる放送室の中に、誰もが顔をしかめる死臭が広がっていた。
あたしの喉からか細い悲鳴がひゅ、と鳴り、あたしは思わず口を塞ぐ。

「ハルミ!!単独行動はダメだって……ヴっ!!」


イサキさんの目の視点がぐるぐると回り、彼女もふらふらとよろついたあと、えずいた。

あたしは見れない。うずくまって目も口も鼻も顔も膝にうずめる。凝視も何も、
腐臭だけで無理だ。


「おいタケ、聞こえたか!?叫び声が…」

「ヤシロセンパイっ、待ってください!!分かるでしょ、死体を見たことがない
 人には無理だって…カンザキセンパイと一緒に、ここで待機して下さい」


下の階から話し声がかろうじて聞こえて、足音が私達の耳に響く。


「センパイ!」
「ハルミ!?」

トヤマさんとタケル君だ。


「…あたし、見たくないわ…何が、起きてるんさね」

腐臭の元だけを指差して、あたしは再びうずくまった。



「せ、センパ……」

「……

 ハルミ、言うだけ言っとくわ。
 頸動脈を、マツリバが持ってたあのナイフで切られてる…」


どくん。
脳内を、あの虐殺がよぎる。


塗料のように塗りたくられた血、いや、飛び散った肉塊。

こちらをじろりと眺める眼球。

突き出た骨。


「敵の姿を見たの?」

「見たよ」

「ナイフを握ったまま至近距離で一撃なら、切り裂かれた部分は
 ゛曲線゛状になってるはずなんだよね。
 だけどナイフを遠くから飛ばした、つまりナイフ投擲なら…

 直線状にバッサリ、ブシュ—」

「ふむ、ふむ」

「ふむふむじゃないよ」

「トリビアは求めてないんですよぉ、ていうか何?
 何で弟君、入口塞いでらっしゃるの?」


タケル君が泣きべそをかいて、声の主に言う。


「…だって、そんな、そんな」

「ショックだろーねー、タケルもイサキも?
 こうしてさ、信じたくないことを見せつけられてさ、ねぇ」

くい、と髪を掴まれる。
頭が持ち上げられて、それが見える。


「…モ、モ」


「ごめんねぇ、ハルミ?」



彼女の横には、白目を剥いて無残に床に転がるガダイ君がいた。






……賀台蓮太郎 刺殺


戦犯は、誰だ。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.49 )
日時: 2014/12/23 21:31
名前: 利府(リフ) (ID: zc76bp3U)

「出来るのは私だけ、
 ミコッちゃんも季節も弟君もそう思ってらっしゃるようで?」



モモは笑って、階段を下ろうとする。
無論、タケル君が立ちふさがるその位置で、足は止まるけれど。


「……パイ、センパイ…俺は、どうしたらいいのか分からない、んです」


悲しみや絶望が、ひきつった顔に浮かぶ表情をより圧迫していく。



タケル君はまだ、未熟な少年らしい。

あたしより能力は上だけど、あたしを慕ってくれる子供のようなバケモノの弟。
きっとこの子は知らない。
知られたくもないから、あたしは言わなかった。



あたしに自分から関わる人なんて、あんたとトヤマさんしかいない。


そんな皆にとっては呼吸のような、

当たり前の事実を言いたくなかった。



「センパイ…どうすれば、いいんですか…?」


やめて。


「俺は、戦犯を殺して、いいんですか…」


少し考えれば、分かるはずなのに。


「モモセンパイを…」


そこまで考えるのなら、頭をひねれば、分かることなのに。



「センパイ!!」



あたしは、あたしのためだけに、事実を隠す人だ、って。



『いよっす!やっと反応したな、ハルミ』

『さぁ?季節とガンダムが』

『私と季節、それと』

『季節っていつからジコチューになったわけ?』



季節。
季節。季節。
季節。季節。季節。
季節。季節。季節。季節。季節。季節。



あたしはあんたにとっての何なのか。

その刹那、あたしは考えた。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.50 )
日時: 2015/01/05 10:44
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

それはほんの少しの時間だった。

走馬灯じゃあない、それは脳裏を駆け巡る思い出。


泣いてるあたし。
横にはタケル君。
目の前で立ち尽くすトヤマさん。


それ以外は何もない。
モモはいない。


ここはどこだろう。
フラッシュバックか、それとも。













「ハルミ」


いつもの声が鼓膜を揺らして、あたしの意識はゆっくりと覚醒した。

自分が腰掛けていたのは小さな椅子。


ここは、体育館ではなかった。
窓からは夕焼けが射し、目の前にいる人物の影が大きく見えてくる。

雲一つない、夕焼け小焼け。
カラスが鳴いてる、早く帰れというように。


「ハルミ、私はあんたの友達じゃない。
 でもここじゃあ、私はあんたに関わらないといけない」

「…モモ、あたしは、あんたを」


殺したい。

そう言いたかったけど、無理だ。


「言いたいことはわかるよ、私は処断されるべき存在だ。
 だからどこにもいちゃあならない、でも、

 どんなに私が無実を叫んでも、処刑の二文字はそれをあっさりと切り裂いてしまう」


モモが悲しそうに笑った。
こんなの、いつぶりだろうか。

寧ろ、今までは豪快に憎らしげに笑っていたのに。
不遜に、嘲笑うように。

自分を忘れるように。


「私はいつまであんたのモモであれるかわからない。
 
 もしかしたらこの三秒後にあんたにとっての私は

 悪魔になってるかもしれないし、クズになってるかもしれないんだよ」


「そ、そんなわけ…」



「いい加減認めて。

 ここはあたしだけの空間、
 
 あたしの繊維、

 あたしの迷路。

 あんたがいるべき場所じゃない」


モモが一瞬、笑顔を捨てた。
もう耐えられない、って言いたげな。


「モ…」



名前を呼ぼうとしたその瞬間、
世界が真っ黒に染まる。

夜だ。
獣だらけの夜だ。




さよなら、って。

そんな言葉が反響していた。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.53 )
日時: 2015/07/28 18:24
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

私の意識は呆気なく覚醒した。

「おはよーさんモモ、全くヒヤヒヤさせるもんねぇ」


気がつけばコンクリートの廊下の上、どうもここは体育館ではない。
太陽が輝いている。

ここは、体育館の勝手口辺りにある屋根の下らしい。

「季節は?」
「まだ寝てるよ。他を私が説得して、
 今、あんたとハルミを介抱してるってワケ」

隣には季節の髪が、そのまた隣にはミコトの足。


「ハルミは、私を殺そうとした、の?」

まず、それが聞きたいと思ってた。
私はハルミを何とも思っていないし、そしてうざったらしい粘着質とも思ってない。
だから、私はこの子に何もしてないつもりでいた。

だけど、違うのか。
私は、何を犯してしまったのか。


「落ちてたナイフ拾って、震えもせずにあんたに向けた。
 
 目の焦点は合っちゃいない。
 
 口がポカ———————ン、って空いてたよ」


「それで、私に向かってきた?」


「向かったね。殺してやる!ってね、言ったね」


「で、殺そうとしたの?」



「いや」

「何よぉ、それ。矛盾しまくってるじゃあないの」



こんな会話が続いてると、どうしてか私もミコトも口元が
つり上がってしまうんだよ。

そりゃもう似た者同士。


「ミコト」

「なぁに、珍しいわね?その呼び方」


「私をその時守ってくれたんだから、借りが出来たんですけど」

「無能が借りを返さなくてもいいよ?」


「…あはははは、はっ、

 だからぁ、私はハルミに無関心になれるのよね!」



ハルミの瞼が開くまで、もう少し。
それまでどうか、ガキらしい話をしていいかな?

ねぇ、■■■。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.55 )
日時: 2015/01/21 23:12
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

あたしの意識は再び戻ってきた。

「おはよ、季節」


そして、こいつの行動すべてが、非常識に思えてきた。

人を殺したというのに、モモは何でこんな顔をしている?




ガダイ君でさえも恐怖に押しつぶされていたはずなのに、無表情で事切れていた。
マンガみたいに、死んで涙を流してる、とか、笑いながら死ぬとか、そんな
サスペンスみたいなシチュエーションはなしに。


ただ、犯人は追いつめられた時、笑いだす事がある。
それも違う。

ここまで、犯人は、笑顔を見せない。



「しらばっくれるな、このサイコパス…ッ」


こいつの表情は、それだけしか、口にさせなかった。

嘘が、塗りたくられてるようだった。




「やっ、やめて下さいっ、センパイ!!」


は、と我に返る。
タケル君が、あたしを止めた。


「まだ…あのっ、その。
 可能性が残ってるんです…」

「何のっ、何のよぉ!?
 
 モモがナイフでガダイ君を殺したんだ!!

 
 こいつを殺してよ!戦犯だ!戦犯なんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」



叫んだ。
周りに人がいることを思考に入れず、ただ、絶叫した。

自分の保身だ。
ただの保身、あたしだけ助かってしまえばいいって思ってた。



「センパイ、戦犯じゃないです…モモセンパイは、違います…」








「…ぇ」
 

馬鹿みたいだった。

今のあたしの顔、どうなっちゃってたんだろ。




「目ぇ覚めたの?ハルミ。
 君はやっぱりアレだねぇ、精神が腐れてる…」

トヤマさんが笑って、体育館へひょいと身を乗り出す。



「なら、私達とまた非現実見に行こうか。
 皆待ってるよ?」


ざわつく空気と、体育館の中。



「武器と戦犯が、見つかったみたいだからね」

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.56 )
日時: 2015/01/27 20:08
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

参照1500突破!ありがてぇ!
というわけで書き方変えます(こじ付け)


体育館はざわめいていた。

あの時のデジャヴだろうか、何故か壇上にトヤマさんが立っているような、気がする。
ああ、どれだけあたし、幻覚見てるんだろう。


「おい、こんなのが戦犯なのかよ…?」


これも、幻覚か何かだろうか、と。
ふと思った。

置かれていたのは無機質で、少し汚れが目立つ古いパソコン。
パソコン室で使われてたのとはタイプが違うらしく、それ以前に壊れているのか
誰がどれだけ電源ボタンを押しても、電源が入る気配はなかった。


それから皆がどうしたものかと悩む中、あたしは何にも聞けずにいた。

これが戦犯、ガダイ君の首を切り裂いて殺した張本人なのか、すらも。
どうやら皆はあたしが目覚める前から、ずうっと戦犯探しをしていたらしい。

そう考えていると、何だか自分は足手まといなんじゃないかと思えてきた。


「えっと…イサキさん」

「気にしないでいいと思うよ。
 むしろ、私は何でモモが疑われたのか分からないけどね」

「ど、どうして?」

「後で見直してみたら、ガダイが倒れてた場所から真っ直ぐ北側の壁に、
 ナイフと機械仕掛けの発射装置みたいなものがあったんだ」


それを聞いた瞬間、心のつっかえが取れたような気がした。
ああ、なんだ。
モモがやったとはホントに限られてないんだ。

そうなんだ、と相槌を返そうとしたその時。




『着信メールがあります』

『着信メールがあります』

『着信メールがあります』

『着信メールがあります』

『着信メールがあります』





バイブ音の、輪唱が響いた。




「なっ、何なのこれ、…嫌がらせか何か!?」

「五人一斉に、メール…って、戦犯以外にあり得ないんじゃあないの」

「やっぱそーじゃね?イサキが言うんだからその通りじゃね?」

「いや、違うぞ、こりゃあ…」


「さすがトオルさん勘がよろしい。
 
 これは、電波のルートを辿ってやってきている、戦犯だよおッ!!」



トヤマさんの持っていた゛あの゛ナイフが、埃だらけの液晶に直撃した。
硝子と、はみ出てきた回路がぼろぼろと床に落下していく。


「さぁて、もういるんでしょ、戦犯。
 
 …何の、ご用件?」





ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ。


ノイズ音が、気持ち悪いほどにパソコンの中から響いた。





『こんっにっちわ———。そこのお嬢さん曰く下等種族の皆さん、元気ぃぃぃぃ?』




ガダイ君の顔をした戦犯が、子供のように屈託のない笑顔で
割れた画面の中に佇んでいた。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.57 )
日時: 2015/02/02 19:20
名前: 利府(リフ) (ID: ktFX/uOB)

今回は長丁場だな!(執筆時間1時間)




「…ガダイ?おいお前、俺たちを騙してたのか?
 ったく、大がかりないたずらすんなよなぁ…」


「違います!!」

タケル君がヤシロ君の腕を掴んで止めた瞬間、目にもとまらぬ速さで
プラズマのような一閃が駆け抜けていった。

じじ、と電気が音を立てて、床を焦がす。


「ひ…!」


あたしの喉から悲鳴が漏れた。
突然、ガダイ君と目が合ったからだ。


その目はあんまり直視できなかったけど、異質だった。
あたし達のようなものとは違って、その人物の中身が見えない、濁った目。
まるでロボットのようにその瞳は艶やかで、

これがガダイ君だ、と言い切れる自信は、あたしにはなかった。
寧ろタケル君の言葉に賛同することしか、思考には浮かばない。


「そこの今怯えてる子、…ハルミかな?
 に、会いに来たんだよ。大丈夫、キミに危害は加えない!」

「…な、なんね、それ…」

名指しで指名されて、余計あたしは怯えてしまう。
ましてや危害を加えない、という言葉なんて、信憑性がほぼ0に等しかった。


「トヤマミコトとその弟にも、言いたいことがあるんだ。

 よーく聞いてくれよ?」



息が詰まりそうだ。
何であたしは、こんな事に巻き込まれるんだ。

トヤマさんが、全部やってしまえばいいのに…



「この3日後、今おいらが…ゴホン!
 …あ、いや。こいつ確か、俺って言ってたよね。なりきらないと」



なりきらないと。

その言葉に現実味がなさ過ぎて、あたしの震えは止まることを知らなかった。


イサキさんがあたしの前に立って、がたがたと動く手を両手で包んでくれたけど。
それでも歯ががちがちと鳴るのが、気持ち悪かった。


「で、あんたは3日後に何をするの?」


トヤマさんが静かに続きを促すと、ガダイ君はにやりと笑ってこう言った。



「3日後、今の俺はハルミの家の近くで死んでいるよ。
 『次の標的はハルミ』っていうメッセージをくくりつけて、俺はおいらに戻る。

 そしてその次の日の昼時、おいらはハルミの母親をハルミの前で殺そう!」


ね、いい宣戦布告でしょ?
と。


彼はけらけらと笑う。
狂気的に見下すように笑う。




「じゃあねトヤマ、ハルミ!お返事、待ってるよ」


ざざ、と画面が揺れて、電源は呆気なく切れた。





その後数分間、誰も言葉を発すことは無かった———————————









Second chapter end.

whi,death.