ダーク・ファンタジー小説

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.6 )
日時: 2021/04/15 18:16
名前: 利府@今回は3DSから (ID: Mgo.shQL)

一人の少女が、校舎から転落した。


そう聞けば、誰もが怪我をしたことを予測するであろう。
あの校舎から落ちたのだからひとたまりもない、と。
だが、彼女は。
驚くなかれ、掠り傷すらない。
自慢げにもせず、二本の足で地面に立って耳の後ろを掻いている。

いつの間にか彼女は能力測定靴を履いていたようで
着地した瞬間、電光掲示板に能力名が表示されていた。


『測定不能 能力名“白鳥』

はくちょう、つまり鳥…
彼女は、飛んだのだ。

飛べるはずなのに、わざわざ落ちた。
勿論、鳥なのだからゆっくりと落ちることができる。

彼女は、白鳥。


だが、測定不能、靴がオールレベルと呼んだそれとは、何なのか。
そして、彼女は何故能力を持つのか。
何にも分からないまま、あたしの隣に座っていた女がまず声を上げた。

「モモちゃんはこの子を保健室まで連れてってくれると信じてますよぉ。なぁ、季節?」

こんなに幸せそうに笑う顔など初めて見た。彼女はあたしの唯一の友達、モモなのに。
彼女はあたしと同じ無能、それなのに性格は真反対。唯一、私に親しくしてくれる同級生。
不遜な笑顔を浮かべる彼女は、今まで何を心待ちにしていたのだろう。
この一瞬で、この“衝撃”の到来で、彼女の頭が回りだしたようだった。

「あっ、あの、えっと」
「保健室に行けばいいのね?」

今まで友好的な態度を示しているようには見えなかった少女が、こてんと首をかしげて言った。
周りを見回すと、早く連れて行ってくれという空気しか見えない。あたしの役目のようだ。
こっちです、と彼女を校舎まで先導して歩くなか、みんなはあたしたちを避けて行った。
一つの道ができているのを見て、またあたしは小さいため息をついた。

*****

保健室は無人である。
確か養護の先生は職員室で、新任の先生と今後のイベントで使う用具を作っていると聞いた。
件の少女はソファに優雅に腰かけ、足を組んで扉の近くに立つあたしを睨んでいた。
こっちを見るな、待ってろと言えたもんではない。あたしはそういう、偉くもない無能なのだから。

「あなたがハルミ?」
「はっ、はい!?」
突如名を呼ばれ、肩がびくりと跳ねる。

「フユノギハルミ。フユノギ…か。


 君は私の知っているハルミではないんだね」

ごくりと唾を呑む。
なぜ私の名前を知っているのか。今の言葉に不信感も怪しさも、全てが詰められている気がした。

そんな意味を全く理解できない言葉を呟いて、部外生徒はくすりと笑い声を響かせた。