ダーク・ファンタジー小説

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.7 )
日時: 2016/05/16 15:50
名前: 利府(リフ) (ID: sq.MYJuj)

測定は中断だ。
そう伝えてくれたのは遅れてやってきた養護の先生で、トヤマミコトを
代わりに職員室まで連れて行くというので、自分は一人で教室に戻ることになった。
モモは教室の隅で蹲って居眠りをしており、ユリさんは舌打ちを繰り返しながら
足を組んで椅子に座っていた。あたしは彼女の机の前は通らない、確実にそのまま
蹴りから始まる軽い暴力を受けるからである。

「うっそー何?測定が後日とか…」
「自殺未遂だって…なんか、うちの生徒じゃない奴が飛び下りて」

騒いでいる皆をよそに、あたしはその言葉の真意を理解しないように耳を塞いでいた。
こいつらは心配する言葉も、嬉々とした表情で言っているのだ。信じたりできるものか。
そして、勝手な憶測をしている奴らに言えるものなら言ってやりたい。

あれは、能力だった。お前らよりも圧倒的にレベルの高い、そういうものだった。

「そんなことできるの、カンザキぐらいしかいねーだろ」

それも見当外れだ。地面に亀裂を入れる能力を持つカンザキユリでさえも、
体勢を整えずに落下すれば多少、いや、相当な怪我を負うであろう。
あの高い校舎の屋上から、落下すれば。
あたしの知る範疇では、確実に。

ざわつきを隠すこともないみんなは、あたしが能力を持っているのだったら、友達になれていただろうか。
でもそんなの残酷だろう。そのチャンスはもう諦めたはずなのに。
自分にもみんなにも苛立ってきて、あたしは大きく足音を立てながら教室を出ようとした。

「季節ぅ」
そこで呑気なモモの声が聞こえて、あたしは反射して振り返る。

「どうしたん?」
「負けんなよぉ、あんた」
「…何それ、意味が分からないさね」

彼女だって嫌われているのに、どうしてそんな笑顔を見せられるのだろう。
相手が軽く笑ったのを返事とみなして、後ろの扉を開けて廊下へと出た。少し休みたかったのだ。
廊下も賑わっていて、これじゃどこに行けばいいものか、と少し迷っているうちに、

「ちょっと、すいません」
「へ、へっ?」


また驚いて顔を上げる。

もちろん、目の前の相手はあの少女ではない。髪を結んでいて、まつ毛が短くどこか中性的。
でもよく見れば手は骨張っていて、そういうところに男らしさを感じた。
男子の制服を着た、トヤマミコトとよく似ている少年だ。もしや、出てきたのは同じ腹からか。

「自殺未遂したとか言われてる奴、どっかで見ませんでしたかね?」
「え、さっき…職員室に連れて行かれたと思うさね」


「そうですか、ありがとうございます。センパイ」


え?
疑問を浮かべたときには、軽い足取りで去っていく少年。


彼は何故、私が先輩だと分かったのか。

もう何が何だか分からない。
考えすぎて頭が痛くなってきたが、時計を見て集会の始まる時刻を思いだす。
とりあえず席には着いておこうと、不安の種と疑問を頭の中にしまいこんで教室に戻った。