ダーク・ファンタジー小説

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.99 )
日時: 2015/11/21 17:12
名前: 利府(リフ) (ID: xY9uLQrm)

芹ありがとなぁ

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僕たちは他人同士という関係も時間も忘れて、ずっと話していました。

「これを研究してる相方は取るなよ。いくらお前みたいな将来有望な坊やにも渡す気はないからな」
「そんなに好きなんですか」
「………まぁ、な。今は純粋に好きだ」
「今は?」
「いや、昔はぎすぎすしてたんじゃねェよ。そっから先は話すと長くなるが—————」


そこで突然、彼の話を遮るように、大人数の足音が聞こえました。
僕はその足音の主たちも分からず、彼もまた同じだったのですが。
閉じられていた扉が大きな音を立てて開かれた瞬間、僕は目を見開きました。

「ロビン様、お迎えにまいりました」

気持ちの悪い、敬うような口調で列の先頭に立つ母が話しました。
彼のほうは何も状況を理解できない様子でしたが、僕はその研究員たちが笑みをたたえているのに
本能で恐怖を感じて、自分の服の裾を握って震えていました。

「…血縁者ですか?ここは機密情報が多い部屋ですので、お引き取り願えませんかね」
「その機密情報をこの子が扱えるようになるように、所長がこの子を呼んでいるのです」

彼がぽん、と僕の頭を撫でてから、すっと椅子から降りてしゃがみました。
僕が強い力で握りしめていた服の裾に触れて、ぼそっと「手、緩めろよ」と言うと、
世間でよく見る作り笑顔を見せて母達の元へ向かって行きました。

「御覧の通り、未熟です。もう少し教育されてから、本人の意向を聞くべきでは?」
「その必要はありません。この子は父親からの招集を受けたのです、それでいいでしょう」

「私達が研究しているものがそもそも、幼い子に扱える玩具ではないのです。
 貴方も子を大事にするのなら、所長には話しておきますのでお引き取り下さい」

「なっ…」

母は言葉を詰まらせました。

「子の成長を願ってやるのが親でしょう」
「………」

暫く母は俯いて、歯ぎしりをしました。
僕は彼女がここから立ち去るだけでいい、と考えていたので、やっと呼吸も落ち着いてきていたのです。
彼も余裕の笑みを見せていました。

が、彼女はバッと顔を上げて、歪んだ表情を見せたのです。


「子の成長を願う!?馬鹿らしい、何を自分の中で1年育っただけで見守らなきゃならないのよ!?
 やっと手に入れた…素質ある能力を持つ子供なのよ、これで憎たらしいあの男から
 名誉も何もかも、こいつに奪わせることができるの!あなたもあいつが憎いでしょう!?」

彼は唖然とした顔をしました。
衝撃に耐えられなかったのか彼は全く動かず、僕は涙をぼろぼろとこぼしました。
実の母が、僕を愛をそそぐ価値もない道具として、利用していたのですから。
皆さんでも、泣くでしょう?

母は後ろの集団に何かを命令して、後ろへと下がっていきました。
僕の視界は涙で滲んでいたのですが、辛うじて、彼に向けられた物体が何かは見えて、

ぞっとしました。
叫んだときには、その一丁の銃が彼の頭に向けられていました。


鼓膜を貫くような音と、どさりと倒れる音が僕の耳に届きました。



「……研究員さん!!」
彼が床に倒れているのを見て駆け寄りましたが、その周辺にも銃弾が撃ち込まれて
僕は怖くて彼の容体を確認できませんでした。
大丈夫なのか。このままでは。
母がにたり、と笑っているのに、僕は恐怖を覚えるばかりでした。

しかし、銃声がピタリとやんだ瞬間、彼の息がかすかに聞こえました。

「……坊や…」
「研究員さん、…脈は」

「あるさ。頬に掠り傷。それだけだ、昔から銃に対しての訓練はやり続けてるんだよ、坊や」

すぐさま起き上がった彼の頬には確かに掠り傷がありました。手当てが必要ないくらいの、です。
僕も彼の手首にそっと手を当てましたが、脈は正常、他の傷もありませんでした。
母が恨めしそうな表情をして、彼と僕を睨みつけました。
正直、もう怖くありませんでした。
彼が隣で、両足で立っているというのは、僕にとって唯一無二の安心だったのです。

「増援部隊を用意しろ!この男を殺せ、何としてもだ」

母が後方の列に再び伝達を出し、彼が僕を背に隠して身構えた、その時でした。




「何事だ」



彼と瓜二つの、…否、少し女性用にアレンジされた白衣を着た女性が現れたのは。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.100 )
日時: 2015/12/17 23:51
名前: 利府(リフ) (ID: W3Oyo6TQ)

彼女の足音は、冷静になりつつあった僕の耳にも届いていませんでした。
そして恐らく彼女を確認するまで2秒ほどかかった母と、1秒後に大声を上げた彼にも。

「おい!?状況分かってたんじゃないのか、こっちは何とかするからお前は帰れ」
「状況?理解していないのなら出向くものか。私は貴職が大層騒いでいたから止めに来ただけだ」

「貴職とかまた難しい言葉使いやがって…この坊やでも危険だって事は理解できるんだからよ、
 来んなって言ったからには来んな。女が見る仕事でもやる仕事でもねェ」


とっとと失せて会議に戻れ。と彼が吐き捨てるように言うと、女性は不満そうな顔をして
ぴっ、と真っ白な指を向けました。
それも、僕に。

「なら貴職はどうしてこの小僧を逃がそうとしない。いらん英才教育を仕込むな。
 …今からやることもやられることも、こんなあどけの足らない子供に見せるものではない。」
「で、坊やをどうしろと」

「逃がせ。子供が機密情報を漏らさないよう契約書をそこの母親に後々結ばせる」


その言葉に一番動揺したのは、もちろん母親です。
でも怒りに肩を震わせて、大声で文句を喚き散らしているその様を、僕は母とは認めませんでした。
だから、僕は彼の背中から少しだけ顔を出して、きっぱりと言い放ってやったのです。

「ぼくはあなたが大嫌いです。血縁関係もDNAも、あなたと繋がっている事が信じられない」

母が口を閉じてこちらを恨めしそうに見たので、また僕は彼女の不利になる事を笑って言いました。


「研究員さん、逃がして下さい。僕の家族はここにはいません」


彼が僕の顔を見て「おぉ怖い面」とぼそりと呟いたので、僕は相当えげつない顔をしてたのでしょうが。
瞳孔を見開いて腕を震わせる彼女は、背後に立つ集団にまた何かを伝えると、
心ここに非ずと言った形相で出口へと向かって行きました。
そのまま戻ってくる様子も見えず、僕が小声で「やりましたね」と囁いた一瞬のうちに。

銃弾が、また3発ほど撃ち込まれたのです。
命中したのは床と、彼の白衣の布と、

女性の肩でした。


血が弾けて飛んで、そこからぼたぼたと止まることなく落下して。
女性は崩れ落ちると肩を押さえ、悲痛な声を上げてうずくまりました。
黒髪を振り乱して痛い痛いと叫ぶ彼女に、真っ先に駆け寄ったのは彼です。
その次に僕がいつものように、しかし必死に持っていたハンカチで止血処置を取りました。
もう銃弾は撃ち込まれませんでしたが、出ていったはずの母親がくすくすと微笑んでいました。

「逆らうからこうなるのよ。研究員だからといって何でもできると考えないことね。
 私が今殺せないのはロビン様だけ、あとはどんな死に様晒しても私が知った事じゃないの」

何をいまさら。
先程、僕の事を「こいつ」と呼んだ女が、今度は態度をコロコロと変えていく。

腹立たしかったです。それは、もう言葉にできないぐらいに。


「……痛い…!!」

呻き声を上げる女性は彼に肩を抱かれ、彼女の意識が飛ばないように声を掛けていました。
僕はなんとしてでも二人を守りたくて、二人の前に両手を広げて必死に立ちふさがったのです。
それが良かったのでしょうか、研究員たちは銃を下してうろたえていました。

「何をしてるの!?お前たちの技能なら後ろの同僚共も撃てるでしょ!?」
「し、しかし…これ以上撃てば…彼らが…」
「お前らの都合なんて知らないわよ。さっさと始末して!!」

僕は決死の覚悟で、前方へ走りました。
このままじゃいけないという一心で。
銃が向けられるのがスローモーションで見えて、もう悔いはないと僕は目をつぶったのです。


そこで、ゆらりと、背後の“箱”が蠢きました。

その気配に気付いた彼がなにかを叫んで、箱の入ったフラスコの穴を塞ごうとしました。
しかしその前に箱は飛びだし、異形へと姿を変えて、奇声を部屋中に響かせました。

僕はその奇声で体が崩れ落ち、そのままばったりと倒れました。





次に目を開けたとき、それほど時間はたっていなかったと思いますが。


——母と研究員が、ばらばらにされて床に転がっていたのです。
えぇ。


それはもう、箱の成した技です。


“箱”は、僕たちの前で人を殺しました。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.101 )
日時: 2015/12/19 00:26
名前: 利府(リフ) (ID: W3Oyo6TQ)

まさかの№100に投稿するまで気付かなかった利府さん
BGMはノラガミOPです!賽銭は五円!

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「箱は、僕たちの前で人を殺しました」

ロビンさんの失笑が含まれた言葉は、教室内に大きく衝撃を与えていた。
タケル君が冷や汗を流していて、トヤマさんも自分の事となると
大きく関心を持つのかぎりぎりと歯軋りをしている。
周りのような衝撃より白けた、という感情が大きいようだが。

「ムッカつく物言いするねぇ。私と弟の立場悪くする為に来たの?
 話聞かせてって言って悪いけど、もうそこでやめにして。君らが何をしに来たかだけでいい」

珍しく、うろたえていた。
あたしの目で見ても分かるほど。最近まではトヤマさんの威圧感に押されて
彼女を分析だとかそんな大それたことできない、って思っていたのに。
でも何故自分が分かる?トヤマさんの声がいつもと違っても、表情は変わってはいない。

(…トヤマさんの事は今まで深くは考えられなかった。まるで、シャッターを下ろされたように)

そこまで考えてハッとした。
こんな事今考えたって何にもならない。
実際皆はロビンさんの次に紡ぐ言葉を聞き逃さないため、彼とその弟をじっと見ているのだ。
あたしはただでさえ理解力が遅い。ならば一層別のことなんか考えてられない。

「兄ちゃん、言うべきだと思う。ウソを言ってもマコトを言っても、ダメなときはあるんだ。
 オレ、よく…わかってるよ。でも、今はセイロンをのべたほうがいいさ」

イワン君は悲しそうな表情で兄に語りかけたが、ロビンさんは口を真一文字に結んだままだった。

「兄ちゃん!!」

叫んだ彼の瞳が揺れていて、涙が滲んでいるようにも感じる。
…ロビンさんは弟の顔を見てから少し間をおいて、「そうだね」と軽く微笑んで言った。


「僕と弟には探している人がいます。そう思ったきっかけは別々でしたが、その人はあの所長…
 つまり僕と弟の父親の、隠し子の一人です。まぁ、あの男に正妻はいなかったでしょうが」
「へぇ。分かる限りそいつのプロフィールを吐いて。それだけやって君らは私の味方になる」

そこまでせびるのですか、とロビン君が首を軽く横に振って、あたしたちを見上げて口を開く。



「女性です。日本に生まれて、最近までは平穏に暮らしていたとミス・チエリから聞きました。
 名前は分かりませんでした。ただ、性別以外で言えば、この学校に在籍しているという事と…

 強大な能力を持っていて、今は姿をくらましたという情報しか僕と弟は得られていません」


まず第一に、強い能力を持ったこの学校の女生徒。
次点に、平穏に過ごしていたが、現在は姿を消したという情報。

その条件に当てはまるのは…


「…あの虐殺で、死んだ子の中に含まれているの?」

そうとしか考えられない。
イサキさんもシンザワさんもあたしの言葉に頷いた。
タケル君は唖然として、トヤマさんは何も反応を示さずにただ兄弟の表情だけを見ている。


「そういう事ですよ。彼女がサエズリケンジに殺されたという可能性は限りなく高い。
 しかし、強い能力を持った生徒はこの高等学校でも一握りでしょう。
 だから僕と違って、奇跡を信じているイワンはこう考えたんです。


 『あの虐殺に巻き込まれたとしても、その強大な能力で助かっているかもしれない』と、ね」


そんなことあり得るのか。
あたしはまだまだ幼いだろう脳が必死で考えた、ひとつの可能性に愕然とした。

「……確かに奇跡だな。胸が痛くなるような話だ、そう願いたくなるのも分かるよ。
 しかし、シンザワサソリもトヤマミコトも、私もそのような奇跡に似た話も聞いてはいないんだ」

「ざんねーん兄弟君。この通り有能な仲間も知らない。ならチエリもそんな発想信じないでしょ」


トヤマさんがげらげらと笑っている。それには正直いらついた。
もしも彼女が普通の人間なら食ってかかりたいほど、彼女の言い草は人の命を
自分の髪一本とでも考えているようなものだったのだ。


「ねぇ、タケルも同意見でしょ。私とお前が嫌いなあのババァに教え込まれてたじゃない」
「……」

「どっちを肯定するかも決められない?まだ確証もない話を信じて馬鹿になるの、
 それとも私の腕にしがみつきでもしてずぅっと嘘つきのままでいる?」

「…姉貴、俺は」

「優柔不断は連れていく気はない。お前がそのまま黙るなら、私は私のやりたいことをやるから」


「俺は!!」


タケル君らしくない叫びだ、と真っ先に思った。
今まで彼が声を荒げることはいくつもあったが、それは優柔不断の様ななにか、
迷いが混ざっているどこか弱々しい、強がりの叫びだったのに。

トヤマさんがその叫びに目を見開いたのだから、きっと彼と一番長く過ごしてきた
彼女にとっても驚くべき変化だったのだろう。


彼はほんの少し言葉を切って、もう一度教室内に響く声で叫んだ。

「俺は信じる。……探して見つけ出す。書類の中であっても、生きた姿であっても!
 見つけ出して、二人に会わせてやる。誰も協力なんてしなくていい!!」


怒りがこみ上げてくるのが止められない、と顔に書いてあるようだ。
彼はイワン君を一瞥した後、少し微笑んでから出口へ駆けて豪快にドアを閉めた。


イワン君が「待て!タケ!!」と叫び、その姿を追ってドアを開けても、彼はいなかった。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.102 )
日時: 2016/01/22 23:21
名前: 利府(リフ) (ID: mjEftWS7)

利府帰還。
PCが故障して全然来れなかったんだ。許してくれよ。あとカラ松ガールになったよ。
例のタンクトップ発売おめでとうございます。というわけで、ため込んでいた分の最終戦争!
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ドアを開けたまま、イワン君はしばらく立ち尽くしていた。
風がイワン君の腕と体の隙間を通り抜けて入ってくる。夏らしくない、冷え切った風だった。

「…おい、アンタら、追わないのか?タケが…いなくなっちまったのに」

あたしはただ唖然としていた。
タケル君の正義感にただ圧倒されて、足が暑いのにがくがくと震えていた。
時間が止まったような感覚に陥る。
が、イワン君が流す冷や汗を見て、事の重大さをようやく理解してあたしは一歩前に出た。
…そして手を伸ばす。

それと、イワン君が彼を追って教室を出ていくのが同時だった。


「……あ」

駄目だ。
止まっていてはだめだ。彼は単独行動だってその能力を駆使してでも取る。
今のタケル君の行動で身に染みてわかった。だって、姉弟とはいえ彼とトヤマさんは違う。
どうして彼を止められなかったのだ。少なくともここにいるみんなも彼も、人間のはずだ。
感情が昂れば気が動転する。悲しければ涙を流す。同情だってして、奔走する。
ならば、彼を探して協力すべきだ。タケル君の役にだって立ちたい。だから、行かなくては。

「追うの?」

トヤマさんの剣呑な声に、あたしだけではなくその場の全員が振り返る。
あたしは進めようとした足を止めて、勇気を振り絞って彼女の馬鹿にしたような目を睨んだ。

「追わなくて、どうするんさね」
「さぁ。私は君の思考を理解しようとはしないし、できないからね。単純に私は、追わないけど」

「おい、白鳥。お前それでも人間か?黒幕ぶってるつもりでいるの」

口を開いたのはシンザワさんだった。いらつきを隠せない顔立ちで、余裕そうな顔を見る。

「そんな面構え続けるなら、お前の弟でもあっしらの仕事に巻き込んで、化けの皮剥がしてやろうか」
「シンザワサソリ、よせ」
「あっしには、どうにもお前がサエズリに見えて仕方ない。どうなんだ、なぁ———」
「シンザワサソリ!!」


ぱぁん、と乾いた音がした。
イサキさんがシンザワさんの頬を大きく振りかぶって、平手打ちしたのだ。
トヤマさんはくくくっ、と面白そうに笑って傍にあった椅子に座り、足を組む。
それは密かに仲間割れを楽しむ、黒幕の姿そのものだった。

「…イサキちゃん?」
「行くぞ」
「は?」
「追う。トヤマミコトに構っていても良い知らせが入る事はあり得ないだろう」

ぱちくりと目を瞬かせるシンザワさんの頬をもう一度叩き、「徒歩だ。探すぞ」と
イサキさんが低い声で言ってシンザワさんの襟を掴んで外へと歩いていく。
シンザワさんが納得いかないと訴えるように、足をバタバタさせつつ「痛い!痛いってイサキちゃん!」と
ドアの向こうへとフェードアウトするのを見届けて。

あたしはトヤマさんを見た。

その時のあたしの表情がどう彼女に映ったかはわからなかったが、
彼女は少し間をおいて笑った。
ムッとしてまた睨んでやると、今度は肩を揺らして鼻で笑ってくる。

「どうなの。ハルミ」
「探すって、決めてるさね」
「…そんなにあいつが大事なの?」

何をわかりきったことを。返す返事は、たった一言だった。

「大事な、コウハイさね」


決意は固かった。

できる限りの勇気をもって言った言葉を聞いて、トヤマさんは少し怪訝そうな表情を見せる。
そして、あたしの顔をもう一度見て、素の笑いを見せた。


「…ふっ、そうなんだ。フユノギハルミ、やっぱり君は変わっているわ。
 可哀そうで、一見救いようがない。でも私は、変わり者が好きなのよ。どこかのだれかとは違って」
「…どこかのだれか?」

「その、どこかのだれかに。私とあの愚弟のことを、まず教えてもらいに行きなよ」

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.103 )
日時: 2016/05/18 19:37
名前: 利府(リフ) (ID: L7bcLqD7)

マットゥリダマットゥリダヘイカモン ハッハ!!

ラッタトゥリ パリラ チュリパレル リラッパッパ


(分かる人には分かる)
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イサキとシンザワは学校内で一考する。

「どうする。イサキ、まず目撃から探るしかないよね」
「…どうかな?あの少年の能力、“黒烏”、移動するときには活用するんじゃないか」
「つまり、まず聞きに行くのはあの先生ってことで」
「あぁ。情報を探るためにはまず不可欠だろうね、…行くぞ」

そこから身を翻して進もうとしたイサキの両肩を、シンザワは突然強く掴む。
驚いて振り返ったイサキをそのまま横へ、流れるように移動させてシンザワは言った。

「敵には備えろ。せめてあっしの横に立って、前には出るな」

イサキは一瞬戸惑ったが、シンザワが「ほら」と指した自分の足の傷を見て納得した表情を見せる。
まるでお手をどうぞお姫様じゃないか。昔にもやろうとして、お前が階段から落ちただろう。
昔の話を思い出して、イサキは薄く笑った。

*****


「その、どこかのだれかって。どこにいるんさね」
「まぁすぐ分かるよ。案内してあげるわ、君をそいつに会わせてやりたかったのもある」

ほら、とトヤマさんが右手を差し出した。
蒸し暑い夏はあっという間に戻ってきた。少しは冷静になった頭を働かせて、トヤマさんの動きを見る。
彼女と教室に二人きり、増してやこの人の本性を垣間見たとなればそうすることがまず第一だった。
ここから出て行ってしまえば楽だろうか。だけど、案内すると言ってくれている。
それならついて行くしかない、タケル君を探す手がかりになるなら。そう決めて彼女の手を取った。

「いいわ。根性あるわねぇ、ハルミは。そういうところが君も無能らしくない」

無能無能って、もうすぐ無能をやめれるかもしれないのに。タケル君には否定されたが。
トヤマさんがあたしの手を引いて、窓へと駆け出す。だがここは3階のはずだ。
まさか、飛び降りようとでも言うのか。

「え!…ちょっ、離してトヤマさん!離せさね!!」

当たってほしくないところで能力が当たった。トヤマさんはひょいと窓から飛び、
あたしの手を持ったまま風を切って落ちていく。まずい。死ぬ。
トヤマさんが死ななくてもあたしが死ぬ。

「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
地面が近い。その絶叫の瞬間だった。

彼女の背から、雲と同じく白い羽がばさぁという音を立てて生えてきた。

そのままトヤマさんは羽をはばたかせ、青い空へと舞い上がっていく。
一瞬の間に、あたしの手ではなく体を掴んでいる彼女の腕力が計り知れなかった。

「なに?怖い?いっつも君たちが可愛い可愛いって言ってる鳥がそんなに怖い?」
「怖いっ!!ちゃんと徒歩でいいから連れてってさね!!」
「鳥は徒歩のほうが苦手。人間は飛べない。だから私は気分で両方やる。今日は飛ぶ日なの、おわかり?」
「分からないって!放せぇぇ!いやあぁぁぁぁ!!」

「死ぬよ」
「あっはい」

大人しく彼女にしがみつくことにして、恐る恐る下を見る。
何もかもがおもちゃに見えてくる。ミニカーや、バービー人形。それで遊んだ記憶はないけど。
…なるほどそうか。
彼女からすれば全てが、矮小に見えるのだ。
膨大に広がるそれらがいくつ壊れても、知ったことがないのだ。

(もしあたしが彼女だったら、…どんなことになっていたのだろう)

下へ白い羽が一枚落ちた。そこは山の麓で、整備もなにもされていない荒れ果てた場所。
そこでひらりひらりと舞った羽は、そのまま地に落ちると思って目を背けようとした、その時。

ぐにゃりと歪んだ“何か”が、形状を留めない手で羽を掴み取った。

言葉には出さずに、ただ戦慄する。
それが何なのかが全く分からない。この世に居ていいものではない、とまず思った。

だって、妙に…
——どこかがあたしたち人間と、似ているような気がしたのだ。
その何かが、顔らしきところから大きな口を開ける。
恐怖で目線を反らせないままだったあたしは、そこから漏れるかすかな音を聞き取った。


「……ミコ……ちゃん…………」

ぶるりと背筋が震える。
それから距離が離れていっても、あたしは声も出せないまま縮こまっているだけだった。

名前を呼ばれたトヤマさんに、何も伝えないまま。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.104 )
日時: 2016/04/20 17:34
名前: 利府(リフ) (ID: b1kDOJaF)

「着いたよ。まぁそう長くもない旅お疲れ、少しでも休みなよ」

夏の香りが失せた場所に、夏の日差しに当てられたあたしは降りた。

「…ここ、どこさね」
「どこ、どこってもう能力者のくせにどうして私に頼るのよ。馬鹿?ふっつーに、私の家よ」

トヤマさんの言った言葉は正直信じられなかったが、この、彼女の家系を考えると
このあたしの眼前に広がる風景は、現実であろうことが少しだけ感じられた。
もし旅人が偶然この場所を見つけたとしたら、どれほど感動を抱くだろう。
棘が綺麗に取り去られた薔薇。蝶やミツバチが数匹、花が生い茂る花壇の中で飛んでいる。
頭上に見えたのは風に揺れる木の葉。緑色の、まだ若いと見受けられるものばかり。
遠くに見える濁り一つない池には、薄く色づいた蓮が浮いていて、鏡のような水面の上で揺れていた。
動物の気配はないが、遠くで何とも知れぬ鳥が鳴く声がはっきり聞こえてくる。

そして快晴の下で、その日差しと周辺の包むような美しさを一身に受ける屋敷があった。


「…ここに、誰かいるってこと?」
「そうだよ。君の好きそうな花ぐらい用意してもよかったんだけどねぇ、あの女」
「あの女、って…それが、『どこかのだれか』なんさね?」
「ビンゴ。そう、子供の気遣いもできないババァ」
「ババァって…」

なんて悪評だ。景色に見惚れていたが、トヤマさんはいつも通り過ぎて雰囲気もぶち壊しに等しい。
この対比が素晴らしいという人間はそういないと思うが、とにかくこの落差は素晴らしく酷かった。
お先へどうぞと促すように背を押してきた彼女の指は白く、振り向いたとき一瞬見えた表情は
すこし笑顔のようで、どこか教会にいるマリアとまではいかなくても
お祈りをしにきた無垢な子供に近く見えた。

足を進めていくと、想像したよりはまだ柔らかいがやはり壮観な門が現れた。
トヤマさんは「チャイムは君が押して」と言って、あたしの肩をぽんぽんと叩いた。
門と比べて豆粒のように小さいボタンを押すと、小さい音が門の隙間から微かに漏れてくる。足音か。
誰が出てくるのかと、表情を強張らせながら家主を待つ。

「……どちらさまでしょうか」

瞬間、あたしの喉から驚嘆の声が出た。
まさか。まさかまさか、この声は。いや、そんなわけは。
いや、そんなことがあったら、…でも、それならトヤマさんがあたしを家に連れてきたわけも…あれ?
だけど、この声は確かに…——

「タケル君?」

いるはずはないと思っていた。だが、教室を飛び出した直後に、家に帰ったとなれば…

「ねぇ、返事して!タケル君、みんな君を探してたんよ!?あたしも!」
「…お帰りください」
「帰れないさね!!君がここから出てくるまで!だから開けて!君がいないと…」
「俺は皆さんに関係ないでしょ。だからもう、帰ってください」
「タケル君!!」

押し問答が続くだけだ。駄目だ、せめて扉だけでも開けてくれはしないのか。
彼の目を見て話せれば、かける言葉も見つかるかもしれないのに。どうすればいいのだ。
らちがあかない、と頭の中で思い、今度は開けて開けてと叫びながら門を叩く作戦に出る。
相手の反応はなくなった。それでも、それでも、門を叩き続ける。

「話だけでも聞いて!お願い、返事してさね!」
「……」
「タケル君、何とか言ってよ!」
「……お嬢さん」
「タケルく…」

ふと、トヤマさんのものとは違う声が聞こえた。無言であたしの後ろに立つ
彼女よりも少し、子供のようで大人びたよく分からない声色だった。

「…誰?」

今の、「お嬢さん」の声の主は明らかにタケル君ではない。
じゃあ、誰なのだ。

がちゃん、と門が開き、ぎいという重い音と共に現れた人影は。


「触らぬ神に祟りなしって言うけどね、ミコト。お前、タケルとは違った意味でクズ子息よ?」


あたしと背が一緒ぐらいの、片頬に花の入れ墨が彫られた綺麗な少女だった。

Re: ぼくらときみのさいしゅうせんそう ( No.105 )
日時: 2017/03/19 10:11
名前: 利府(リフ) (ID: TkB1Kk0e)

お待たせしました
トヤマ家の一族どうなるのかしら。タケル君は今頃スケキヨしてるとかそんな怖いこと言わないの!
あと笑顔百科の「謎の一覧」の記事の掲示板に予想通り謎の人の動画貼られてたんだ
また現在進行形でツボりながら書くよ!

*****


イサキとシンザワがチエリを2階の窓際で見つけたのは、二人が行き先を職員室に固めてからだった。
こちらを向かない彼女を、シンザワが「せんせー」と小突いた瞬間、チエリはびくっと体を跳ねさせた。
ロボットのようにゆっくり現代顔の市松のような顔がこちらを向く。
どうやら二人が近付いてくるのにも気付かなかったらしく、少し目を回していた。

「え、えっとね!えっとね…こ、これは!たそがれという、精神統一!」

チエリが「やる気出たぞー!仕事、仕事!」とスキップして職員室に向かうのだが、
左足のつまさきが床につっかかってちょうど腹から転んだ。チエリの喉からぐえっという声が漏れる。
びったーん、とかそういう擬音がつくような転び方を目にしたイサキは、
いつものノートを取り出してさらさらとメモを取った。

「公務員の弱味は取っておくべきだろ、なぁシンザワサソリ」
「サボり紛いの行為、プラス慣れないスキップでずっこけとかないよねー奥方」
「まっ、待って!待って!私に用があったんだよね!調べたいことあるなら何でも教えるから!」
「言われずとも調べてやろーと思ってるんだよ、あっしら」
「えっ…ひどいなぁ、じゃ、じゃあ、職員室入っていいよ…」

少々涙目のチエリに続いて二人が職員室に入ると、窓を閉め切っていたからか相当中は冷え切っていた。
それでも熱い空間から涼しい場所に入ると人というものは安心するらしく、
机に寄りかかってほうと一息つくシンザワの足を蹴ってイサキはチエリの使うスペースへ向かう。

「それで、それで、二人とも。調べたいことが、あるんだよね?」
「あぁ。先生がまずそれを理解していただければ問題はない」
「まかせて。私も、私も、みんなの力になるなら、何だってやる勇気があるよ。教師だから」

チエリの机の上にはA3サイズの紙もすっぽり入りそうなファイルが置いてあり、
そこから何枚かの紙がちろりと姿を見せていた。調べてから入れ直した、ということだろう。
実際、職員室の金庫ががら空きで、そこは書類を置いていた場所だったのだろうとイサキは冷静に推理する。

「多分この紙、生徒全員の経歴とプロフィールだよな。んで、調べんの。イサキ」
「この位の量なら休日の腹ごなし程度にはやるさ。探偵を舐めるなよ、助手」
「なにそれ。まぁいいや、どいてな先生。あっしのいらない仕事だ」

シンザワがチエリを机から離し、そのままイサキに向けてサムズアップする。ゴーサインだ。

「調査を始める」

イサキは抑揚のない声でそう告げ、次の瞬間ファイルを上に掲げてばっと開いた。

すっと落ちてきた紙をイサキは無表情で取り、整った状態で積み重なっていた書類を
目にもとまらぬ速さで、チエリの小さな机の上に一枚一枚と積み上げていく。
彼女の目線はどちらかといえばその書類に書かれた文ではなく、書類そのものに向いている。
これで内容が分かるものか?とチエリが疑いの表情を見せる中、シンザワはにっこりと笑って呟いた。

「内容も重要だけど、まー書類の管理の下手くそさは見抜くんだよ、うちの探偵。
 イサキの血筋は正直才能から成ってる。あっしじゃあ届かないことは確かだ。

 ほら、残り10枚程度」

——5、4、3、2、1、0。


その時間2分少しほど。
イサキは最後の一枚を置いてからふうっと長い息を吐き、目を閉じた。

そのまま3秒ほど間を置いて、夢から覚めたようにぱっと瞼を上げる。


「全校生徒の数と比べてみたが、1枚足りない。能力や経歴についてはすべて把握したよ」
「そっか、お疲れ。じゃ、あとはこっちで捜索するから。じゃーね、先生」

「えっ…!?まっ、待って!待って!本当にわかったの?ねぇ…」

書類をまたファイルに入れて、イサキとシンザワは一仕事終えたというような表情で去っていく。
チエリも驚嘆の声を上げつつ彼女らを追うが、シンザワによってぴしゃんという
軽い音とともに扉を閉められ、その足は止まってしまった。

「…はぁ」

しょんぼりとしながらチエリは自分の机に置かれた書類を横目で見る。
まさか、そんなことあるはずないだろうけど。軽い面持ちで、苦笑いしつつチエリは
書類を一枚、一枚とイサキには遠く及ばぬスピードで自分の机に並べていった。

——一時間後、確かに全校生徒の分から書類が1つだけ足りないことに
気付いたチエリは床にへたり込み、また大きなため息をついた。