ダーク・ファンタジー小説
- (1)序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の二 ( No.2 )
- 日時: 2012/06/11 00:02
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/2/
——クラトリア山脈、某所。
森林の中にトラックが一台停車していた。
それに颯爽と乗り乗り込もうとする二つの人影。
一人は無造作に伸びた黒髪黒眼の女々しい顔立ちの少年。
もう一人は綺麗にセットされた茶髪紺眼の凛々しい顔立ちの少年。
その二人は汚らしい作業衣を身に纏い。黒髪の少年はその作業衣と同セットである薄汚れた帽子をしっかりと被り。茶髪の少年は折角セットした髪が乱れるのを嫌い、帽子を被らず車内に放り捨てる。
そして、運転席に座った茶髪の少年がトラックのエンジンを掛け。それに呼応するように排気口から汚らしい黒いガスが噴出された。
「——よし、ミッションスタート」
茶髪の少年がそう口ずさみながらアクセルを躊躇う事無く、思いっきり踏み込む。
【ギュルルル!】
と、雪に足を取られながらも難なくトラックが発進した。
この貨物トラックは現在とある建物に向かっていた。
それは先ほど。クラリスが邪魔立てしたトラックが向かおうとしていた、あの施設である。
その施設では武装集団に密売するための銃火器などを秘密裏に生産されているようで、情報を聞きつけた彼らはそれを潰しにトラックの運転手に偽装して、施設に侵入しようとしているのだ。
「——アリス。変化はないか?」
トラックを運転しながら茶髪の少年は唐突に独り言のように誰かに投げかける。
〈——ええ、ないわ〉
突飛な投げかけに応じた「アリス」と、呼ばれた少女の声は少し高圧的なモノだった。
この声も通信機器などを介して聞こえるモノではなく、茶髪の少年と助手席に座っている黒髪の少年の頭の中に直接流れ込んでいた。
アリスは現在、彼らが向かう施設周辺を見張っており。妙な動きがあれば、逐一彼らに報告する伝言然り見張り役を担っている。
しかし、見張り伝言役と言っても施設周辺から状況を見つめている訳ではなかった。
その施設から数十キロほど離れた「クラン」と呼ばれる小さな農村にある宿舎から特殊なメガネを介して、眺めているのだ。
そのメガネを使用すると。脳内に想い描くだけでどこにいようがこの世界「エミリア」の様々な地形データや国際情勢などの情報を瞬時にレンズに映し出しくれ。その上、天高く舞う監視衛星から得られるリアルタイムの情報まで把握する事が出来る。
——ただ、監視衛星からの情報収集はアリスならではの方法で、ほとんど犯罪そのモノであり裏技のようなものだった。
そのため、彼女が仕入れる情報は独自に持つデータバンクに接続して得るモノが多く。裏取りなどの地道な作業で蓄えた情報もほぼ正確である。
そんなアリスが導く情報通りの道のりを従順に、茶髪の少年はトラックを躊躇う事無くかっ飛ばす。
森林の中を走るトラックが自ずと大きく揺れる。走行している林道が少し荒れているせいで、車内の彼らも慌ただしく身体が上下左右に揺さぶられた。
シートベルトをしていなければ、打撲のオンパレードである。
しかし、そんな絶叫マシンにも似た状態はすぐに収まり、悪路がかった林道から小奇麗に舗装された雪道に飛び出ると。彼らの前方数百メートル辺りに目的地である例の施設が目視出来た。
山間に作られた物々しい施設から伸びる数本の煙突からは、灰色の煙が「モクモク」と出ずっぱりで、折角の雪山の大自然が台無し。風情が損なわれている。
しばらくして、施設に到着した彼らは、敷地に入るすんでの所にあった検問所で身分証明やらの手続きを済ませ。侵入に成功した。
適当に止めたトラックの中で茶髪の少年と黒髪の少年の二人は小さく息を吐く。