ダーク・ファンタジー小説

(2)序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の二 ( No.3 )
日時: 2012/06/11 13:58
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/2/

 「——準備はいいか? ユウ」

 茶髪の少年が助手席に座る黒髪の少年にそう投げかける。
 その投げかけに「ユウ」と、呼ばれた黒髪の少年は小さく頷き返すと、茶髪の少年も同様に頷く。

 「——クラリス、アリス、ミュリア。そっちも準備はいいか?」

 独り言のように茶髪の少年が誰かに投げかけると、

 《……うん、大丈夫》
 〈ええ、こっちもOKよ〉
 [私もいつでも行けますわ]

 クラリス、アリス。そして、最後の「ミュリア」と、呼ばれた丁寧口調の少女もいつでも行けると力強く返答する。と、茶髪の少年と黒髪の少年ユウは意気揚々とトラックから飛び出した。
 敷地内には検問所にいた数名の警備員以外に監視員らしき人物の姿はなく。ほかに目ぼしいモノと言っても倉庫や「自動人形」たちが徘徊している程度で。

 ——ここまではアリスの情報通り……。

 ただ、やっかいなのは「自動人形(じどうにんぎょう)」と呼ばれる者たちである。
 自動人形は機械仕掛けの人型で、見た目は人間と遜色ない造りなのだが。感情など存在しなく。敵と見なした者には容赦なく自らの身体に保有する銃火器などで迎撃する。
 キリリングマシンのような彼らではあるが、本来の役目は人間の補佐的存在で一部の人間たちによって改造された憐れな人形たちでもあった。

 しかし、今は憐れんでいる暇も無く。出来るだけ彼らと交戦しないよう建物の影などに身を潜めながら、一際目立つ大きな施設を目指す二人だったが……少し難航していた。
 その施設周辺には自動人形たちが隊列を組んで、徘徊しており。行く手を阻んでいたのだ。
 「ふぅ〜」と、二人は息を吐く。彼らの吐いた白い息が空気中に虚しく分散する……。

 「——頼んだ。ミュリア……」

 茶髪の少年がミュリアにそう合図を送ると、

 [了解しましたわ。トウヤ]

 「トウヤ」と、呼んだ。茶髪の少年に静かに返答した。
 そして、トウヤとユウは互いに目配せしながら、突然あるモノに手を伸ばす。
 トウヤは両耳に付けた橙色の宝石が煌めくピアスに。ユウは首に付けた金色の宝石が煌めくネックレスに。各々、念じるようにアクセサリーに触れる。

 すると、二人の宝石が輝き出し。光を帯びながら、彼らの手中に何かが収まった。
 それを手に持ちながらトウヤとユウは隊列崩さずに徘徊している自動人形たちの群れに突っ走って行く。
 彼らの存在に気付いた自動人形たちはすぐさま臨戦態勢に入り、ある者は大口を開いて口内に装着された銃口を向け。ある者は腕を切り味鋭い電動カッターに。各々に備え付けられている武器を二人に向ける。

 『——侵入者ヲ直チニ排除スル』

 口裏合わせたように自動人形たちが同じ言葉を何度も述べ、トウヤとユウを迎え撃たんと陣形を組み始める。
 遠距離攻撃が可能な自動人形たちは後方に、後の自動人形たちは前衛に回って、彼らに攻め入った。
 お手本通りの綺麗な陣形を取った自動人形たちに、トウヤとユウは「ニヤリ」と、不敵な笑みを溢し、そのまま前衛部隊に突っ込む。

 第一陣の前衛部隊の群れにトウヤは両手に持つ、天使と悪魔の翼をモチーフにした神々しい双剣で立ち向かい。ユウは左手に持つ刀と、右手に持つ拳銃を交互に手慣れたように扱い。二人は何かを競い合うように次々と自動人形たちを薙ぎ払って行く。
 トウヤの華麗な双剣さばき、ユウのトリッキーな銃剣さばきに前衛部隊は翻弄される。
 だが、後衛部隊が着々と彼らの動きに焦点を合わせに行き……そして、第一陣の前衛部隊ごと葬り去らんと一斉射撃を実行。

 【バン! バン!】

 と、激しく鳴りつける銃声と共に硝煙弾雨の如し無数の弾幕が交戦する彼らに襲いかかった。
 それに気付いたトウヤとユウはつばぜり合いをし。相対していた自動人形を蹴り飛ばして、距離を取り。第一陣の前衛部隊の後方から迫り来る弾幕を見据えて不敵に微笑んだ。
 傍から見れば、避けようもない無数の弾幕に呆れ果てて笑みを溢したように見受けられる。しかし、それはただの余裕の表れだった……。

 彼らは弾幕を見据えた後に、突然天を仰ぎ見る。
 そこには何もない澄んだ青空があるのみ。だが、その上空から肉眼では視認出来ない何かが、物凄いスピードでトウヤたちがいる周辺に到着しようとしていた。

 [——悠久の五月雨(エターナルアローレイン)]

 トウヤたちの頭の中で囁かれた、ミュリアの美声……。
 その言葉と共に自動人形たちの周辺に突如と降り注いだ光を帯びた無数の矢の雨。
 光を帯びた矢は一種の流星群にも似た様相で自動人形たちの群れに向かって滞りなく降り注ぎ。射貫き、えぐられた自動人形たちは中枢機関たる心臓部をさらけだし。次々と倒れ伏せる。

 が、まだ後衛部隊が放った弾丸が残っていた。
 運良く矢の雨を掻い潜って相殺せずに残ったモノがトウヤたちに向かっており、それに気付いたユウは嘆息を吐く。

 「——おい、エセセレブ。しっかり狙えよ……」

 面倒臭そうに頭を掻きながらユウがミュリアに苦言を呈する。

 [……アナタはホント、口が悪いですわね……]
 「はいはい。言い争いは後々……。ユウ、少し下がってくれ」

 呆れながら仲裁に入ったトウヤはユウを後方に遠ざける。
 ミュリアが放った矢である程度は相殺され減ったとは言え、かなりの量の弾丸が彼らに襲いかからんと迫って来る。それをトウヤは一人で立ち向かう。
 「ふぅ〜」と、小さく息を吐いたトウヤは再びピアスに触れると、

 「——夢幻剣舞(むげんけんぶ)」

 念じるようにそう唱え。ピアスが輝きだすと、トウヤが手に持つ双剣がゆらゆらと蜃気楼のようにモヤがかり。それを唐突に迫り来る弾丸の群れに向けて放り投げた。
 唯一の武器を放り投げ、丸腰になったトウヤは放り投げた双剣の後を追うように突然走り出す。
 わざわざ被弾しに突っ込んでいるようなモノだが、トウヤの表情は至って真剣なモノで、前方を見配せする。

 「残り弾数を確認——ざっと、数十発は堅いな」

 と、トウヤは目測し「ニヤリ」と、不敵な笑みを漏らした瞬間。先ほど放り投げた双剣が一つの弾丸に命中し。
 さらにその双剣が分裂して、四本の剣となって現れた。
 その中から適当にトウヤが手に持つと、残りの弾丸を斬り伏せようと残った剣を足場に跳躍する。
 手近な所から弾丸を斬り伏せ、その度にトウヤが武器として使用した剣が二本、四本と増えて行き。それらを足場にしながらトウヤは次々と弾丸を斬り伏せて行く。

 彼が持つ、天使と悪魔の翼をモチーフにした神々しい双剣のように彼自身にも翼があるように軽やかに宙を舞って魅せ。
 最後の弾丸を斬り伏せた所で、トウヤは「パチン」とキザに指を鳴らした。
 その合図と共に分裂し、そこら中に散乱していた双剣たちが元あった場所へと。彼が身に付けているピアスに光を帯びた粒子状となって綺麗に収束した……。

 「……ふぅ〜、こんなものだろ」

 軽く額を拭いながらユウの元へ歩み寄って行くトウヤの表情は涼しげなモノだった。

 [お見事ですわ]
 「さすが、トウヤ」
 「そんな事無いさ。ミュリア、ナイスアシスト」
 [褒めても何も出ませんわよ]

 本来の作戦では、トウヤたちが自動人形たちを引きつけている間。
 ミュリアが彼らの放った弾丸ごと全てを射貫くはずだったのだが、上手くいかず。
 結局、トウヤが対処する形となった。
 しかし、それでもトウヤはミュリアの事を褒め称えた。
 それはリーダーとしての役目でもあるが、一番の要因はミュリアが矢を放った場所の事を考慮してだ。

 彼女もまたアリス同様に施設から数十キロほど離れた「クラン村」の広場で待機しており、そこから超後方射撃による援護を任されていたのだ。
 座標位置ならびに風向きなども全てアリスが導きだした演算結果通りで、その指示に従ってミュリアは正確に矢を射る事が出来る。後方支援同士の息の合った援護である。

 〈——はいはい。駄弁ってる暇はないわよ〜。今の騒動で検問所の奴らがそっちに向かってるから、さっさと働け〜。馬鹿共〜〉

 なかなかその場から動こうとしないトウヤたちにアリスは淡々とした調子で苦言を呈する。

 「はいはい、アリスたんのお心のままに……」
 「……トウヤ、それ……キモイぞ」
 「ほっとけ!」
 《……トウヤ、臭い……》
 「おいおい、姫っち……。それは幾らなんでも俺……泣くぞ」
 [ふふふ、それでこそトウヤですわ]
 「……俺、皆からどんな目で見られてんの?」
 『我らのリーダー様〜』
 「感情こもってねぇ〜ぞ、お前ら……」

 「はぁ〜」と、トウヤは大きく嘆息を吐きつつ。ユウと共に目的地である施設内部に侵入した……。