ダーク・ファンタジー小説
- (1)序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の三 ( No.4 )
- 日時: 2012/06/11 14:01
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/3/
——施設内部。
自動ドアが開いた先には、広々とした吹き抜けのエントランスが待ち構えていた。
白を基調にした内装は掃除が行き届いているのか、シミやらホコリなど一切なく。新築当然の様相で、観葉植物たちも小奇麗に並べられていた。
ただ、重要施設らしい厳重なセキュリティーなどの施しが一切感じられず。唯一と言えば、外にいた自動人形ぐらいで。内部は、静寂に包まれていた。
その件についてトウヤは不審に思った。
——幾らなんでも手薄過ぎる、と……。
——これは好機と取るかそれとも……。
と、悩むトウヤはアリスに意見を仰ぐ事にした。
すると、
〈む〜、アタシのサーチでも分からないわ。言える事はただ一つ……気を付けなさい〉
「……ダメじゃん」
ただのアドバイスと言う返答に嘆息交じりにユウはぼやく。
〈このアタシが自ら気を付けなさいと、言ってあげてるのよ。感謝しなさい〉
開き直りとも取れるいつもながらの高圧的な態度にトウヤたちは頭を掻きながら、アリスのアドバイス通りに気を付けながら先に進む事にした。
アリスからの指示通りの進路を進みながら、ふとトウヤたちはある事に気付く。
「バリボリ」と、何か硬いモノを頬張っている音が自分たち頭の中に流れている事を……。
「もしかして……」と、思いながらトウヤが開口一番に、
「……アリス。レニーさん家のクッキー美味いかい?」
緊張感の欠片も無い言葉を淡々と口走った。
〈ええ、それが何か?〉
悪怯れる様子も無く、それがあたかも当たり前かのようなアリスの対応にトウヤたちは頭を抱えた。
自分たちは任務遂行のため、人里離れた辺境の地に赴いていると言うのに。我らが参謀さまはお気楽にお菓子を食べると言う暴挙に出たからだ。
それにアリスが待機している場所と彼女の性格を考慮してみると……。絶対ベットの上で横になりながら過ごしている事だろうと踏み。トウヤたちは「はぁ〜」と、呆れ果ててしまった。
ちなみにレニーさん家のクッキーとは「クラン村」の物産店にお土産として売られている。質素な味わいがウリのそこそこ人気商品である。
「……だから、まな板なんだよ……」
しれっと、ユウが口ずさんだ言葉にトウヤが表情を歪める。
それはご法度だと表情から滲み出る程に顔が引きずっていた。
〈……〉
案の定、ユウの発言が気に障ったのかアリスからの返答はなかった。
ただ、何かを感じ取ったユウが唐突に身体を震わせる。
《……ユウ、それ違うよ》
ふと、クラリスがアリスの弁護に回ったのか、そんな言葉を呟く。
そして、続けざまに、
《ア—たんは、まな板じゃなくて小皿》
淡々と述べられた言葉にはユウのように悪意は感じられなかった。が、善意も感じられなかった。ただただ、アリスの身体的特徴の吐露、暴露をしたに過ぎなかった。
彼女の爆弾発言に、
〈く、く、く、く——クラリスの馬鹿っ!!!!〉
「プツン」と、アリスとの間に交信が途切れてしまい。リーダーであるトウヤは気苦労絶えないとばかりに大きく嘆息を吐いた。
「……クラリスがトドメを刺したから、アリスとのテレパスが切れちゃったじゃねぇかよ」
自分から言い出した事だと言うのに、全ての罪をクラリスに押しつけ始めるユウにクラリスは、
《……え?》
と、何事も無かったように淡々とした口調で疑問符を投げかけた。
「……ミュリア、アリスの事を頼んだ」
[……ええ、分かりましたわ]
お馬鹿二人を華麗にスルーしたトウヤはミュリアにアリスのフォローに回ってもらう事にし。お馬鹿コンビの片割れ、ユウを引き連れながら施設内部の探索を再開した。
進んでも、進んでも。見える景色は同じで、内部の情報を知らなければ容易に迷子になれるほどに構造が同じだった……。
等間隔に側面および通路に「←B A→」の指示表記があり。進めばBエリア、戻ればAエリアと区間分けの標識だけがある通路で、扉や窓なんてモノは一切なかった。
——ただ、一つ言える事はあった。
奥に進むほど、先ほどまで聞こえていなかった。物音が鮮明に彼らの耳に届いていた。
——密造武器の生産ライン支える機械音なのだろうか……。
そんな考えを抱きながら二人はその音に耳を澄ませ、注意を払って足を進めて行く。
すると、
「パン! パン!」
乾いた銃声が唐突に鳴り響き。トウヤたちは仕舞っていた武器を再び顕現させんと、身に付けるアクセサリーに手を伸ばし、武器を出現させた。
それを持って、小走りで通路を進み。前方に広場が見えた所で、そこの状況を覗き見ようと二人は息を殺しながら物陰から目をやった。
その広場には銀色の装飾が眩しい二丁拳銃を持って、華麗に宙を舞い。銀髪をなびかせながら自動人形&人間と交戦しているクラリスの姿があった。
汗一つ掻く事無く。眉一つ動かす事無く。淡々と事に当たっているクラリスだが、口元が少し緩み、微笑んでいるように見受けられた。
最後の一人を撃ち抜いたクラリスは、何事も無かったように「クルリ」と、トウヤたちが隠れている物陰に振り向き、徐に銃口を向ける。
「……誰?」
静かに投げかけたクラリスの言葉にトウヤたちは、息を吐く。
そして、二人は姿を現した。
「クラ——っ!!!!」
トウヤたちが姿を現し、言葉を投げかけようとした瞬間!
クラリスは躊躇う事無く発砲した。
「パン! パン!」
と、二発の銃声と共に放たれた弾丸はそれぞれトウヤの右頬、ユウの左脇をかすめ。弾丸は彼らの後方にあった壁に着弾した。
撃ってから彼らの存在に気付いたクラリスは口を開き、
「……手が滑った……」
淡々とそう口走った。
「……姫っち、手が滑ったで丸く収まると思ってないかい?」
少し額に汗を滲ませたトウヤが誤射したクラリスに苦言を呈するが、当の本人は小首を傾げて不思議そうな表情を浮かべていた。
その反応にトウヤは額の汗を拭うように額を押える。
「ダメだ、こりゃ……」と、言う嘆きが聞こえて来そうなほどに途方に暮れるトウヤ。
「……キリリングマシンさながらだな」
クラリスの姿を見て、率直な感想を述べたユウの言葉にトウヤが、
「だな〜。——っ!!!!」
と、頷いていると。クラリスがまた彼らに向かって発砲し。トウヤは冷や汗ダラダラと流して、フリーズしてしまう。
ただ、彼女が放った二発の弾丸はいずれもトウヤの両頬をかすめながら後方の壁に再び着弾した。