ダーク・ファンタジー小説

(2)序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の三 ( No.5 )
日時: 2012/06/11 14:08
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/3/

 「……チッ」
 「今、舌打ちした!? てか、何で俺だけ?!」
 「今の所、否定するとこ……。だから、撃った……」
 「いやいやいや! だったら、こっちの少年が一番悪いでしょうよ!」

 声を荒上げながら、トウヤはある人物を指さす。その人物は素知らぬ顔をして、今自分たちがいるフロア内を見渡していた。

 「ざっと、数人か……」と、ユウは口ずさむ。

 クラリスが相対していた人物たちの詳細を探っていたユウはその中に自動人形じゃなく人間がどれぐらい混ざっていたのかを数えていたのだ。

 「……どうする? ジェム潰しとくか?」

 淡々とした口調でユウは血を流して倒れ伏せている白衣の人物が身に付けていたブレスレットに銃口を向ける。
 その人物のブレスレットにはトウヤたちが持っているモノとは色違いではあるが、白色の宝石が装飾されていた。

 「……まぁ〜大丈夫だろ。奴さんたちが目覚める頃には全て終わってるだろうからな。てか、クラリス。ここに着くの……早くないか?」
 「二人が遅いだけ。それと何で、わざわざ正面から入って来たの?」
 「正面以外に入り口なんてなかったと思うが?」

 このトウヤの投げかけにクラリスは自分の後方を指さす。その指先を目で追ったトウヤはあるモノに気付き、呆然とした。
 彼女が指さした先にはとある一室があった。
 だが、その部屋は見るも無残に破壊されており。コンクリート破片などが飛び散り、外界との出入りが容易に出来るようにリフォームされていた。

 その風通しが良くなった部屋の光景に堪らずトウヤはクラリスにジェスチャーと目で訴えかける。
 それに気付いたクラリスは小首を傾げながら、

 「……勝手に開いた……」

 涼しげにそう返した。

 「壁は勝手に開くモノじゃありません!」
 「……小姑みたい」
 「クラリス——その言い分はどうかと思うぞ。小姑には小姑の譲れないモノがあってだな……それで姑との抗争が毎日絶えないだけなんだよ。本来ならどっちか大人になって歩み寄りせにゃならんと言うのに……」

 彼女が何気なく口ずさんだ言葉に反応したユウが意味不明な事を話し出し。

 「だけど、私はメリーさんを推すよ」

 クラリスもそれに応戦する。

 「ふむ、俺はあくまで中立だが……サリーさんを応援する事にする」
 「……何の話してんの? お宅ら……」

 意味不明な会話にどう対処してよいか分からず、呆れながらぼやくトウヤ。

 ユウとクラリスの少しアレな二人は前日「クラン村」で流行っていた「メリーさんVSサリーさん」と言う嫁小姑の熾烈な抗争を描いたドラマを見ていた。
 ちょうど、最終回に向けての一挙放送をやっており、それを暇潰しがてら二人は雁首揃えて視聴していたのだが、今ではすっかり感化されてしまっている。

 ちなみにロケ場所が「クラン村」らしく、村民たちには馴染み深い名所などが出ており地域密着系のドラマである。
 それとレニーさん家のクッキーもこのドラマから生まれた産物で、地方活性化に一躍買っているようだ。

 「……はぁ〜。そろそろ仕事を遂行しよう、二人とも」

 未だにメリーさん推しのクラリスとサリーさん推しのユウが口論しており、それを傍観していたトウヤが痺れを切らし。悩ましげな表情を浮かべながら仕事をするように二人に促す。
 しかし、二人は聞く耳持たず。ジェスチャーを用いりながらお互いに推す人物について熱弁していた。

 「はぁ〜」と、トウヤは額を押えて大きく嘆息を吐く。

 〈——ゴホン! ユウ、クラリス。アンタたちにこれだけは言っておくわよ!〉

 トウヤの命令でアリスのフォローに回っていたミュリアの頑張りが功を奏したのか、復活したアリスが唐突にトウヤたちの頭の中に声を投げかけた。
 少し声を荒上げているアリスの言葉に口論していたユウとクラリスは口を閉じ、馬鹿げた口論を止めた。
 そして、アリスが「すぅ〜」と、息を吸うと、

 〈女は乳じゃない! トータルバランスよ!〉

 そう言い張り。
 しばらく「はぁはぁ」と、荒い息遣いが頭の中に鳴り響く……。
 アリスの突飛な発言にユウとクラリスは揃って首を傾げ、トウヤは顔を俯かせながら額を押えた。

 [——私の不手際でアリスが少し発狂してしまったようですわ……]
 〈誰が発狂したって? てか、アンタのそれ……何?〉

 詰め寄るような低い声色でアリスがフォローに回ってくれたミュリアに噛みつく。

 [ちょ、アリス……。どこ、触って——ひゃっ!]
 〈ただの脂肪の塊じゃない。これのどこが良いってのよっ〉

 アリスが何かを確かめる度にミュリアの艶美な吐息がトウヤたちの頭の中に響き渡る。

 [……アリ、ス……。——強い]
 〈ふむ、案外……。しかし、片手でも持て余すほどとは……〉
 [ん……やめっ……っ!!!!]

 「プツン」と、そこで交信が切れてしまった……。
 彼女らのやり取りをただただ静観するしかなかったトウヤたちだったが、各々違った反応を見せていた。
 
 ユウは自分の手の大きさを確かめるようにまじまじと見つめ、クラリスは自分の胸に両手を置いて何かを確かめ……。トウヤに至っては何かを想像しているのか、目をつむり鼻の下を伸ばしながらその何かを揉むように両手を動かす……。

 「はっ!」

 と、ようやく我に返ったのか。トウヤが開眼し。そして、気付く。
 ——俺たちはここに何をしに来ているのだと……。